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傭兵隊長クセノフォン  作者: 世間の果て
第十章:一万人の怪物
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焼け野原の経済学

 北への行軍。黒い土の上に、点在する泥と藁の塊。村だ。

 一万人の胃袋が、その泥の塊へ向かって雪崩れ込む。

 門はない。腐りかけた木の柵。先頭の男たちが蹴り倒す。木の割れる乾いた音。軍隊の制圧ではない。ただの巨大な咀嚼器官の侵入だ。


 広場の中央。円形の石臼。

 男たちが群がり、奪い取った麦をそのまま叩き込む。ゴリ、ゴリ、ゴリ。石と石が擦れ合う鈍い摩擦音。粉塵。白茶けた粉が空中に舞い上がり、数日風呂に入っていない男たちの脂ぎった顔面にべったりと張り付く。まつ毛の先まで粉まみれになり、彼らはアテネの貧民街の安パン屋の幽霊の群れに変貌する。

 誰かが、挽きかけの粉を両手ですくい、直接口にねじ込んだ。

 咀嚼。唾液が足りない。粉が塊になり、気管を塞ぐ。

「ゲホッ、ゴオッ」

 男が咳き込む。鼻の穴から白い粉が吹き出す。籾殻の尖った破片が喉の粘膜を容赦なく引っ掻く。チリチリとした出血の痛み。男は血の混じった唾と一緒に粉の塊を土に吐き出し、すぐにまた次の粉を口に突っ込む。


 泥壁の小屋の陰。

 日焼けしてひび割れた皮膚の老人が、両腕で素焼きの壺を抱え込んでいる。壺の表面には、指の垢で黒ずんだ無数の手擦れの跡。種籾だ。来年の春に蒔くための、村の命脈。

 アカイア人の槍兵が歩み寄る。槍は使わない。穂先がこぼれるのを嫌ったのだ。彼は足元から手頃な石を拾い上げた。いびつな、潰れたカブの形をした灰色の石。

 老人が何かを叫ぶ。ペルシャ語か、この地方の土着の言葉か。意味を成さない空気の振動。

 アカイア人は無言で石を振り下ろした。


 ゴッ。

 湿った、そしてひどく重たい打撃音。

 老人の側頭部が陥没する。頭蓋骨の砕ける感触が、石を持ったアカイア人の手首から肘へと抜けていく。白髪の交じった薄い頭髪が、石の表面にこびりついた赤黒い液体にべったりと張り付く。

 老人は痙攣すらしない。ただの肉の袋となって泥の上に崩れ落ちた。素焼きの壺が転がり、中の種籾が地面に散らばる。ヤギの糞と麦の粒が混ざり合う。

 アカイア人は老人の顔を見ない。ただ、泥にまみれた種籾を両手でかき集め、自分の革袋に乱暴に詰め込み始めた。


「この村にはもう種籾すらない。冬を越せずに全滅するぞ」

 顔の半分を白い粉で汚した若い兵士が、鼻をすする湿った音を立てて呟いた。

「明日のことは、明日略奪する村が心配すればいい。俺たちの明日は俺たちの胃袋の中にある」

 アカイア人が、革袋の紐をきつく縛りながら吐き捨てる。彼の右手の中指の爪の間には、老人の頭皮の破片が白く詰まっている。彼はそれを歯で噛みちぎり、地面にぺっと吐き出した。


 未来の消滅。

 生産。蓄積。再分配。

 それらは定住する人間の娯楽だ。

 歩き続ける一万人の肉塊に、明日の概念はない。

 彼らは土地に根を下ろさない。ただ通過し、その空間に存在するカロリーを文字通り根こそぎ吸い尽くす。食い荒らされた後には、潰された頭蓋骨と、かまどの灰と、意味を持たない石ころだけが残る。


 クセノフォンは、広場の端の壊れた荷車に腰掛け、その光景をただ網膜に記録し続けている。

 胃の底で、さっき無理やり飲み込んだ未消化の麦粥が、胃酸と混ざって重苦しい熱を発している。ゲップが出る。胃液の酸っぱい臭いが鼻腔に抜ける。

 ふと、アテネの路地裏の光景が脳髄に点滅する。

 疫病。

 黒い血を吐いて積み重なっていた市民たちの死体。あの時アテネを覆い尽くした、甘ったるい死臭と排泄物の混じった淀んだ空気。

 俺たちはアテネの咳だ。

 ピレウス港から這い上がり、市民の肺を食い破ったあの見えない熱病。それが今、青銅の鎧を着て、ペルシャの辺境を這いずり回っている。

 害虫。厄災の歩行。

 クセノフォンは右手の指先で、自分の顎に生えた不揃いな髭のジョリジョリとした感触を確かめた。髭の一本一本の根本に、脂と砂がこびりついている。

 罪悪感はない。

 あるのは、自らが圧倒的な破壊の現象そのものに成り果てたという、乾ききった事実の受容だけだ。

 男たちが村の備蓄庫に火を放つ。

 黒い煙が、病的に白茶けた空に向かって太い柱を立てる。

「進むぞ」

 クセノフォンは立ち上がる。足首の痛みが、また少しだけ麻痺の度合いを深めていた。歩行を再開する。背後で燃え上がる村の熱は、三歩も歩けばもう冷たい風にかき消された。次だ。次のカロリーを探す。巨大なムカデは止まらない。

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