眠れない夜の距離
いつも読んでいただきありがとうございます。
今回は、かなり“距離”の近い回になりました。
戦闘でも事件でもなく、ただ同じ部屋で過ごす夜。
でも、そういう静かな時間ほど気持ちが隠せなくなる気がします。
二人の会話の温度や、言葉にならない緊張感を楽しんでもらえたら嬉しいです。
それでは、第24話。
よろしくお願いします。
宿の部屋は静かだった。
窓の外では風が鳴っている。
古い木造の宿だから、時々壁が小さく軋む音まで聞こえた。
なのに。
ミアの心臓だけが、やたらとうるさい。
「……」
眠れない。
理由は分かっている。
隣だ。
ベッドの隣。
フィオが寝ている。
しかも今日は部屋が一つしか空いていなかった。
『ごめんなさいねぇ、今夜は旅人が多くて』
宿の女将は悪びれもなく笑っていた。
いやいやいや。
問題しかない。
ミアは毛布を頭まで被る。
でも意味がなかった。
隣から微かに聞こえる呼吸の音。
シーツの擦れる音。
たまに揺れるベッド。
全部意識してしまう。
しかも。
昼間の手繋ぎ事件のせいで、余計に駄目だった。
「……無理」
小さく呟く。
こんなの眠れるわけがない。
すると。
「起きてるの」
暗闇から声がした。
「ひゃっ!?」
ミアは飛び起きそうになる。
「フィオ!? 起きてたの!?」
「うん」
「なんでそんな普通なの!?」
「……?」
本当に分かっていない顔だった。
ずるい。
この距離感で平気そうなの、本当にずるい。
月明かりが薄く部屋を照らしている。
向かい合う形になってしまって、ミアはさらに困った。
近い。
目を逸らしたいのに逸らせない。
「ミア」
「な、なに」
「顔赤い」
「暗いのに分かるの!?」
「なんとなく」
絶対嘘だ。
でもフィオは少し楽しそうだった。
最近、こういう顔をすることが増えた気がする。
「……眠れない?」
「……まあ」
「どうして」
「どうしてって……」
説明できるわけない。
“隣にいるだけで心臓が壊れそうだから”なんて。
ミアは視線を逸らした。
「……フィオは平気なの」
「平気じゃない」
「え」
予想外の返事だった。
フィオは毛布を少しだけ握る。
「私も、変」
その声は小さかった。
静かな夜のせいで、余計にはっきり聞こえる。
「ミアが近いと、落ち着かない」
「っ」
今度はミアが黙る番だった。
ずるい。
そんなこと言われたら、もう逃げ場がない。
「……昼も」
フィオが続ける。
「手、嬉しかった」
「〜〜〜っ!!」
ミアは顔を覆った。
熱い。
無理。
死ぬ。
「なんでそんな普通に言えるの!?」
「普通?」
「普通じゃないから!!」
フィオは少し考えるように瞬きをして、それからぽつりと言った。
「でも、ミアにはちゃんと伝えたい」
静かな声だった。
でも、その一言が胸の奥に落ちる。
ミアはゆっくり息を飲む。
たぶんフィオは、無自覚だ。
自分がどれだけ破壊力あることを言ってるか分かってない。
「……ねえ、ミア」
「……なに」
「こっち来る?」
「は?」
思考が止まる。
フィオは少しだけ毛布を持ち上げた。
「寒いから」
いや絶対それだけじゃない。
でもフィオの表情は真面目だった。
ミアは固まる。
行ったら終わる気がする。
何かが。
でも。
「……ちょっとだけ」
気づけば、そう答えていた。
ベッドが小さく揺れる。
近づく。
近づいてしまう。
肩が触れた瞬間。
フィオが小さく息を吐いた。
「……あったかい」
「っ……!」
ミアの心臓が跳ねる。
こんなの。
眠れるわけがない。
なのに不思議と、離れたいとは思わなかった。
第24話、ありがとうございました。
ついに「隣にいるだけで落ち着かない」という段階まで来ました。
まだ告白はしていないのに、空気だけはもう完全に恋人前夜です。
個人的に今回好きなのは、
フィオの“無自覚に距離を詰める強さ”と、
それに毎回振り回されるミアの温度差です。
この二人、まだ付き合ってないんですよね……。
ここから先は、
「近づきたい」と「怖い」が混ざり始めます。
次回もぜひ読みに来てください。




