第10話「夏の日・2」
昼食後、クロエと別れた。
「では、引き続きお願いしますね」
クロエは黒の革手袋をひらひらと振り、大型バンで去っていった。
「さて、調査再開しますか」
アキラが伸びをしながら、バネッサに言う。
「そろそろ、遊びに出てくれないかなあ」
◆ ◆ ◆
午前中、アキラとバネッサは、ターゲットの家に向けて何度もセンサーの魔法波を打った。
「どう思います、バネッサさん」
「おかしな反応は、全くないですね」
片方の反応は母親だろう。
普通に家事をしている動きだ。こちらは問題ない。
ターゲットは二階にいる。
おそらく子供部屋だ。
室内で多少の動きはあるが、大抵は一か所から動かない。
宿題でもしているのだろう。
バネッサとアキラは、違う性質のセンサーを使い、ターゲットの反応に不審な点がないことを確認した。
安全な状態では、ターゲットが魔法波を無効化するといった現象は観測できなかった。
少なくとも、今のところは。
◆ ◆ ◆
午後。
ターゲットが、リュックを背負って家から出た。
双眼鏡で彼の姿を追う。
町はずれの方向へ走っていき、公園で友達二人と合流した。
「……今日は友達と一緒かあ」
アキラがぼやく。
「まあ、仕方ないですね」
ターゲットは、一人でも川遊びをしていることがあるらしい。
調査をするにあたり、一人でいてくれる方が好都合ではあった。
「ですね。とりあえず先回りしましょう」
アキラが、軽自動車のエンジンをかけた。
子供は元気だなあ。
バネッサは数時間、物陰から子供たちが川辺で遊ぶ姿を観察していた。
定期的にセンサーを起動しながら、ターゲットの動きを見る。
テンションが上がっている状態でも、魔法波に反応することはなかった。
アキラも、違う地点で同様の観測をしているはずだ。
一日にも満たない調査では断言できない。
それでもバネッサは、ターゲットがセンサーを無効化する能力を持っている可能性は低いと見ていた。
夕暮れ時。
少年たちは、そろそろ帰る様子だった。
バネッサには、自分の目で確認しておきたいことがあった。
アキラが話していた、認識阻害装置を見破ったという件。
あれを確認したい。
川岸の小道を、ターゲットと友人たちがこちらへ向かってくるのを遠目に確認した。
その横の川の中に、大きな石がある。
バネッサはその石に座り、待ち構えた。
クロエに貸してもらった、強力な認識阻害装置を起動する。
さあ、どうなるか。
しかし、少年たちは途中で足を止め、何やら騒ぎ出した。
ええ。
何してるの。
早く近づいてほしい。
しばらくして、小道を歩いてくる少年たちを見て、バネッサは作戦の失敗を知った。
ターゲットの少年は、友達が捕まえた沢蟹の入ったバケツと、かっこよく曲がっている木の枝に夢中だった。
こちらには、目もくれない。
大きな石に座る美人のお姉さんは、沢蟹と木の枝に負けたのだ。
◆ ◆ ◆
その晩。
赤だしの味噌汁を飲みながら、アキラが言った。
「あの時、大きな沢蟹を見つけたみたい」
「……子供って、興味が湧くとすぐよそ見するんですね」
アキラは心の中で、あなたも同類だけど、と思った。
口には出さなかった。
「アイディアは良かったけど、やっぱり一人の時を狙わないと厳しいですね」
「確かに。明日は一人で遊んでくれないかなあ」
山菜の炊き込みご飯を食べながら、バネッサは少し不機嫌にぼやいた。




