恋人の距離感、むずかしい
いつも読んでいただきありがとうございます。
今回は、
“恋人になった直後のぎこちなさ”を書いた回です。
好き同士になれたのに、
今までより意識してしまう。
距離が近づいたはずなのに、心臓はさらに忙しくなる。
そんな、付き合いたて特有の空気を楽しんでもらえたら嬉しいです。
そしてカナデは相変わらず鋭いです。
それでは、第32話。
よろしくお願いします。
恋人になった。
……なってしまった。
「…………」
ミアは宿の鏡の前で頭を抱えていた。
昨日までは、
“好きかもしれない”
で済んでいたのに。
今は違う。
正式に。
ちゃんと。
恋人。
「無理では……?」
顔が熱い。
鏡の中の自分も真っ赤だった。
すると背後から声がする。
「ミア」
「ひゃっ!?」
反射で振り返る。
フィオが立っていた。
「なんで毎回そんな驚くの」
「フィオが急に近いから!!」
「近い?」
本気で分かってない顔だった。
いや、最近ちょっと分かっててやってる気もする。
フィオはゆっくり近づいてくる。
一歩。
また一歩。
「ち、近い近い近い!!」
「恋人だから?」
「その言葉強すぎるんだって!!」
フィオは小さく笑った。
完全に楽しんでいる。
「……でも」
フィオがそっと首を傾げる。
「嫌じゃない」
「うっ」
図星だった。
嫌じゃない。
むしろ嬉しい。
でも心臓がもたない。
「ミア、すぐ赤くなる」
「誰のせいだと……!」
「私」
「認めるんだ!?」
朝から調子が狂う。
すると突然、扉がノックされた。
「おーい、生きてる?」
カナデの声だった。
「っ!!」
ミアが飛び上がる。
「ちょ、ちょっと待って!!」
「?」
フィオは不思議そうだった。
「なんで慌てるの」
「なんでって……!」
恋人になった翌朝を見られるの、恥ずかしすぎる。
ミアは慌てて扉を開けた。
するとカナデがこちらを見る。
「……うわ」
「何その反応!?」
「いや、空気変わりすぎでしょ」
鋭い。
鋭すぎる。
カナデは半目で二人を見る。
「もしかして付き合った?」
「〜〜〜〜〜っ!!」
ミアが真っ赤になる。
終わった。
顔に全部出てる。
すると。
「うん」
フィオが普通に頷いた。
「言うの!?」
「だめ?」
「だめじゃないけど心の準備が!!」
カナデは数秒黙ったあと、吹き出した。
「ははっ、まじかぁ」
「笑うな!!」
「いやだって、フィオがこんな顔すると思わなくて」
「……顔?」
フィオが首を傾げる。
カナデは苦笑した。
「めちゃくちゃ幸せそう」
「!」
その瞬間。
フィオが少しだけ目を丸くする。
自覚なかったんだ。
ミアは胸がきゅっとなる。
でも。
「……幸せだよ」
フィオが静かに言った。
その視線が、まっすぐミアへ向く。
「リナといると」
「っ……」
駄目だ。
心臓が足りない。
カナデはそんな二人を見て、呆れたように笑う。
「はいはい、ごちそうさま」
「茶化すな!」
「いやでも安心した」
カナデの声が少しだけ柔らかくなる。
「フィオ、昔ほんと人寄せつけなかったから」
ミアは少し黙る。
その“昔”を、自分はまだ全部知らない。
でも。
フィオがそっと袖を掴んだ。
自然な動作。
恋人になってから、少し増えた癖。
「……今は違う」
フィオが小さく言う。
「ミアがいるから」
その言葉が嬉しくて。
ミアは照れ隠しみたいに、小さく笑った。
「……それ、反則」
第32話、ありがとうございました。
恋人になった二人、
まだ全然慣れてません。
特にミアは、
“恋人”という単語の破壊力に毎回やられています。
でも今回大きいのは、
フィオがかなり自然に「幸せ」と口にしたこと。
昔のフィオを知っているカナデだからこそ、
その変化の大きさが伝わる回になったと思います。
あと、袖を掴む癖。
これ、
フィオの中ではかなり無意識なんですが、
「離れたくない」が少しずつ行動に出始めています。
恋人になって終わりじゃなく、
ここから二人がどう“恋人らしく”なっていくのか。
まだまだ旅は続きます。
次回もよろしくお願いします。




