触れたいのに、触れられない
いつも読んでいただきありがとうございます。
今回は、
「気持ちに名前が付いたあと」の回です。
両想いかもしれない。
でも、だからこそ今まで通りではいられない。
近づきたいのに、意識しすぎて触れられない。
そんな恋が始まる直前の空気を書きました。
静かな夜の温度を、楽しんでもらえたら嬉しいです。
それでは、第28話。
よろしくお願いします。
宿へ戻る道。
ミアはずっと落ち着かなかった。
理由は分かっている。
『たぶん、同じ』
フィオの言葉が、まだ頭から離れない。
つまり。
両想い……なのかもしれない。
「…………」
無理。
意識しないほうが無理だった。
隣を歩くフィオを見るだけで、心臓が変になる。
「ミア」
「ひゃい!?」
噛んだ。
フィオが少しだけ目を丸くする。
「……大丈夫?」
「だ、大丈夫!!」
全然大丈夫じゃない。
むしろ過去一で駄目だった。
すると後ろから、カナデが吹き出す。
「おもしろ」
「笑うな!!」
「いやだって、さっきまで普通だったのに」
「普通じゃなくしたのお前だからな!?」
カナデは楽しそうだった。
完全に他人事だと思っている。
「でも良かったじゃん」
「何が……」
「ちゃんと伝わって」
その言葉に、ミアは少し黙る。
伝わった。
確かに。
でも。
「……なんか、逆にどうしたらいいか分かんなくなった」
小さく呟く。
フィオと目が合う。
それだけで胸が熱い。
今までみたいに自然に話せない。
「それはまあ、恋だし」
カナデが軽く言った。
ミアは固まる。
フィオも少しだけ瞬きをした。
「……恋」
フィオが小さく繰り返す。
その声が妙に静かで、ミアはまた鼓動が跳ねた。
自分たちの気持ちに、
ちゃんと名前が付いてしまう。
それが少し怖かった。
宿に着く頃には、空はもう暗くなっていた。
部屋へ入る。
昨日と同じ、一つのベッド。
「…………」
「…………」
沈黙。
昨日以上に気まずい。
いや、昨日までは“まだ分からない”で誤魔化せていた。
でも今日は違う。
お互い、知ってしまった。
「……どうする?」
ミアが小声で聞く。
「どうするって?」
「いや、その……寝る場所……」
「ベッド」
「それはそうなんだけど!!」
フィオは少し首を傾げる。
本当に分かってない顔だった。
でも。
「……嫌?」
その一言だけは、不安そうだった。
ミアの胸がきゅっと締まる。
「嫌じゃない!」
即答だった。
フィオが少しだけ安心した顔をする。
その表情が嬉しくて、また困る。
「……じゃあ、一緒」
「っ……」
さらっと決めるな。
ミアは頭を抱えたくなった。
夜。
灯りを消す。
静かな暗闇。
昨日より距離を意識してしまう。
肩が近い。
呼吸が近い。
「……眠れそう?」
フィオが小さく聞く。
「無理かも」
「私も」
暗闇の中で、少しだけ笑い声が重なる。
その空気が優しくて。
ミアは胸の奥が熱くなった。
すると。
そっと。
フィオの指先が、ミアの手に触れる。
「!」
一瞬で身体が強張る。
でもフィオは離れなかった。
「……繋いでもいい?」
今さら聞くんだ。
昨日あんな自然に握ったくせに。
でも。
その“確認”が嬉しかった。
「……うん」
小さく答える。
次の瞬間。
指が絡む。
ただそれだけなのに、息が止まりそうだった。
「……ミア」
「な、なに」
「手、あったかい」
「フィオも……」
暗闇で、互いの声だけが近い。
触れたい。
もっと近づきたい。
でも。
近づいたら、戻れなくなる気もした。
だから二人とも、
手を繋いだまま動けなかった。
まるで。
この距離を壊すのが怖いみたいに。
第28話、ありがとうございました。
ついに二人とも、
“これは恋なんだ”
というところまで来ました。
でも面白いことに、
気持ちを自覚した途端、前より距離感がぎこちなくなるんですよね。
今までは自然に触れられたのに、
今は手を繋ぐだけで心臓が壊れそうになる。
個人的には、
フィオがちゃんと「繋いでもいい?」って聞いたところがかなり好きです。
無自覚に距離を詰めていた子が、
少しずつ“相手を大事にしたい触れ方”を覚え始めています。
そしてミアはもう限界寸前です。
次回からは、
「あと少しで恋人」
なのに進めない、危ない期間がさらに加速します。
次回もよろしくお願いします。




