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傭兵隊長クセノフォン  作者: 世間の果て
第十四章:世間の果て
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寄生虫の王

 燃え上がるギリシャの村。

 茅葺きの屋根から噴き出す炎が、乾燥した風に乗って横へ横へと這い広がる。赤い舌が石壁を舐め、黒い煤が空へと立ち昇る。

 その炎の熱と光が、クセノフォンの網膜をチリチリと焼く。瞬きをしても、裏側に赤い斑点がこびりついて離れない。


 足元の土は、豚の血と引きずり出された内臓の粘液で黒くぬかるんでいる。そこを、無数のすり減ったサンダルが行き交う。男たちが両腕に抱えきれないほどの麦袋と、生焼けの肉塊をぶら下げて歩き回る。彼らの顔は煤と脂でテカテカに光り、目は異常なほど見開かれている。


 背後。

 クセノフォンの青銅の甲冑の裏側。分厚い革の裏地と皮膚の間に挟まった空間を、冷え切った汗の玉がゆっくりと這い下りる。炎の熱気を真っ向から浴びているのに、背骨の溝だけが氷を押し付けられたように冷たい。ひどく不快な温度差。筋肉が微かに痙攣する。


 彼は略奪を止める号令をかけていない。

 それどころか、先ほど副官に、村の裏手にある隠し倉を徹底的に探すよう顎で指示を出したばかりだ。村人の悲鳴をBGMに、効率的なカロリーの収奪作業が事務的に進行している。


 右手の平。

 血と泥と豚の脂にまみれた指が、無意識のうちに腰の短剣の柄を固く握りしめている。ギリギリと音を立てるほど強い力で。指の関節の皮が白く突っ張り、皮膚の下で青い静脈が不気味に浮き上がる。異常な握力。柄の装飾の凹凸が手の肉に食い込み、痛覚が脳に信号を送るが、指を開くことができない。


「俺たちは……祖国に帰ってきたんじゃなかったのか」


 傍らに立つ若いアテネ出身の兵士が、うわ言のように呟いた。

 男の両手には、村の女から奪い取った銀の首飾りと、まだ温かい豚の腸が握られている。その矛盾した二つの物体を見つめる男の瞳孔は、完全に開ききっていた。


 祖国。

 アテネ。市場(アゴラ)の白亜の柱。ペリクレスの演説。ソクラテスの問答。

 クセノフォンの胃の底で、消化されかかった半焼けの豚肉が重くのしかかる。酸っぱい胃液が食道をせり上がり、喉の奥をチリチリと焼いた。


「帰ってきたさ」


 クセノフォンは、炎から目を逸らさずに答えた。声のトーンはひどく平坦で、自分でも誰の口から出た音かわからないほど無機質だった。


「俺たちの祖国は、俺たちの胃袋の中にある」


 若い兵士が、弾かれたようにクセノフォンの横顔を見る。

 クセノフォンは短剣の柄を握る力をさらに強めた。柄が折れるのではないかというほどの圧力。


「それ以外はすべて、ただの狩り場だ」

 アテネの法を語る市民は死んだ。

 バビロンの泥、アルメニアの雪、そしてトラペズスの閉ざされた青銅の門の前で、完全に死滅した。

 今ここに立っているのは、ギリシャ文明という巨大な宿主に寄生し、その内臓を食い破る病の王だ。一万の胃袋という名の猛毒を統べる指揮官。


 彼らはもう、二度と「市民(ポリーテース)」には戻れない。

 この一万人の怪物は、平和な社会の枠組みの中では絶対に生きられない。カロリーを消費し、暴力を生産し続けることでしか存在を維持できない巨大な生体機械。

 トラペズスの商人たちが彼らを城外へ締め出したのは正しかった。門を開ければ、このウイルスは都市の骨格を一瞬で融解させていただろう。


 風向きが変わる。

 焦げた肉の臭いと、燃える藁の煙が直接顔面に叩きつけられる。

 クセノフォンは咳き込むのを堪え、大きく息を吸い込んだ。煙の粒子が肺胞に突き刺さる。痛い。だが、その痛みが彼を現実に繋ぎ止める。


 この一万の暴力装置を、次は誰に売る。

 スパルタか。トラキアの王か。あるいはペルシャの別の太守か。

 ギリシャ全土が、没落と果てしない内戦の泥沼に沈んでいく。その泥沼の中で、彼らは最も安価で、最も凶暴な消費財として使い潰されていくだろう。


 右手の指から、ようやく力が抜ける。

 短剣の柄から手を離すと、手のひらにはくっきりと柄の跡が白く残っていた。血流が戻り、ジーンという痺れが走る。


「全部奪え。燃やせるものは燃やせ」

 クセノフォンは、群がる兵士たちに向けて冷たく言い放った。

「明日歩くためのカロリーを残すな。この村を完全に削り取れ」


 病の王の絶対命令。

 一万の寄生虫たちが、歓喜の咆哮を上げて炎の中へさらに深く突っ込んでいく。

 彼らの帰還は、祖国を内側から食い殺す、終わりのない略奪の始まりに過ぎなかった。

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