第26話 次なる一手
薄暗い部屋の中、向かい合う二つの影。
ルミナは静かに口を開いた。
「……あなたがここにいるということは」
わずかに視線を細める。
「やはり、ガルムを倒したのはサーニャなのね」
その言葉にミレアは一切の迷いなく頷いた。
ルミナは小さく息を吐いた。
「そう……」
その声には驚きよりもどこか納得したような響きがあった。
「今、ゼルドたちが国中であなたたちの捜索を行っているわ。見つかれば……間違いなく殺される」
「でしょうね」
あまりにもあっさりとした返答にルミナは一瞬だけ目を見開いた。
「……怖くないの?」
「怖いですよ。でも、それ以上にやるべきことがあります」
ミレアの目は、真っ直ぐだった。
ルミナはしばらく黙った後、問いかける。
「……あなたたちは、一体何をするつもりなの?」
その問いに、ミレアは一拍置いてから答えた。
「この国の“価値観”を変えます」
「価値観……?」
ルミナは眉をひそめる。
「どういうこと?」
「強さだけで人の価値が決まるこの国の思想そのものを壊すということです」
静かだが、確固たる意志を感じさせる言葉。
だがルミナには、すぐには理解できなかった。
「……そう」
部屋に沈黙が落ちる。
その静寂の中で――ルミナの肩が、わずかに震えた。
「……よかった」
ぽつりと、声が漏れる。
そして次の瞬間、ルミナの目から涙がこぼれた。
「サーニャも……あなたも……生きていてくれて……本当によかった……」
堪えていたものが、溢れ出す。
「私は……何もできなかった……あの時……助けられなかった……」
後悔の言葉が、途切れ途切れにこぼれる。
ミレアはその様子を静かに見つめた後、ゆっくりと口を開いた。
「あなたが優しいことは、知っています」
ミレアは続ける。
「でも、今こうしてまた会えた。それで十分じゃないですか」
その言葉に、ルミナは何も言えなかった。
「……それより」
ミレアは一歩踏み込む。
「私たちに協力してくれませんか」
まっすぐに見つめる。
その視線からルミナは目を逸らさなかった。
そして――
「……もちろんよ。今度こそあなたたちのために!」
迷いなく答えた。
場面は変わり、アルヴェリア領。
ルーカスたちが到着した翌日、ヤコウ率いる一団も無事に合流していた。
救出された者たちはこれまでと同様、温かい食事を与えられ、ようやく落ち着きを取り戻しつつあった。
一方で屋敷の一室では三人の男が向かい合っていた。
ヤコウ、ルーカス、そしてアルフレッド。
議題は――今後の動きについて。
「今日到着した者たちも含めて考えるとやな」
ヤコウが腕を組みながら言う。
「動けるようになるまで最低でも三日は必要や。そこから移動で一日……計四日やな」
ルーカスの表情が曇る。
「……四日も」
「兄貴たちが向こうで耐えられるか、って顔やな」
ヤコウは軽く笑う。
「まあ、あの人らなら何とかするやろ」
楽観とも信頼とも取れる言葉。
そのときだった。静かに扉が開く。
「失礼いたします」
現れたのは、一人の男。
整った身なり、落ち着いた物腰。
「……あんた誰や?」
ヤコウが問いかけると男は一礼した。
「申し遅れました。私はサーニャ様の元執事――シツジと申します」
その名に、ルーカスが反応する。
「サーニャ様の……」
「この度は、救出および食事の提供、誠に感謝いたします」
丁寧な所作で言葉を紡ぐ。
「サーニャ様のため、我々にできることがあれば何なりとお申し付けください」
その姿勢に、ヤコウは一瞬だけ目を細めた。
「……ほんなら」
口角を上げる。
「四日後にここを発つ予定や。その時にガルドリア王国に戻れる人員と役割、決めといてくれへんか」
シツジはわずかに考える。
「……四日、ですか」
静かに呟いた後、顔を上げる。
「それでは、あちらに残っている方々の安否が懸念されます」
「せやな」
「全員である必要がないのであれば、先行部隊を編成すべきかと」
その言葉に、ヤコウはにやりと笑う。
「……ええやん」
「それで、私たちはサーニャ様のために何をすればよろしいでしょうか」
「……やってもらうことは一つや」
少し身を乗り出す。
「ガルドリア王国の住民をこっち側に引き込むことや」
ルーカスが息を呑む。
「無理やりやない。あんさんらの言葉で“こっちにつくべきや”と思わせるんや」
「……つまり、反現王国派の形成ですね」
「そういうことや」
シツジは静かに頷いた。
「理解いたしました」
そして一礼する。
「では、二日後を目安に動ける者の選抜、および派閥形成のための協議を進めてまいります」
そう言い残し、部屋を後にした。
扉が閉まる。
ヤコウは腕を組みながら、ぼそりと呟いた。
「……今、二日後言うたか?あの人めっちゃ有能ちゃうか?」
――ガルドリア王国。
レイは一人、静かに考え込んでいた。
(……昨日のマイナス)
サーニャのステータス。
前日比、金貨二枚の減少。
その理由を、彼は仮説として組み立てていた。
(あの怪我……あれが原因か)
視線を横に向ける。
眠るサーニャの姿。
(だとすれば……回復すれば戻るのか?)
だが、それは確証のない推測に過ぎない。
答えは出ない。
「……どうされました?」
エリシアが声をかける。
「いや、ちょっとな」
レイは軽く頭を振る。
「それより、今後の動きだ」
二人は向かい合う。
「この包囲網の中で王城に入るのは、ほぼ不可能です」
「ああ。かといって正面突破はリスクが高すぎる」
「はい。さらに、彼らがいなくなった影響で街は混乱しています。民衆の動きも予測しづらい状態です」
エリシアも頭を抱えていた。
今回の作戦の“難しさ”はこれまでとは違った。
「……少し休もう」
エリシアも頷いた。
そして夜。偵察に行っていたミレアが戻ってきた。
「戻りました」
「どうだった」
「街は混乱しています。捜索隊と測定器の不在に不満を持つ住民で溢れています」
それからミレアは続ける。
「さらに、捜索には四天王も直接関わっています」
「……厄介だな」
「それと――ルミナの存在を確認しました」
その瞬間、ベッドの上でサーニャが反応した。
「……ルミナ?」
身体を起こす。
「彼女は……今、四天王なのか」
ミレアは頷く。
「彼女はサーニャさんと私を助けられなかったことを後悔していました」
サーニャの目が揺れる。
「それから朗報です。ルミナが協力してくれます」
「それは大きいな」
レイが口を開く。
「現四天王がこちらにつくってのは、相当デカい」
エリシアも頷く。
そして、ゆっくりと顔を上げた。
「……ルミナさんがこちらに着いてくれるのであれば、諦めていた作戦が使えます」
レイたちはエリシアを見る。
「ここにいる全員、堂々と正面から王城へ入りましょう」
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