前進する空洞
白茶けた地平線が、巨大な素焼きの鉢の底のように広がっていた。上から熱がのしかかってくる。大気は重く、透明な泥のようだったが、もうそんな比喩などどうでもよかった。
クセノフォンの足の裏は、三日前に死んだ。牛革のサンダルと角質の境目が、汗と砂でドロドロに溶け、どこまでが自分の肉でどこからがただの腐った革なのか、わからない。踏む。めり込む。引き抜く。腿から腰にかけて、鈍い痛みが上がってくる。骨がこすれる音が、ときどき耳の奥でする気がした。
前を歩くスパルタ兵の首筋に、親指大の黒い粉瘤があった。黄色い脂がにじみ、砂が固まって厚い皮をこしらえている。それが右に左に、歩くたびに揺れる。クセノフォンはそのひび割ればかりを見ていた。アッティカの海岸線みたいだと思ったが、すぐに忘れた。どうでもいい。ピンを刺して膿を絞り出したら、どんな音がするだろうか。そんな馬鹿げたことばかりが、頭の表面を滑っていく。
「水だ」
隣の欠けっ歯が言った。舌が上顎に張りついて、声がズウダと聞こえる。唇のひびから血がにじみ、顎を伝って黒く乾いていた。
「小便でも飲め」
クセノフォンの声は擦れて、喉の奥から鉄の味が這い上がってきた。
「俺たちはどこへ行くんだ」
欠けっ歯の目が黄色く濁っている。焦点など合っていない。ハゲワシの影を数えているのか、それとも頭の中の幻の水を眺めているのか。
「明日の飯がある場所だ。それ以上先を見るな。目が潰れるぞ」
昔、アテネの広場で老人が吐いていた言葉が、ふとよぎった。善とか、徳とか、魂の美しさとか。あんなものはこの熱風の中では一瞬で蒸発する。ただの音だ。脳のシワの間で、何かがプツプツと焼けていく感覚があった。知性が死んでいく。それは、意外と心地よかった。
ただ、熱い。
吸う息が、かまどの排気のように肺を焦がす。気管支が干からび、細胞が一つずつ潰れていくのが、はっきりわかる。吐くたびに、内臓が削られる。
背後には、もうユーフラテスの濁流はない。船もない。アテネの法廷も、銀貨と引き換えに捨てた。戻る理由など、最初からなかった。
左の列で、ボイオティアの兵が突然止まった。革帯の留め金を見つめ、何かぶつぶつ呟いている。真鍮が剥げ、下の黒い地金が顔のように見えたらしい。男は指でこすり、舌を伸ばそうと屈んだ。
次の瞬間、背後から青銅の盾の縁が飛んできた。
ボキッ。
鈍い音がして、男は前のめりに倒れた。後続の足が、その顔を容赦なく踏みつける。鼻の骨が砕ける乾いた音が、足音の合間に混じった。誰も顔をしかめない。ただの石か、倒木か。何か邪魔なものを跨ぐだけの、わずかな歩幅の調整。一万三千から、一つ減った。それだけ。
クセノフォンの胸の奥で、何かがぽっかりと開いた。
かつてそこにあったものは、もうない。対話とか、正義とか、そんな贅肉は全部溶けた。残ったのは真空だ。真空は、ただ暴力だけを吸い込む。
脳が、単純な指令だけを繰り返す。
歩け。
奪え。
食え。
胃が痙攣し、酸っぱい胃液が逆流する。クセノフォンはそれを飲み込んだ。貴重な水分だ。舌の根元が焼けるが、それも飲み下す。
地平線の向こうに、野営地があるはずだ。天幕の中に干したイチジクと、羊の肉と、新しいサンダルがある。
そこへ行く。それを奪う。この空っぽの胃に詰め込む。そのためなら、ゼウスの腸を引きずり出して首を絞めてもいい。神の血は、きっと喉の渇きを潤してくれる。
一万三千の肉袋が、同じ歩幅で地面を叩き続けている。
ザク……ザク……ザク。
個の輪郭はとっくに溶け落ちた。故郷の名前も、顔も、汗と一緒に流れ落ちた。ただの巨大な殺戮機械。その駆動音。
クセノフォンは自分の右腕を見た。日焼けと泥にまみれた、他人のような棒。ただ槍を握るための付属物だ。
彼は、もうその一部として、完璧に機能し始めていた。
空っぽの筒。
明日の朝飯のカロリーを計算するためだけの、ただの器官。
白く濁った太陽が、その表面を無慈悲に焼き続けていた。
バビロンの平野。白茶けた空。太陽はただの高温の金属円盤だ。
熱。
一万の青銅の装備。歩くオーブン。
クセノフォンの頭蓋骨は、コリントス式の兜のなかでじっくりと蒸し焼きにされている。




