新しい頭部の接続
「ウオォォ……」
野営地のあちこちから、地鳴りのような唸り声が上がり始めた。
恐怖の排泄物として垂れ流されていたパニックが、怒りと生存本能という一つの太い束へと収束していく。
クセノフォンは荷車の上で、一万人の視線の集中砲火を浴びていた。
網膜に映る、無数の眼球の白い濁り。
彼らの瞳孔は極限まで開き、瞳の奥に狂気の松明が灯っている。
圧倒的な人いきれ。
恐怖の冷や汗から、闘争への発熱に伴う酸っぱい汗へと、匂いの壁が野営地全体を完全に覆い尽くす。
クセノフォンの肺が、その濃密な空気を深く吸い込んだ。
「俺を見ろ!」
一挙手一投足に反応して、一万の呼吸が一斉に止まる。
不気味な真空状態。
風の音すら、彼らの無言の圧力に押し潰されて消えた。
「プロクセノスの首はあそこに転がっている!」
クセノフォンは、灰の中に落ちている金髪の肉塊を槍の先で指し示した。
「あれはもはや、我々の将軍ではない。我々をペルシャの天幕に売り渡した、ただの腐った肉だ!」
男たちの視線が、一斉に泥の上の首へと向かう。
かつて彼らを率い、高尚な遠征を語った頭部が、ただの物体として認識される瞬間。
「我々には頭がない! 指揮官も、契約主も、アテネの法も!」
クセノフォンの声が、冷たく、そして強烈な磁力を帯びて響く。
「ならば、俺が新しい頭になる」
荷車の上で、クセノフォンは両腕を広げた。
「俺は若く、経験もない。だが、俺の胃袋はお前たちと同じように空っぽだ! そして、この空っぽの胃袋を満たすための最も効率的な計算式を、俺の脳はすでに弾き出している!」
彼の言葉は、もはや人間の体温を持っていなかった。
それは、巨大な生体機械の稼働を宣言するマニュアルの読み上げ。
「明日から、お前たちは俺の腕だ。俺の足だ」
指を突きつける。
「単独で動く細胞は切り捨てる。横の男と歩調を合わせない者は、敵の槍より先に、味方の槍で後ろから刺し殺されると思え!」
群衆の中から、血走った目をした老兵が叫んだ。
「俺たちが死んだらどうする! ペルシャの数万の軍勢が、すぐそこまで来ているんだぞ!」
老兵の首筋の血管が、恐怖と興奮で破裂しそうに浮き出ている。
クセノフォンは、冷ややかに老兵を見下ろした。
「死ぬ? 当たり前だ」
言い切る。
「部品は壊れる。一万のうち、何千かが砂漠の肥やしになるだろう」
残酷なまでの事実の提示。
慰めなど一欠片もない。
「だが、お前が死んで穴が空けば、後ろの男がその穴を埋める。それだけだ」
クセノフォンは、槍を自分の胸にドンと当てた。
「俺が死ねば、誰か別の奴が頭になれ。悲しむな。止まるな。前へ進む機能だけを残せ。我々は、北の海を目指して移動する、ただ一つの巨大な怪物だ!」
無償の愛国的献身。市民皆兵の誇り。
アテネの民主制が育んだ個人の尊厳は、この泥と血にまみれたバビロンの野営地で完全に抹消された。
クセノフォンが提示したのは、生存のためだけに稼働する、全体主義的怪物の設計図。
人間を、完全に交換可能な「部品」として扱う絶対命令。
それが、極限の飢餓と恐怖に怯える男たちにとって、どれほどの救いであったか。
「自分で考える」という恐怖から解放され、巨大なシステムの一部としてただ手足を動かすだけの安らぎ。
「ウオォォォォォ!!」
一人の咆哮が、一万の咆哮へと連鎖爆発を起こした。
「進め! 海へ!」
「ペルシャの豚どもを食い殺せ!」
青銅の丸盾と槍の柄が、一斉に打ち鳴らされる。
ガン! ガン! ガン! ガン!
不規則だった痙攣が、一つの巨大な心臓の鼓動へと変質した。
大地が揺れる。
夜明け前の空気を震わせる、暴力の産声。
クセノフォンは荷車の上で、その圧倒的な音の奔流を全身で浴びていた。
腹の底の空洞は、今や冷たく硬い殺意で満たされている。
彼はもはや、ソクラテスの弟子ではない。
アテネの市民でもない。
一万人の暴力のベクトルを統御する、冷徹な演算装置。
新しい頭部の接続は、完全に完了した。




