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傭兵隊長クセノフォン  作者: 世間の果て
第八章:宴のあとの静寂
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宴の始まり、遠ざかる足音

 バビロンの太陽が地平線の彼方に沈む。

 直後、空はどす黒い紫色の巨大な壁に変わった。

 熱が急速に砂から逃げていく。足の裏から、すり減ったサンダルの薄い革を通して、底冷えが直接這い上がってくる。足指の感覚が徐々に麻痺し、硬い土の感触だけが骨に直接響く。


 将軍五人。隊長二十人。

 計二十五の肉体が、ペルシャ陣営の巨大な天幕に向かって歩いていく。

 彼らの背中を覆う赤いマントが、夕闇と巻き上がる砂埃の中に次々と溶け込んでいく。その歩調はまったく揃っていない。それぞれが勝手なリズムで土を蹴る。腹を空かせた野良犬が、餌の匂いに釣られて尻尾を振りながら小走りになる。あの卑屈で滑稽なリズムだ。

 ザク、ザク、ザッ。

 乾いた土を踏みしめる音が、距離とともに薄れる。

 背筋を伸ばし、己の教養と威信を誇示しようと肩を張っていたプロクセノスの背中。それも、ただの薄汚れた赤い染みへと縮小し、やがて完全な無音の束の向こう側へと吸い込まれて消滅した。


 野営地。

 残された一万の群れ。

 頭部を切り離された巨大なムカデ。指揮系統は完全に停止している。

 あちこちで、先ほどの腐肉を胃袋に詰め込んだ男たちが、腹を抱えて地面の泥の上を転げ回っている。下痢便と胃液の混ざり合った酸っぱい悪臭が、冷えた空気の下層に重く沈殿し、逃げ場を失って滞留している。


 クセノフォンは丸太の上に座っている。

 両膝の間に、先ほどまで放り出していた青銅の丸盾を強引に挟み込む。右手の平で、槍の柄を強く握りしめる。

 冷たい。

 木の繊維に染み込んだ手汗が急激に冷え、指の関節を内側から強張らせる。

 胃の底。

 未消化の羊の脂身が、冷えた鉛の塊となって内臓を下へ下へと引っ張っている。重い。鈍い吐き気。横隔膜が不規則に痙攣し、その度に喉の奥から腐敗臭を含んだガスが漏れる。ゲップを噛み殺す。舌の裏側に酸っぱい水が溜まる。

 武器を手放さない。

 理由はわからない。論理的な予測など一切ない。ただ、手のひらの皮膚が槍の柄から離れることを強烈に拒絶している。皮膚細胞全体が、理由のない警報を鳴らし続けている。

 パン。

 すぐ横で焚き火が爆ぜた。乾燥したイラクサの枝。

 その乾いた破裂音が、異常なほど鼓膜の奥に突き刺さる。火の粉が舞い上がり、暗闇の空中で瞬時に冷えて黒い灰の粒に戻る。

 クセノフォンは首をわずかに傾けた。

 風の向きが変わった。ペルシャ陣営の方角から、生温かい微風が野営地に吹き込んでくる。

 弦楽器の音。

 羊の腸を引き絞った弦を、太い指で乱暴に弾く音。

 ビィン、ベェン。

 調律が完全に狂っている。音階を無視した不協和音が、夜の冷気の中を不気味に這い進んでくる。鼓膜の裏側を、錆びた金属の針で直接引っ掻き回されるような生理的嫌悪感。

そして。

 隣に座っていた欠けっ歯の男が、焚き火の灰を木の枝でつつきながら顔を上げた。

「ずいぶん静かだな」

 男の声は低い。炎の赤い光が、彼の顔の深いシワと、欠けた前歯の隙間の黒い影を不気味に浮かび上がらせる。


 宴会。

 酒と肉。二十五人のギリシャの将軍と隊長。ペルシャの太守。

 それらが一つの天幕の中で交われば、必ず発生するはずの音がある。

 安ワインの入った素焼きの杯がぶつかり合う高い音。酔った男たちの無意味な怒声。下品な笑い声。肉の骨を床の絨毯に投げ捨てる音。自慢話。論争。

 それらが、一切ない。

 完全な欠落。巨大な音の空白。

 聞こえてくるのは、狂った弦楽器の単調な不協和音だけだ。

 クセノフォンは槍の柄を握る右手にさらに力を込めた。指の関節の骨が皮膚を突き破りそうなほど白く変色する。

「ああ」

 喉の渇きで、自分の声が他人の声に聞こえた。掠れた摩擦音。

「宴会にしては、酒瓶が割れる音一つしない。行儀のいい豚たちだ」

 言葉を吐き出した直後、クセノフォンの右の耳たぶに、冷たい汗が一粒浮かんだ。


 風が強くなる。

 弦楽器の不協和音の隙間に、別の音が混じり始めた。

 鈍い。

 極めて物理的で、重力に満ちた反響。

 ドスッ。メチャ。

 金属の重い塊が、湿った分厚い肉の層を力任せに叩き潰す音。

 骨が砕け、肉の太い繊維が断ち切られる時の、特有の嫌な粘り気を持った音だ。

 声はない。悲鳴すら存在しない。

 ただ、規則的な打撃音だけが、不協和音の裏側で淡々と、ひたすら淡々と刻まれている。

 作業だ。

 屠殺場における、極めて事務的な解体作業。

 脳髄が思考を完全に停止する。アテネの論理。ソクラテスの問答。プロクセノスの教養ある楽観主義。そんなものは、この鈍い打撃音の前では紙切れ一枚の防壁にもならない。


 クセノフォンは自分の呼吸が完全に止まっていることに気づいた。

 肺の中に古い空気が滞留し、胸の奥が圧迫されて痛い。

 社会の「頭」。

 それを物理的に切り落とす儀式が、数百メートル先の分厚い布の向こう側で、一切の感情を排した作業音として進行している。

 皮膚が総毛立つ。

 腕の産毛が逆立ち、革鎧の下の背筋を、氷の粒が無数に滑り落ちていく。

 見えない。

 視覚が完全に遮断されていることで、聴覚と皮膚感覚が病的なまでに増幅される。

 ドチャ。

 また一つ。

 誰かの太い首の骨が断ち切られ、大量の血が絨毯にぶちまけられた音。クリアルコスの垢まみれの首か。プロクセノスの香油まみれの首か。


 誰の首かなど、どうでもいい。

 ただ、一万の胴体を統率していた太い神経束が、物理の刃によってブツリ、ブツリと正確に切断されていく現象だけがそこにある。

 静寂がこれほどまでに暴力的で、内臓を直接握り潰す力を持っていることを、クセノフォンは初めて知った。

 彼は吐き気を強引に堪えながら、ただ暗闇の中で槍の柄を握りしめ、自分たちの共同体の頭部が完全にスクラップにされる作業音を、両耳の穴を全開にして聞き続けていた。

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