第27話 裏切りの謁見
「……作戦は決まりました」
その一言に、全員の視線がエリシアへと集まる。
「正面から堂々と入ります」
レイは眉をひそめた。
「……どうやってだ」
エリシアは力強く答える。
「ルミナさんにレイ様とサーニャ様を“捕らえた”ことにしてもらいます。四天王が直々に連行する形を取れば、突破は容易です」
「なるほどな。確かにそれなら堂々と入れる」
エリシアは頷き、そのまま続ける。
「ミレア様は影から監視と不測の事態への対応、私はこの後合流するヤコウ様たちに説明と協力を取り付けます。そして――」
そこで言葉を切り、ゆっくりとサーニャへ視線を向けた。
「無事、王の前まで到達した時点でサーニャ様に動いていただきます」
意味を理解したレイが、低く呟く。
「……王を人質にするのか」
エリシアは静かに頷いた。
短い沈黙の後、レイは笑う。
「面白い。国王に条件を飲ませられればいいが……失敗すれば即詰みだな」
だが、その声音に迷いはなかった。
サーニャはゆっくりと立ち上がり、ただ一言告げる。
「……やろう」
「では、さっそく私はルミナにこの作戦を伝えてきます」
そういうとミレアは再び、ルミナのところに向かった。
◇
そして翌日――ガルドリア王国。王城前。
重厚な門の前に、一人の女が立っていた。
四天王ルミナ。
その両腕には、力なく抱えられたレイとサーニャの姿があり、完全に捕縛されたかのように見えるその光景に門番の兵士たちは明らかに動揺していた。
「開けなさい」
低く、揺るがぬ声。
その一言で場の空気が変わる。
「ル、ルミナ様……それは……」
兵士の一人が恐る恐る問いかけるが、ルミナの鋭い視線がそれを遮った。
「見て分からないの?反逆者を捕らえたのよ」
その冷たい一言に兵士たちは顔色を変え、慌てて姿勢を正す。
「し、失礼いたしました!」
重い音を立てながら門が開かれ、道がゆっくりと現れる。
ルミナは、そのまま城内へと歩みを進めた。
城内に入った瞬間、周囲の空気は一変した。
兵士や使用人たちの視線が一斉に集まり、ざわめきが波のように広がっていく。
「……捕まったのか」
「四天王が直々に……」
その声を背に受けながらも、ルミナは一切立ち止まることなく、ただまっすぐに王の間へと進み続ける。
止める者はいない。
止められる者も、いない。
やがて辿り着いた王の間。
玉座に座る国王は、ゆっくりと目を細め、その光景を見下ろしていた。
「……ほう」
口元が歪む。
「よくやった、ルミナ。これでようやく厄介な虫どもを処理できる」
満足げな声が響いた瞬間――空気が変わった。
「――今だ」
レイの低い声。
次の瞬間、サーニャの身体が弾けるように動く。
誰一人反応できないまま、その刃が国王の喉元へと突きつけられた。
「なっ……!?」
遅れて兵士たちが一斉に武器を構えるが、サーニャは微動だにしない。
「動くな」
その一言で、場のすべてが凍りついた。
「動くと王の命はない」
完全な制圧。
だが――国王は、笑っていた。
「……なるほど」
低く、愉快そうに呟く。
「ルミナ、裏切ったか」
怒りではない。
むしろ、この状況すら楽しんでいるような声音だった。
「それで?」
ゆっくりと視線をレイへ向ける。
「何を望む」
レイは一歩前に出て、はっきりと言い切る。
「測定器制度の廃止。それと、俺たちの捜索の即時停止だ」
広間は静寂に包まれた。
そして、国王は笑った。
「……つまらん。それでは何も変わらんぞ」
重く響く言葉。
「それにだ。仮に私をここで殺したところで、この国の価値観は変わらない。強さがすべてという思想は、すでにこの国に根付いている」
続けて国王は言う。
「どうせならば、この国のやり方で決着をつけようではないか」
空気がさらに張り詰める。
「どのみち、貴様らもここから出られるまい。それを受けるなら、お前たちをここから解放してやる」
「……いいだろう。方法はなんだ」
レイが問う。
国王はゆっくりと立ち上がり、不敵な笑みを浮かべた。
「至ってシンプルだ。決闘だ。そして我々が勝てば、お前たちは永久に測定器として生きてもらう」
その言葉に、場の空気が一層重くなる。
そして――視線がルミナへ向く。
「裏切り者。お前はこの時をもって四天王の称号を剥奪する」
ざわめきが広がる。
だがルミナは、微動だにしない。
「……好きにすればいいわ」
サーニャの刃は揺るがず、ルミナもまた覚悟を決めたまま立っている。
国王は満足げに頷いた。
「では、交渉は成立だ」
ゆっくりと振り返り、玉座へ戻る。
「どちらが強いかを決める、神聖なる決闘……獣闘儀で決着をつけよう」
そして告げる。
「こちらは四天王二人と私――対するはお前たち三人。そして決闘の場は、この街の決闘場」
国王は一拍置く。
「日時は――明日の正午だ」
確かに戦いの気配が満ちていく。
――明日、すべてが決まる。
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