第28話 決戦前夜
アルヴェリア領――屋敷の一室。
静かに扉が叩かれる。
「失礼いたします」
中へ入ってきたのは、シツジだった。
ヤコウは椅子に腰掛けたまま、軽く視線を向ける。
「どないしたんや」
シツジは一礼し、口を開いた。
「編成は完了いたしました。動ける者の選抜、および役割分担も済んでおります」
「早いな~、敏腕やん」
ヤコウは小さく笑う。
「それと反王国派の形成についてですが――おそらく、あちらにいるお嬢さんとレイ殿がすでに構想を練っているかと存じます」
「あんたもそう思うか」
「私は、いざという時の腹案として準備を進めておきます」
無駄のない判断だった。
ヤコウは腕を組みながら頷く。
「助かるわ」
そして、シツジはもう一歩踏み込む。
「加えて――今回、二日で到着することを事前に伝えておくべきかと」
ヤコウは一瞬考え、すぐに答えた。
「たしかにそうやな……ただ、兄貴たちに伝える手段がない。時間もないしな」
「それについては、お任せください」
シツジは静かに言う。
「私の伝書鳩を使用いたします」
「それは助かるわ。頼むで」
「承知いたしました」
一礼し、シツジは部屋を後にする。
扉が閉まった後、ヤコウはぽつりと呟いた。
「……ほんま、あの人優秀やな」
◇
――ガルドリア王国、ヤコウの商会。
窓辺に一羽の鳩が舞い降りた。
「……?」
気配に気づいたエリシアが振り返る。
鳩の脚には、小さな筒。
「伝書……?」
取り外し、素早く中身を確認する。
そこに書かれていたのは――
「……二日後……いえ、明日……?」
思わず声が漏れる。
想定よりも、あまりにも早い。
だが同時に――
「……助かります」
状況が一気に動く。
エリシアはすぐに下の階へ向かった。
「すみません!」
商会の者たちに声をかける。
「明日、こちらに皆さんが到着します。門の外まで迎えに行き、そのままここへ案内していただけますか」
「任せてください!」
即答だった。
エリシアは小さく息を吐く。
(これで――準備は整いますね)
それから数時間後。
扉が開き、レイたちが戻ってきた。
「……っ」
エリシアは思わず目を見開く。
「こんなに早く……どうされたのですか」
レイは軽く手を振る。
「心配するな。話はつけてきた」
「話……?」
「国王とな」
その一言で、空気が変わる。
レイは簡潔に決闘の内容を説明した。
三対三。
獣闘儀。
勝てば制度廃止、負ければ永久拘束。
すべてを聞き終え、エリシアは静かに頷く。
「……なるほど」
だがすぐに、現実的な疑問を口にした。
「ですが……レイ様は非戦闘員ですよね……無謀なのでは……」
当然の指摘だった。
しかしレイは、わずかに笑う。
「安心しろ。それについては考えてある」
迷いのない声。
エリシアは一瞬だけ沈黙し、そして頷いた。
「……なら、いいのですが」
エリシアは手紙を差し出す。
「それと――こちらをご覧ください」
レイは目を通し、口元を上げる。
「いいタイミングだな……向こうにもできる奴がいるらしい」
サーニャが口を開いた。
「……たぶん、私の元執事だね」
その言葉に、レイは納得するように頷いた。
「なるほどな」
その後、明日の決闘についての最終確認が行われた。
役割。
立ち回り。
勝ち筋。
すべてを共有し終えた後、一度解散した。
◇
別の部屋でサーニャとルミナが向かい合っていた。
しばらくの沈黙の後、ルミナが口を開く。
「……サーニャ」
声が震えていた。
「ガルムのこと、覚えてる?」
「……ああ」
「……あいつに妹を人質に取られてたの」
サーニャは少し驚いた様子だった。
「“婚約者”って形で……逃げられないように」
絞り出すような声だった。
「あなたへの攻撃も……知ってた。でも……止められなかった」
視線が落ちる。
「逆らうと妹に……なにされるか……怖かった」
そして――
「……ごめんなさい」
大粒の涙が床に落ちた。
ルミナの肩は震えている。
ずっと抱えてきたものが、ようやく溢れた瞬間だった。
サーニャは、しばらく黙ってそれを見ていたが――
やがて静かに口を開く。
「……仕方ないよ」
優しい声だった。
「でも……今度こそ助けてくれるんでしょ?」
ルミナは顔を上げる。
涙でぐしゃぐしゃになりながらも、何度も頷いた。
「……うん……うん……!」
その様子を壁の向こうでレイは静かに聞いていた。
その時だった。
視界に見慣れた画面が浮かび上がる。
(……来たか)
前日比が表示される。
ーーーーーーーーーーーーー
サーニャ +金貨10枚
ミレア +金貨8枚
ヤコウ +金貨2枚
ーーーーーーーーーーーーー
久しぶりの“増加”。
しかも、複数人同時。
「……なるほどな」
それぞれのステータスを確認する。
変化は明らかだった。
ヤコウ以外――才能ランクが上昇している。
(ヤコウは元のランクが高いからな……時間がかかるんだろう)
そして、サーニャ。
その数値を見た瞬間――レイの表情が変わった。
「……おい、マジか」
剣術ランクが「B+」から――「A+」へ一気に跳ね上がっている。
「……」
次の瞬間、レイは部屋を飛び出した。
(もしかしたらとは思っていたがこれは……)
バンッ!!
勢いよく扉を開ける。
同時にサーニャとルミナが振り返る。
「サーニャ!」
レイが一歩踏み込む。
「お前――怪我、完治してるんじゃないか!?」
その言葉にサーニャは目を見開いた。
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