表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の恋愛フラグ、全部百合に吸われてない?  作者: 星恋 hosiko


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/67

知らない名前

いつも読んでいただきありがとうございます。


今回は、ついに“新しい風”が入る回です。


これまで二人だけで進んできた空気の中に、

「フィオの過去を知っている存在」を登場させました。


近づけたと思っていたのに、

まだ知らない部分がある。


そんな距離の揺れを感じてもらえたら嬉しいです。


それでは、第26話。

よろしくお願いします。

 昼の酒場は騒がしい。


 木のジョッキがぶつかる音。

 笑い声。

 焼いた肉の匂い。


 旅人も冒険者も入り混じっていて、空気が少し熱かった。


「人多いね……」


 ミアは小さく肩をすくめる。


「人気の街だから」


 向かいに座るフィオは平然としていた。


 なんでそんな普通なんだろう。


 朝のこと、絶対意識してないわけじゃないのに。


 ミアだけずっと落ち着かない。


 視線が合うたびに、昨日の夜と今朝の距離感を思い出してしまう。


「……」


「ミア?」


「な、なんでもない!」


 慌てて水を飲む。


 そのときだった。


「おや?」


 知らない声が落ちる。


 二人が同時に振り向くと、一人の旅人が立っていた。


 短い黒髪。

 細身。

 少し中性的な顔立ち。


 年齢はミアたちと同じくらいだろうか。


 そして、その人物はフィオを見るなり目を丸くした。


「……フィオ?」


「え」


 フィオが止まる。


 その反応を見て、相手は小さく笑った。


「やっぱり。久しぶり」


 自然な声だった。


 でも。


 ミアの胸が、ざわつく。


「知り合い……?」


 フィオは少しだけ迷うように瞬きをしてから頷いた。


「……昔、一緒にいた人」


 一緒にいた。


 その言葉が妙に引っかかった。


「へぇ〜」


 ミアは笑う。


 引きつっていた。


「そ、そうなんだ」


 知らない。


 そんな人。


 フィオの過去を、自分はほとんど知らない。


 何が好きで、何が苦手で、どんな旅をしてきたのか。


 最近近づけた気になっていたのに。


 急に、“知らない時間”を突きつけられた気分だった。


「座っていい?」


 その人物は気軽に聞く。


 フィオは少し迷ってから、小さく頷いた。


「もちろん」


 その瞬間。


 ミアの胸の奥がちくりと痛んだ。


 知らない顔。

 知らない名前。

 知らないフィオ。


 まるで、自分だけ置いていかれるみたいだった。


「俺、カナデ」


 その人物は笑う。


 ……俺?


 ミアは一瞬思考が止まった。


 見た目があまりにも綺麗だったせいで、完全に女の子だと思っていた。


「え、男!?」


「その反応よくされる」


 カナデは苦笑する。


 フィオも小さく笑っていた。


 その笑顔が、少しだけ自然すぎて。


 ミアはまた胸がざわついた。


「フィオ、昔より表情柔らかくなったね」


「……そう?」


「うん。前はもっと壁あった」


「……」


 フィオは少しだけ黙る。


 でも否定はしなかった。


 カナデは頬杖をついて二人を見る。


「へぇ。なるほど」


「な、なに」


「いや。理由分かったかも」


 意味深に笑う。


 ミアは嫌な予感しかしなかった。


「……何の話」


「別に?」


 絶対分かって言ってる。


 ミアがむっとしていると、カナデはふっと視線を細めた。


「でも安心した」


「え?」


「フィオ、一人じゃなかったんだなって」


 その言葉だけは、本当に優しかった。


 一瞬だけ。


 フィオの表情が揺れる。


 ほんの少し寂しそうで、でも嬉しそうで。


 ミアはその顔を見て、胸が締め付けられた。


 知らない。


 やっぱり、自分はまだ知らない。


 フィオの過去も。

 孤独も。


 隣にいるのに、届いていない場所がある。


「……ミア?」


 気づけば、フィオがこちらを見ていた。


「顔、怖い」


「えっ」


 慌てて表情を戻す。


 カナデが小さく吹き出した。


「分かりやす」


「うるさい!」


 反射で返す。


 するとカナデは面白そうに笑った。


「……そっか」


「何」


「いや、フィオが変わった理由」


 そう言って。


 カナデは、まっすぐミアを見た。


「君なんだね」

第26話、ありがとうございました。


ついにカナデ登場です。


女の子っぽい見た目なのに「俺」って言うタイプ、

個人的にかなり好きなんですが、

このキャラは“恋愛の当て馬”というより、

二人の関係を映す鏡みたいな立ち位置です。


特に今回のミアは、

「嫉妬」と「知らない過去への不安」がかなり強く出ています。


好きになればなるほど、

“自分の知らない時間”が苦しくなるんですよね。


そして最後の、

「君なんだね」


あの一言で、

ミアはたぶんもう逃げられません。


次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ