嫉妬は恋人の特権?
いつも読んでいただきありがとうございます。
今回は、
“恋人になったあと初めての嫉妬”回です。
好きな人が他の誰かに向けられる瞬間って、
自分でも驚くくらい感情が先に動いたりしますよね。
付き合ったから終わりではなく、
むしろここから、
「相手を特別に思う気持ち」がどんどん形になっていきます。
少し甘めな空気を楽しんでもらえたら嬉しいです。
それでは、第33話。
よろしくお願いします。
市場通りは朝から賑やかだった。
果物の匂い。
焼き立てのパン。
行き交う人の笑い声。
旅の街らしい、明るい空気。
「ミア、見て」
フィオが小さく声をかける。
振り向くと、露店に並んだ銀細工を見ていた。
「綺麗」
「ほんとだ……」
陽の光を反射して、小さな装飾品たちがきらきら揺れている。
その中に、一つだけ目を引くものがあった。
細い銀の指輪。
中央に青い石が埋め込まれている。
「似合いそう」
気づけば、ミアはそう呟いていた。
「フィオに」
フィオが少し目を丸くする。
「……そう?」
「うん。絶対似合う」
白い指に、きっと綺麗に映える。
そんなことを考えていたら。
「お姉さん、恋人に贈り物?」
店主がにやにやしながら言った。
「っ!?」
ミアが固まる。
「えっ、いや、その……!」
「恋人です」
フィオが即答した。
「言うの早い!!」
店主は楽しそうに笑う。
「いいねぇ、若い恋人さんは」
ミアは顔を覆いたくなった。
でも。
“恋人”って言われるのは、嫌じゃない。
むしろ少し嬉しい。
するとフィオが指輪を見つめる。
「……ミアは?」
「え?」
「欲しいものないの」
「えぇ!?」
急に振られて焦る。
「いやいや、別にそんな!」
「恋人だから、何か欲しい」
「その言い方ずるい!」
本当に最近、遠慮がなくなってきた。
フィオは静かそうに見えて、
一度決めたら真っ直ぐ来るタイプなのかもしれない。
すると。
「へぇ」
横から知らない声。
二人が振り向く。
そこにいたのは、若い女性冒険者だった。
長い赤髪を後ろで結んでいる。
「可愛い子連れてるじゃん」
「っ」
その視線がフィオへ向く。
瞬間。
ミアの胸がざわついた。
「あんた、旅人?」
女性は気軽にフィオへ話しかける。
距離が近い。
しかも自然にフィオの髪へ触れようとした。
その瞬間。
ミアは反射的にフィオの腕を引いた。
「……!」
フィオが小さく目を見開く。
女性も驚いた顔をした。
ミアはハッとする。
「あ……」
やってしまった。
完全に嫉妬だった。
しかも反射。
女性は数秒きょとんとしてから、ふっと笑う。
「なにそれ。独占欲強め?」
「ち、違っ……!」
「恋人?」
「……そう、ですけど」
言った瞬間、顔が熱くなる。
女性は面白そうに笑った。
「なるほどねぇ」
そう言って軽く手を振る。
「ごめんごめん。取ったりしないから安心しなよ」
そのまま去っていく。
ミアはその背中を見送りながら、頭を抱えたくなった。
「……最悪」
「最悪?」
隣から声。
フィオがじっとこちらを見ている。
「嫉妬してるみたいだった……」
「みたいじゃない」
「うっ」
否定できない。
フィオは少しだけ考えるように瞬きをしてから、小さく笑った。
「……嬉しい」
「なんで!?」
「特別って感じする」
またそれだ。
心臓に悪い。
するとフィオがそっと近づく。
「でも」
「……なに」
「私はミアがいい」
静かな声。
市場のざわめきの中なのに、その言葉だけ妙にはっきり聞こえた。
「他の人じゃなくて」
胸が熱くなる。
嬉しくて、苦しくて。
ミアは耐えきれず、フィオの袖をぎゅっと掴んだ。
「……もう」
「うん?」
「好きすぎるんだけど」
フィオは少しだけ目を丸くして。
それから、嬉しそうに笑った。
第33話、ありがとうございました。
ミア、
ついに反射でフィオを引き寄せました。
しかも本人より先に身体が動いているので、
かなり重症です。
でも今回大きいのは、
フィオがその嫉妬を“嫌がっていない”こと。
むしろ、
「特別って感じする」
と受け取っているところに、
この二人らしさが出ている気がします。
あと個人的に、
「私はミアがいい」
はかなり強い台詞でした。
静かなタイプが、
迷いなく一人を選ぶ瞬間って、
破壊力ありますよね。
ここから先は、
“好き”がもっと日常に溶けていきます。
でも同時に、
恋人だからこその不安や独占欲も少しずつ増えていく予定です。
次回もよろしくお願いします。




