主人公になれない俺
いつも読んでいただきありがとうございます。
今回は、
この作品の空気が少し変わる回です。
ここまでラブコメと百合中心で進んできましたが、
“旅”としての物語も、
少しずつ動き始めます。
そして今回、
レンが初めて真正面から
「主人公になれない自分」
を突きつけられます。
それでも立ち上がる理由を、
ぜひ見届けてもらえたら嬉しいです。
それでは、第38話。
よろしくお願いします。
その日。
街の空気は、妙だった。
「……静かすぎる」
リオンが呟く。
レンも周囲を見回した。
昼の市場。
本来なら人で溢れている時間だ。
なのに。
誰もいない。
店は開いている。
料理の匂いも残っている。
まるで。
さっきまで普通だった世界から、
“人間だけ”が消えたみたいだった。
「レン」
フィオの声。
振り向くと、金色の瞳が僅かに揺れている。
「……魔力、変」
「魔物か?」
「分からない。でも嫌な感じする」
ミアが無意識にフィオの袖を掴む。
その表情には、いつもの照れじゃなく不安があった。
レンは喉を鳴らす。
嫌な予感がした。
すると。
ぞわり、と。
空気が冷えた。
「――っ!?」
黒い霧。
いつの間にか、
石畳の隙間から滲むみたいに広がっていた。
それは生き物みたいに街を這う。
嫌な気配。
本能が警鐘を鳴らす。
「下がれ!」
レンが叫ぶ。
次の瞬間。
霧が、人の形になった。
真っ黒な騎士。
顔はない。
剣だけを持っている。
「うわ、絶対強いやつじゃん……」
リオンが引きつった声を出す。
すると騎士が、ゆっくりレンを見る。
その瞬間。
頭の奥に、声が響いた。
『お前は選ばれない』
「――っ!?」
レンの身体が止まる。
声は続く。
『勇者になれない』
『最強にもなれない』
『女にも選ばれない』
「っ……!」
胸がざわつく。
嫌な声だった。
でも。
どこか、“自分の中の声”みたいでもあった。
『お前は脇役だ』
「レン!!」
ミアの声で我に返る。
騎士が目の前まで来ていた。
「危なっ!?」
剣が振り下ろされる。
ギリギリで避ける。
石畳が砕けた。
「はぁ!? 威力おかしいだろ!!」
「レン、右!」
フィオが叫ぶ。
次の攻撃。
レンは転がるように回避する。
強い。
今までの魔物と空気が違う。
「リオン!」
「分かってる!」
リオンが短剣を抜く。
一瞬で騎士の背後へ回った。
速い。
そしてそのまま首を狙う。
――が。
「なっ!?」
剣が止められた。
しかも片手で。
「うそだろ!?」
騎士がリオンを蹴り飛ばす。
「ぐっ!!」
「リオン!」
壁へ叩きつけられる。
レンの背筋が冷える。
まずい。
本気でまずい。
すると騎士が再びレンを見る。
『お前には何もない』
その言葉。
なぜか反論できなかった。
勇者じゃない。
特別な力もない。
フィオやミアみたいに強くもない。
リオンみたいに器用でもない。
じゃあ俺は何なんだ。
その時。
「レン!!」
フィオの声。
振り向く。
騎士の剣が、ミアへ向かっていた。
「っ!!」
考えるより先に身体が動く。
ミアを突き飛ばす。
直後。
衝撃。
「――がっ!!」
視界が揺れる。
熱い。
肩が切れていた。
「レン!!?」
ミアの叫び。
地面へ膝をつく。
痛い。
でも。
「……は、はは」
レンは小さく笑った。
なんだ。
できるじゃん。
勇者じゃなくても。
最強じゃなくても。
身体は勝手に動くんだ。
仲間を守るためなら。
騎士が止まる。
初めて。
“レンを見る目”が変わった気がした。
レンは震える足で立ち上がる。
「……うるせぇよ」
『――』
「主人公じゃなくてもいい」
剣を握る。
怖い。
めちゃくちゃ怖い。
でも。
後ろには仲間がいる。
「俺は、こいつら守るから」
第38話、ありがとうございました。
ついに“大きな敵”が動き始めました。
今回の敵は、
ただ強いだけじゃなく、
相手の心の弱い部分を抉ってくるタイプです。
特にレンに対しての、
* 勇者になれない
* 選ばれない
* 主人公じゃない
という言葉は、
たぶんレン自身が一番気にしていた部分なんですよね。
だからこそ、
かなり効いています。
でも今回大事なのは、
そんなレンが、
“特別だから”じゃなく、
“守りたいから”前に出たこと。
この作品、
実はずっと
「勇者になれない主人公」の話でもあります。
ハーレムにもなれず、
最強でもなく、
選ばれた存在でもない。
それでも、
仲間のために立ち上がる。
そこが、
レンの主人公らしさなのかもしれません。
そしてもちろん、
ミアとフィオは次回かなりキレます。
レンを傷つけられたので。
次回もよろしくお願いします。




