彼方より来たり
「もうっ! バカバカバカ! ほんとバカ! 信じらんない! なんでノックしないの!? バカなの!? 死ぬの!?」
「すまない。したんだが届いていなかったようだね。次からは強めに叩くよう心がけるよ」
「うう~」
なんだそれ。気がつかないほどあたしはポーズを取るのに夢中だったということか? 恥ずかしくて顔から火が出そうだ。穴があったら、いや、無くても掘って入りたいぐらい。
しかもただでさえ男の人に裸を見られるとか想像するだに羞恥の極みなのに目の前に居るいつぞやの彼はあたしが柄にも無く一目惚れしかけた人物である。もはや自殺モノだ。もしも目撃者が悪人だったらとっくに記憶を消し飛ばして無かったことにしているだろう。
「言い訳にしかならないが先程のことはまだ目を覚ますとは思っていなかったことから起きた不幸なんだ。本当に悪かったよ」
「う、うん、まあ、そこまで言うんだったら許してあげないこともない」
うずくまるあたしを見て重ねて頭を下げてくる彼。
原因の一端は無防備過ぎたこっち側にもあるのでなんだか申し訳無くなってきたけど逆に謝るのも実害を被ったこちらとしては違うような気もして、恥ずかしさと共にかろうじてそんな言葉を出すのがあたしの精一杯だった。
「そう言ってくれると助かるよ。それで、傷の具合はどうだい?」
「お腹がちょっとまだ痛むぐらいかな。他は完治完璧問題無し」
毛布の下で手をお腹に当ててさする。空洞が出来てたはずのそこには今はもう何も無く、ほんの少しの鈍い痛みがあるだけだ。
ちなみにあのあと、悲鳴をあげられるだけあげたあたしはきゃあきゃあ言いながら脇目も降らずにベッドに退避して全力で毛布をかぶった。現在身体を彼の視界から遮っているのはその一枚のみである。
「お腹の傷は特に深かったからね……本来であればすぐに完治する雫の方を使ってあげたかったんだが、希少な上に今は様々な諸事情があって持ち合わせがなかったんだ。変わりにワルドリーフの葉で時間をかけて治すしかなかった。そのことについても許して欲しい」
「時間をかけて、ってどのぐらい?」
「一晩」
「はぁっ!?」
雫だとかワルドなんとかの葉だとか聞き慣れない単語が出てきたけどとりあえず治すのに時間がかかったようなニュアンスの言葉が気になった。無いとは思うが数ヶ月数年単位で眠りについていた可能性を考えると少し怖くなったのだ。なのに経過時間について聞いてみたら遥か斜め上の返答が返ってきた。
「ああ、あれからもう一晩だ。朝どころか昼も過ぎているよ。……あー、でも普通の人の感覚としては『まだ』といったところなのかな?」
「え、え? 何? つまり、風穴空いてたあたしの胴体ってほんの数時間かそこらで治っちゃったってコト?」
「そうなるね」
「何が『そうなるね』、だよっ! おかしいでしょ絶対! 現代医学どこ行った!」
葉っぱ巻いて放置しとけば治るんだったら世話は無い。医者とか要らなくなるんじゃなかろうか?
「驚くのも無理は無いけど実から取れるワルドリーフの雫はもっと凄いよ? 数秒で腕ぐらいなら生えてくる」
「なにそれ気持ち悪ッ!」
ピッ○ロかっ!
得体の知れないものを使われていつの間にかあたしの血、紫色とかになってたりしたら超ヤダ。
「心配しなくても副作用の類は無いよ。葉も雫もね」
「そりゃあとっても安心」
肩をすくめて皮肉げにおどけてみせる。副作用の有無が本当かどうかは知らないけれどわざわざ助けてくれたんだからその点については話してくれた通りだろうとして保留しておくことにする。少なくとも今すぐどうこうなることは無いはずだ。
しかし、相手の全てを信用するかは別の話。
「……ねえ? なんでそんな簡単にそれだけ凄い――常識外れな薬のことあたしに話してくれたの? どう考えても口外して良い類の話じゃないと思うんだけど?」
我ながらさりげなくとは言えないレベルで随分と踏み込んで探りを入れたものだ。これでは「こちらはあなたを疑ってますよ」と言っているようなものである。ヤブヘビな感じで映画の三文脚本よろしく「どのみち君これから死ぬから」と答えが返ってきたら一気に死へのカウントダウン短縮だ。ただ、腹の探り合いが苦手な自分としては後で抱え込んだ爆弾に知らずに起爆されるよりかは警戒できてる内にタイマーを見た方が対応できるという判断である。
仮にもし本当に爆弾だっとしても先のワルドリーフとやらについて説明してくれたことに納得はできる。が、違った場合はなぜ話してくれたのかについて疑問が残るが故の問いかけだ。
「そう警戒しないでくれ。危害を加えるつもりはこれっぽっちもないよ。ワルドリーフの葉について話したのは仲間を救ってくれた恩人に嘘をつくのも心苦しかったからさ。それに1晩しか経ってないのもいずれ知られることだから本当のことを話した方が信用してもらえるかなと。あと、言いふらされたところで大きな問題にはならないからだね。信じてくれると思うかい? 植物の葉を包帯で巻いていたら大怪我が治った、なんて」
「……現物を持っていけば別だと思うけど?」
「生憎とそれは出来ないと思うよ。見てごらん」
彼が指差した先には床に落ちた青い葉がある。あたしが包帯を取った時に一緒に落ちた奴だ。心なしかキラキラと煌めいているように見える。
そのまま見ているとゆるやかに砂が風に運ばれて消えるように青い葉は端から形を崩して空気に溶けてしまった。机にまとめて置いてあったものもいつのまにか消えてしまっている。役目は果たしたと言わんばかりの潔い消えっぷりだった。あんびりーばぼー不思議植物。空いた口が塞がらない。
「ね?」
なるほどごもっとも。
確かにマンガじゃあるまいし、モノが無いのにそんなことを大真面目に吹聴して回っても狂人の類と思われるだけだ。もしくはヤク中。
言い分としては問題が無かった上にこちらを信用していただけということみたい。
「………………はぁ~~」
大きく息を吐いて肩の力を抜く。
とりあえず警戒するのはヤメだ。
そもそもあたしをどう扱うつもりでいるかは別としてこの人は昨日テアちゃんを救ってくれたのだ。現状はそれだけで信用するに足る十分な証拠だ。
「分かった。疑ってごめんなさい。それと……助けてくれてありがとう」
謝罪と共に感謝を。思えば彼には昨日からお礼を言いっぱなしだ。
「――どういたしまして」
瞬間ドキリとした。彼がいつも湛えていた微笑みが少しだけ深まったからだ。
たったそれだけ、たったそれだけであたしの心臓が早鐘を打ち始めた。もうバックンバックンだ。
「くそぅ卑怯だ。なんだってこんなことで……」
毛布を胸元で握りしめて顔を逸らして聞こえないように呟く。たぶん茹でダコ状態。恥ずかしくって目を合わせられない。わざとやってるんだったらとんだ腹黒だ。
「何だい?」
「何でもないっ! もうっ! ……えーと、一杯聞きたいことはあるんだけどまずは教えて。テアちゃんは?」
無理矢理追求の手を断ち切って一番気になっていたことを問いかける。彼の様子からして無事だとは思うけれどこの目で確かめるまでは安心はできない。
「ああ、テアなら今頼りになる護衛と一緒に買い出しに出かけているよ。君の服がボロボロだったから替えを手に入れに行っている。そろそろ――」
「おねいさんっ!」
勢い良く扉が開いたと思ったら猪のような速度でこちらを目指してくる姿があった。そのままぶつかるようにあたしの胸に飛びついてくる。ちょっとお腹の傷が痛んだけれどそんなことどうだっていいぐらいその人影を見てあたしの心は歓喜に満たされていた。
「ひっく、うっぐ、うええええ、うぇぇえええん」
「テアちゃん、良かった……」
飛びついてきたのはテアちゃんだった。あたしの胸に顔を擦りつけて人目をはばからず泣きじゃくっている。すっごく心配させてしまったみたいで申し訳ないやらこそばゆいやら苦笑しながら彼女の頭を撫でた。ピンと張った狐耳が心地よい手触りを伝えてくる。見れば打たれた頬もあたし同様傷跡も無く完治したみたいで、これからが楽しみな幼い美貌を損なわずに済んだようだ。
この元気な姿を見れただけでも身体を張った甲斐があったというものだろう。
「ぐすっ、それはこちらのセリフなのです。心配させて……ぐすっ……おねいさんはひどい人なのです」
「ごめん。ちょっと無茶しちゃった。でも二人共無事なんだし結果オーライってことで許して?」
「謝るのもこちらの方なのです……あんなに大怪我をさせてしまいました……」
「こーらっ! そこは言うことが違うでしょ?」
「おねいさん……」
テアちゃんは頭をあたしの胸に預けたままいつまでも泣き止まずぐすぐすしていた。あたしは困ったように彼女の髪をなで続ける。途中でぽそりと、さっきあたしが彼に言ったようなことを彼女も言った。まったく、最初の懐疑的にこちらを窺ってきていた様子からしてみれば随分と心を許してもらえたものだ。
「……凄いな。テアは割と人見知りするんだよ? それが私達と離れていたあんな僅かな時間でここまで懐くなんてね。一体何をしたんだい?」
「別に。大したことはしてないつもり」
本当に……本当に偶然、怪我をしているこの子を見つけてあげて、手当をしてあげて、あとは勝手に居なくなっちゃったからいてもたっても居られなくて追っかけて、それから危険な存在から守ってあげようとしただけだ。
自分からしてみれば当たり前のことをしただけなのだが、口に出すと恩着せがましく聞こえる気がして細かなことは何一つ言わない。
けど彼は額面通りには受け取らなかったみたいで、物理的に温度を感じれそうなぐらいの生暖かい視線と共に本当に嬉しそうな微笑みを向けてきた。
「何よ?」
「いや、うん、やはり君は信用できそうだ」
「――お待ちくださいクロ様」
黒一色の彼の横に、いつの間にか炎のような女性が現れていた。
彼もテアちゃんも驚いた様子を見せない事から、さっき彼が言っていた頼りになる護衛というやつなんだろう。その証拠に黒色の彼に対して臣下の礼を尽くすように跪いている。裾が地に広がったレッドコートは舞えば翻るものでありながら重厚さを感じさせる鎧のようで、片膝をついて頭を垂れるその姿はさながら西洋の騎士のようだった。
「お帰り、シリス。……それで、待てというのは?」
「ハッ、恐れながら申し上げます。この者は信用するに足るとは思えません」
「………………ふむ」
「!! 違うのですシリス姉さま! この人は、この人はっ……!」
シリスと呼ばれた綺麗な女性が言い放った内容に対し、庇うように反応したのはテアちゃんだ。擁護しようとしているもののあたしの疑わしさを否定しきるための材料が見つからずうまく言葉にならないみたい。そりゃそうだ。実際のところ触れ合ったのは数時間程度、言葉を交わしたのは1時間を切る。そんな短さ浅さでいかにも人間とは違う部位――狐耳――を生やしている自らをあたしが悪くしないようにしてくれる保障をしきれないのは当然だ。心情的にあたしを信じようとしてくれているのが分かるのはとても嬉しかったがその点についてはそれだけではどうにもならない。
おまけに、だ。
「テア、落ち着いてくれ。……それで、根拠はなんだいシリス? 恩人とも言える彼女を疑うべき理由は? 思えば君は昨夜合流した時から彼女についてあまり言い顔をしていなかったね」
「はい、至極簡潔な理由です。この者は異常です。少なくともただの人間ではありません。ただの人間があのガルガントスと生身で打ち合ったなどと言うことはありえない」
そう、あたしには不審で済ますには余りに見過ごせない部分がある。肉体強度の人間離れっぷりだ。どこに行ったってあんな怪物と肉弾戦を繰り広げられるような奴は居ない、が、自分はそれをやってのけてしまった。
もしかしたら今目の前に居る彼らならそれも出来るのかもしれない。化け蜘蛛からあたしとテアちゃんを助け出してくれた彼らなら。けれど、いやだからこそ余計にあたしという存在が奇異に映っているはずだ。
「ガルガントスってあのでっかい蜘蛛? 打ち合っただなんてとんでもないない。あたしは終始ボコボコにされながら逃げ回ってて、ただ助けが来るまで時間を稼――」
「虚偽の申告は自分の身を不利にするだけと知りなさい。あなたの両腕に集中した擦過傷と裂傷、打撲傷。立て続けに同じ箇所に攻撃を当てられなければああはなりません。打ち合ったか受け続けたか。どちらにせよ常人にできることでは無い」
「………………」
「あなたは何者ですか? …………いえ、単刀直入に言いましょう。我々は我らアルヴィアン以外でそのような所業を出来る存在を知っています。――――あなたは『エデフ』ですね?」
「エデフ?」
「惚けるのもそこまでです。解が一つしか無い以上それが答え…………であれば、こちらの解もひとつのみ」
「え?」
「死になさい」
刹那、紅い死の線があたしの首めがけて迸った。余りに唐突で余りに理不尽な死だった。
それが到達していたら確実にあたしの命が無かっただろう。
けれど、それが実際にあたしに届くことは無かった。
シリスがいつの間にか抜き放った剣を甲高い音を立てながらも受け止めた者が居たからだ。
「…………どうして」
テアちゃんだ。いつの間にか取り出した小振りのナイフを掲げて、チリチリと焦がすような熱を放出するシリスの紅剣を受けとめている。
彼女は震える声で泣きはらしていた瞳に再び涙を溜めてシリスをキッと睨みつけた。
「どうしてこんなことをするのですか、シリス姉さま!」
「簡単なことです。エデフの手の者なら生かしておく理由が無い。むしろ早めに始末するべきです。あれらは我々にとって害悪でしか無い」
「この人は違うのです。この人はテアを拾ってくれました。手当をしてくれました。ご飯を作ってくれて、服を着せてくれて、信用出来ないと逃げ出したら心配して追いかけてきてくれました。最後にはあのガルガントス相手にボロボロになるまでテアを庇ってくれました。そんな人が、テア達を害虫としか思ってないような奴らと一緒だとはテアには思えないのです」
「それらが全て演技だとしたらどうでしょうか? 何もかもがあなたを騙すための偽りだったとしたら?」
「ありえません。テアの心が感じたあの暖かさはきっと嘘なんかではありません」
そのまま2人はお互い目を逸らさず対峙し続けた。数秒から数十秒程度もの間だっただろうけれど、場に満ちる緊張感からかもっと長かったようにあたしは感じた。
「そこまでだ、二人とも武器を収めなさい」
不意に静寂が破られる。黒色の彼だった。
「聞けません。この者は危険です。……お二人には黙っていましたが、彼女の身体にはウィルフロウが形成されています。十中八九エデフと関わりがあります」
「ウィルフロウが、か……うん、それなら彼女の異常な身体能力にも頷ける。だけどそれだけでエデフと決め付けるのは早いな。何事にもイレギュラーな事態は存在するし、何より私もテアと同意見だ。彼女が彼らと一緒だとは思えない」
「クロ様、ですが……」
「――くどい。私は彼女を信用すると言った。その言葉に変更は無い。それに彼女への敵対行動も早計な上短絡的だ。今後は戒めろ」
「……ハッ、浅慮でありました。以後、改めます」
折れぬシリスに対し、黒色の彼は柔らかだった雰囲気を一変させて氷で出来た刃のような冷たさを見せた。いつもとは違うギラついたスカイブルーの眼は有無を言わせぬ迫力があった。凄く優しい人だと思っていただけにその二面性を垣間見たあたしは驚いた。あんな表情も出来るのかと動揺したのだ。
「すまなかったね、シリスが失礼な真似をした」
「うぇっ、えっと、その、あ、あたしも誤魔化そうとしてごめんなさい。昔っから悪目立ちするとまずいからって、癖がついちゃってて……」
「まだ私は完全に信用したわけではありません。ただ、先ほどの一撃への反応はとてもエデフとは思えない鈍さであるのも事実。処断については保留しているだけということをお忘れなきよう」
「鈍くて悪うござんした」
シリスは武器を仕舞い(剣をどこに隠したかは不明)、警戒するようにこっちを向いて未だにぴりぴりしている。それが当たりまえの様な気はするけれどすぐに仲良くなれる気がしない。デレるまでは時間かかりそう。というか果たしてデレる時は来てくれるのだろうか?
テアちゃんも武器を下ろして緊張を解いている。シリスの挙動が気になるようでたまにちらちらと盗み見ているがあたしと目が会ったら向日葵が咲くように笑顔を見せてくれた。かぁいいなぁもう!
「さて、いいかな? 君を知りたい。君は自分の身体の異常がいつからなのか、原因は何なのか心当たりはあるかい?」
不意打ちで言われて再びドキリとする。気になっている男性から『君を知りたい』だなんて言われてドギマギしない女の子がこの世に居るだろうか? いや、居ない。断言しよう。
「ど、どっちも無いよ。物心ついた時からだし……でも年々強化されていってるような感じはある、かな。原因についてはさっぱり」
「能力については自覚的であるのに理由がわからない、か。心珠やウィルフロウという単語に聞き覚えは?」
「しんじゅ?」
「心に珠と書くんだが知らないかい?」
「んーん、聞いたこと無いよ。……あー、でもガルガントスって化け蜘蛛が言ってたような言ってないような? ウィルフロウってのはさっき聞いたのが初耳」
「……そうか。やはり君はイレギュラーな存在のようだね。我々かエデフか、そのどちらかが関わっていることは間違いなさそうだが、何らかのトラブルで君が幼い頃に管理者の手を離れてしまった、というところだと思う」
「あたしが?」
何だか実感が沸かない。目の前に居る人たちやあの化け蜘蛛と関わりがあると言われてもイマイチぴんと来ない。マンガや小説の主人公が「あなたの正体は~」と言われてきょとんとしてしまうのもむべなるかなとシンパシーを感じているぐらいだ。
強いて言えることと言えば化け蜘蛛の同類と告げられるよりも彼らの仲間であると教えられた方が嬉しいということぐらいだろう。
「うーん、いきなり言われても、って感じ」
「君にとっては突然な話だろうからね。無理も無いよ。……ああ、そうだ。いつまでも『君』とかじゃ呼びづらいから名前を教えてくれないかな?」
「その前にちょっと待って。あたしもあなた達の事が知りたい。人の名前を尋ねる時は、って言うじゃない? まずはあなた達のことを教えて」
こっちだって聞かれてばかりじゃたまらない。彼らがあたしに興味があるのと同じかそれ以上に、あたしも彼らのことが気になってしょうがないのだ。
「……そうだな。思えば自己紹介もまだだった。いいよ。まずは君の隣に居るのがテア。テア・フォクスリート。さっき君に剣を向けたのがシリス・エレアベインだ」
「あなたは?」
「私はクロ。ただのクロだ。そう呼ばれている」
「クロ……」
なぜだろう。彼の名前はすとんとあたしの中に落ちた。ずっと前から知っていた気さえする。それほどしっくりときたのだ。
たった二文字の響きを反芻しつつ次に紡ぐべき質問を考える。色々と聞きたいことが有りすぎてパンクしそうだ。何もかもわからないことだらけで沸騰しそう。そんな思いが強かったからか、意図せずして唇から言葉が漏れ出てしまった。
「……あなた達は何なの?」
「………………君はラピュタ事件を覚えているかい?」
クロは少し何かを考えるように椅子に座って組んでいた足を組み直し、逆に質問を被せてきた。その問いに答えるためにはまずはその答えが必要だとでも言うように、だ。
「うん、覚えてるよ」
忘れるわけない。まだ1ヶ月程度のことだ。あれは世界に激震が走った。
「そうか、それなら話が早い。私達はアルヴィアンと呼ばれている者達で――」
と、彼は一区切り置いてから言った。
「その空に浮かぶ島から来たんだ」




