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俺の恋愛フラグ、全部百合に吸われてない?  作者: 星恋 hosiko


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23/67

触れた熱の名前

いつも読んでいただきありがとうございます。


今回は、ずっと曖昧だった感情に少しだけ輪郭が触れる回になっています。

大きな出来事はなくても、「手を離せない理由」みたいなものを書きたくて、この話を書きました。


二人の空気が少しずつ変わっていく瞬間を、楽しんでもらえたら嬉しいです。


それでは、第23話。

よろしくお願いします。

 夜風が冷たかった。


 街の灯りはまだ消えていないのに、どこか世界だけが静かになってしまったみたいだった。


 宿へ戻る道を、ミアとフィオは並んで歩いている。


 いつもならミアのほうが何かしら喋る。

 どうでもいい冗談とか、屋台の匂いの話とか、明日の予定とか。


 でも今日は違った。


 二人とも、少しだけ黙っていた。


 原因は分かっている。


 さっきのことだ。


 市場で、フィオが男に声を掛けられた。


『君、綺麗だね。旅人?』


 軽い口調だった。

 悪意もなかったと思う。


 でも、その瞬間。


 ミアは、驚くくらい苛立った。


「……」


 思い出しただけで胸がざわつく。


 別にフィオは悪くない。

 話しかけられただけだ。


 なのに。


『へえ、そういう顔するんだ』


 男に向けた自分の視線を思い出して、ミアは小さく顔をしかめた。


 完全に牽制していた。


 あれじゃまるで。


「……ねえ」


 隣から声が落ちる。


「ミア、さっきから静か」


「えっ? あー……そんなことないって」


「ある」


 即答だった。


 フィオはちらりとこちらを見る。


 月明かりが銀色の髪に落ちて、やけに綺麗だった。


 そのせいで、また少しだけ胸が落ち着かなくなる。


「……怒ってる?」


「怒ってない!」


 反射で返してから、ミアはハッとした。


 早すぎた。


 絶対怪しい。


 案の定、フィオが少しだけ目を細める。


「怒ってる人の返事」


「違うって!」


「じゃあ、どうしたの」


「それは……」


 言葉が詰まる。


 説明できない。


 いや、したくない。


 こんなの説明したら、自分がどれだけ変なことを考えてるか全部バレる。


 ミアは逃げるように前を向いた。


「なんでもない!」


「嘘」


「なんで分かるの!?」


「分かるから」


 フィオは小さく笑う。


 その笑い方が、少しだけ優しかった。


「ミア、顔に出やすい」


「うそでしょ……」


「すぐ分かる」


 終わった。


 ミアは頭を抱えたくなった。


 自分では隠してるつもりだったのに。


 するとフィオが、少しだけ歩幅を狭める。


「……あの人に声掛けられたの、嫌だった?」


「っ」


 心臓が跳ねた。


 直球だった。


 ミアは数秒黙って、それから観念したみたいに息を吐く。


「……ちょっとだけ」


「ちょっと?」


「かなり」


 言った瞬間、自分で顔が熱くなる。


 何を素直に答えてるんだ。


 でもフィオは笑わなかった。


 ただ静かにこちらを見る。


「どうして?」


「……分かんない」


 本当に分からなかった。


 いや、分かりたくないだけかもしれない。


 胸の奥にある感情に名前を付けたら、きっと今までと同じではいられなくなる。


 夜風が吹く。


 フィオの髪が揺れた。


 そのとき。


 不意に、フィオの指先が触れた。


「!」


 ミアの手に。


 ほんの少しだけ。


 偶然みたいな触れ方だった。


 でも、一瞬で全身の温度が上がる。


「フィ、フィオ……!?」


「……私、少し嬉しかった」


「え」


「ミアが嫌そうだったの」


「は!? なんで!?」


 意味が分からない。


 嫉妬してたみたいで最悪だったのに。


 するとフィオは少し視線を逸らして、小さく呟いた。


「……特別みたいだったから」


 その言葉に。


 ミアの思考が止まる。


 夜の音が遠くなる。


 風の音も、街のざわめきも、全部薄く消えて。


 代わりに、自分の鼓動だけがうるさかった。


「……それ、ずるい」


「ずるい?」


「そんなこと言われたら……」


 これ以上、隠せなくなる。


 ミアは顔を隠すように俯いた。


 熱い。


 たぶん耳まで赤い。


 フィオはそんなリナを見つめて、それから小さく笑う。


「ミア」


「……なに」


「手、離れてる」


「!」


 気づけば、さっき触れた指先を。

 リナのほうから掴んでいた。


「っ〜〜〜!!」


 ミアは慌てて離そうとする。


 でも。


 今度はフィオが、そっと握り返した。


「……え」


「このままじゃだめ?」


 静かな声だった。


 ミアは何も答えられない。


 答えられるわけがなかった。


 だって今。


 触れている手が、どうしようもなく嬉しい。

第23話、ありがとうございました。


ついに“触れる”ことをちゃんと意識し始めた回でした。

ただ手を繋ぐだけなのに、それだけで全部変わってしまいそうな空気ってありますよね。


ミアはまだ自分の気持ちを言葉にできていません。

でも、隠しきれなくなってきています。


そしてフィオのほうも、思っている以上に積極的です。


ここから二人の距離は、たぶんもう戻れません。


次回もよろしくお願いします。

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