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傭兵隊長クセノフォン  作者: 世間の果て
第十二章:規律という名の神
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算術としての演説

 泥の上で痙攣を止めた男。その喉の穴から流れ出た液体が、地形のわずかな傾斜に従ってゆっくりと広がる。

 表面積が広がるにつれ、血は急速に熱を奪われる。縁のほうから黒ずみ、ゼラチン状に凝固していく過程。その表面を、冷たい風が舐めるように滑り抜けた。

 風が運んできたのは、古い鉄が錆びる時の強烈な匂いだ。

 三百の鼻腔が一斉にその匂いを吸い込んだ。

 次の瞬間、窪地の底に異様な合唱が響き渡る。

 グルルル。ギュー。キュルキュル。

 三百個の胃袋が一斉に痙攣し、空っぽの胃壁を擦り合わせる音。胃酸が逆流し、食道を焼きながら上がってくる酸っぱい響きだ。まるでアテネの郊外の泥沼で、交尾期を迎えた何百匹もの醜い蛙が鳴いているようだった。蛙。緑色のぬめった皮膚。右の後ろ足が欠損した個体を昔見た。なぜ欠損していたのか。水鳥のクチバシに千切られたのか。どうでもいい。今はあの蛙どもが、この三百の男たちの腹の中に詰まっている。


 クセノフォンは口を開いた。

 声帯の粘膜が極度に乾燥している。肺の底から空気を押し上げると、喉の奥で硬い金属片同士がこすれるような、平坦で温度のない摩擦音が鳴った。

「俺を殺せ」

 ざらついた音声。自分の口から出た音だという実感がまるでない。他人の顎の骨を無理やり動かして喋っているような不快感。

「俺を殺して、この六十キロの肉を全員で分ければ、今日一日は腹が膨れる」

 三百の濁った眼球が、クセノフォンの首筋に一瞬だけ集中した。彼らは頭の中で本当に肉を三百等分する算術を猛烈な勢いで回している。一人あたり二百グラム弱。骨と内臓の汚物を引けば、もっと少ない。

「だが明日は誰が道を探す。明日、お前らのその短い足をどっちに向けて動かせばいいのか、誰が計算する?」

 群衆の最前列にいた、ボロボロのマントを羽織った男が口の端を歪めた。マントの縁がほつれ、三本の長い糸が風に揺れている。なぜ三本だ。奇数は気持ち悪い。ハサミで切り揃えたい。ハサミなどない。猛烈にイライラする。

「規律は腹を膨らませてくれないぞ」

 マントの男が唾を飛ばして言った。飛ばされた唾が弧を描き、泥の上に落ちた。落ちた部分の泥がほんの数ミリ凹む。

「なんだっていいんだよ」男は突然、卑屈な笑いを浮かべた。「村の麦? あるのかそんなもの。俺はただ、安心したいんだ。お前が俺たちを無事に豚小屋に導いて、腐ったパンでもいいから豚の餌を食わせてくれるって約束しろ。俺たちはアテネの市民なんかじゃない。誇り高い豚さ。だからお前が飼育員になれ。餌さえくれれば、俺は喜んで隣のやつの寝首を掻いて、そいつの肉をお前に献上してやる」

 飢えからの解放という最低の欲望。それを隠すどころか、誇らしげにひけらかす醜悪な自虐。


 クセノフォンは声帯の振動を少しだけ強めた。喉の奥でチクッと微細な毛細血管が破れるのを感じた。血の味が滲む。

「そうだ。お前らは豚だ」

 平坦な肯定。

「俺も豚だ。だが、俺は最も計算の早い豚だ。だからお前らの首輪を握っている」

 神。ゼウス。正義。

 そんなものはアテネの神殿の柱の裏に吐き捨ててきた。

「いいか。規律などという甘ったるい言葉を使うな。あれはただの自動装置だ。規律だけが、明日略奪する村までお前らの肉体を運ぶんだ」

 男たちの顔つきが変わる。「略奪する村」という具体的なカロリーの提示。

「神は我々を見捨てていない、なんて言えば、お前らの萎縮した脳味噌は安心するんだろ? ゼウスの雷霆がお前らの胃袋にこんがり焼けた羊肉を降らせてくれると。ふざけるな」

 言葉が暴走する。頭蓋骨の中で冷たい歯車が回り続ける。

「ゼウスは今頃オリンポスで昼寝をしている。俺たちを救うのは、俺の計算と、お前らのすり減った足の裏だけだ」

 嘘と真実のグロテスクな混合。神を否定しながら、統制のための絶対的な権力として「俺」を神の座に据える極悪な論理。

「一人で歩けば、お前らはただの野垂れ死にする虫だ。だが一万の塊になれば、それは世界を食い荒らす巨大な顎になる。俺がその顎を動かす。お前らはただの歯だ」

 歯。男たちは自分の歯並びを舌で確認するかのように、口をもぐもぐと動かした。欠けた歯。虫歯で黒ずんだ奥歯。歯茎から滲む血の味。

「勝手に動く歯は、抜く」

 クセノフォンは足元の死体を顎でしゃくった。

 死体の首から流れ出た血は、泥の窪みに沿って細い川を作り、クセノフォンの右足のサンダルのつま先を濡らしていた。

 血がサンダルの革に染み込む。冷たい。硬く乾いていた革が、不自然に柔らかくなる感触。親指の爪の間に、血を含んだ泥が入り込んでいる。不快だ。後でこすり落とさなければならない。小石でこするか。いや、乾いた砂の方がよく落ちるはずだ。

「俺の肉を食うか。それとも明日、村の倉を叩き壊して麦を食らうか。選べ」

 計算式は提示された。

 これ以上の説明はカロリーの無駄だ。

 胃袋の収縮音が、徐々に小さくなっていく。

 三百の黄色く濁った眼球が、再び「頭部」の命令を受信し始めた。

 ソフトウェアの強制的な再インストール。

 バグを起こして暴走した脳髄に、「俺に従えば明日カロリーが手に入る」という極めて単純なコードが上書きされる。法も道徳もいらない。生き残る確率の計算だけが、獣の群れを再び軍隊という名の生体機械に引き戻す。

 喉が渇いた。

 喋りすぎたせいで、舌の裏側が上顎に完全にへばりついている。無理に引き剥がそうとすると、ペリッという嫌な音が口内で響いた。

 マントの男が、黙って半歩引き下がった。ほつれた三本の糸が、まだ風に揺れていた。引きちぎるべきだ。いや、どうでもいい。

 クセノフォンは息を吸った。肺胞が冷たい空気で膨らむ。ただの物理的な作業だ。


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