恋人になった朝
いつも読んでいただきありがとうございます。
第31話から、
二人の関係が“新しい名前”を持ち始めます。
ここまで長く、
触れそうで触れない距離を書いてきたので、
今回はそのぶん、静かな幸福感を大切にしました。
恋が始まった朝の空気を、
ゆっくり楽しんでもらえたら嬉しいです。
それでは、第31話。
よろしくお願いします。
朝。
最初に聞こえたのは、鳥の声だった。
窓の外から柔らかな光が差し込んでいる。
「……ん」
ミアはぼんやり目を開けた。
眠い。
でも、温かい。
そこでふと気づく。
近い。
何かが、すごく近い。
「……?」
ゆっくり視線を上げる。
至近距離に、フィオの寝顔があった。
「……………………」
思い出す。
昨日。
キスした。
しかも二回。
「っっっっっ!!!!」
ミアは声にならない悲鳴を飲み込んだ。
危ない。
朝から心臓が死ぬ。
しかも。
フィオの腕が、自然に腰へ回っていた。
「え、な、なんで抱き寄せられてるの!?」
混乱する。
昨日どうやって寝た?
記憶が曖昧だ。
たぶん途中から恥ずかしさで脳が壊れていた。
すると。
「……おはよ」
眠そうな声。
「ひゃっ!?」
フィオが目を開けていた。
しかも近い。
まだ近い。
「お、おはよう……」
「……顔赤い」
「フィオのせいだからね!?」
即答だった。
フィオは少しだけ笑う。
最近よく笑うようになった。
その変化が嬉しくて、また胸が苦しくなる。
「……ミア」
「な、なに」
「昨日の、夢じゃなかった」
「〜〜〜〜〜っ!!」
駄目だ。
朝から破壊力が高すぎる。
フィオはまだ少し眠そうなのに、言葉だけ妙に真っ直ぐだった。
「……キスした」
「言わなくていいから!!」
「したくなかった?」
「したかったけど!!」
反射で答えてしまってから、ミアは固まる。
終わった。
フィオはぱち、と瞬きをしたあと。
ふっと嬉しそうに目を細めた。
「……うれしい」
その顔。
本当にずるい。
ミアは耐えきれず毛布に顔を埋める。
「もう無理……」
「無理?」
「好きすぎて無理」
沈黙。
数秒後。
「……私も」
静かな声が落ちる。
ミアの心臓が跳ねた。
毛布からそっと顔を出す。
フィオは、少しだけ照れたみたいに視線を逸らしていた。
珍しい。
「フィオ、照れてる?」
「……少し」
「!!」
初めて見た。
いつも平然としているフィオが、
ちゃんと照れている。
それが嬉しくて、愛しくて。
ミアは気づけば笑っていた。
「……恋人みたい」
ぽつりと呟く。
するとフィオが、すぐにこちらを見た。
「みたいじゃない」
「え」
「恋人」
まっすぐな声だった。
ミアの呼吸が止まる。
「ミアが嫌じゃなければ」
少しだけ不安そうに付け足される。
そんな顔をされたら。
「嫌なわけないじゃん……」
声が震えた。
フィオの瞳が柔らかく揺れる。
「……じゃあ、恋人」
その言葉だけで。
世界が少し変わった気がした。
昨日までと同じ朝なのに。
触れている温度が、全部違う。
するとフィオがそっと額を寄せる。
「おはよう、ミア」
近い声。
近い熱。
ミアは顔を真っ赤にしながら、小さく笑った。
「……おはよう、フィオ」
第31話、ありがとうございました。
ついに二人、
ちゃんと“恋人”になりました。
でも劇的な告白ではなく、
朝の会話の中で自然にその言葉へ辿り着く感じが、
この二人らしいなと思っています。
個人的に好きなのは、
「みたいじゃない。恋人。」
のところです。
フィオって普段静かなぶん、
こういう真っ直ぐな一言が本当に強いんですよね。
そしてミアは、
とうとう「好きすぎて無理」まで言いました。
ここから先は、
“付き合うまで”じゃなく、
“付き合ってから”の物語になります。
恋人になった二人が、
どんなふうに距離を重ねていくのか。
これからも見守ってもらえたら嬉しいです。




