ご褒美の宿で、俺だけ部屋が静か
今回は少しご褒美回です。
激戦のあと、三人が穏やかな時間を過ごします。
そしてレンも、少しずつ“二人の隣にいる自分”を自然に受け入れられるようになってきました。
護衛任務は成功だった。
クイーンスパイダー討伐。
しかも護衛対象は無傷。
結果として、
俺たちはかなり大きな成果を上げたらしい。
「いやー! 本当に助かった!」
依頼主の商人が何度も頭を下げてくる。
「まさか女王蜘蛛まで出るとは思わなくてな……!」
「俺も思いたくなかったです」
本音である。
蜘蛛もう嫌。
「報酬は上乗せさせてもらう! あと今夜の宿代も持つ!」
「えっ」
フィアがぱっと顔を明るくした。
「ほんとですか!?」
「もちろん!」
商人は豪快に笑った。
「君たちは命の恩人だからな!」
……なんか。
こういうの、
冒険者っぽいな。
⸻
宿はかなり立派だった。
「うわ、ベッドふかふか……」
俺は感動した。
今までの宿より明らかに高級。
風呂も広い。
最高。
「レンさん顔が緩んでます」
「仕方ないだろ!」
フィアが笑う。
ミアも少しだけ口元を緩めていた。
そして。
「部屋はこちらになります」
案内された扉は二つ。
……うん。
知ってた。
「じゃあ俺こっちね」
「うん」
「……おやすみ」
もう誰も迷わない。
自然に、
ミアとフィアが同じ部屋へ向かう。
最初の頃なら、
俺も少しモヤモヤしてたかもしれない。
でも今は。
「ちゃんと寝ろよー」
「レンさんこそですよ?」
「レン、夜更かししそう」
「親かお前ら」
普通に笑えた。
⸻
夜。
風呂上がり。
俺は一人で廊下を歩いていた。
静かだ。
窓の外には街の灯り。
なんかちょっと落ち着く。
その時。
少し先のテラスに、
二人の姿が見えた。
ミアとフィア。
並んで夜風に当たっている。
話し声は聞こえない。
でも。
距離が近かった。
フィアが何か言う。
ミアが少し困ったように笑う。
それだけなのに。
空気が柔らかい。
綺麗だった。
俺は少し立ち止まる。
前なら。
胸が痛かったかもしれない。
でも今は、
それより安心の方が大きかった。
「……何してるの」
「うおっ!?」
横から声。
ミアだった。
「え、いたの!?」
「いた」
いつの間に。
忍者か。
「フィア、飲み物取りに行った」
「あー」
俺はなんとなく頭を掻く。
「邪魔しない方がいいかなって」
「……?」
ミアが不思議そうに首を傾げた。
「別に邪魔じゃない」
「いやでもお前ら二人の空気あるし」
すると。
ミアは少し黙った。
それから。
「レンもいると落ち着く」
静かな声だった。
不意打ち。
かなり不意打ち。
「……そういうこと普通に言うよな最近」
「本当だから」
強い。
無自覚ストレート強い。
その時。
「レンさん?」
フィアが戻ってきた。
両手に飲み物。
「あ、いたんですね」
「うん。なんか捕まった」
「人聞き悪い」
ミアが少しだけ眉を寄せる。
フィアがくすっと笑った。
「せっかくですし、一緒に飲みません?」
「いいの?」
「もちろんです!」
自然だった。
俺がそこにいること。
二人の隣に座ること。
それが。
もう特別じゃなくなっていた。
⸻
夜風が吹く。
三人で並んで座る。
静かな時間。
「……平和ですね」
フィアがぽつりと言う。
「そうだな」
「ずっとこうならいいのに」
その言葉に。
ミアと俺は、
ほとんど同時にフィアを見た。
たぶん。
同じことを思った。
守りたいなって。
この時間を。
この空気を。
この三人を。
第18話ありがとうございました!
クイーンスパイダー討伐後の、少し静かな回でした。
今回かなり大事なのは、レンが“二人を見ても苦しくならなくなった”ことです。
もちろん、最初の恋心は本物でした。
でも今はそれ以上に、
「この三人でいる時間が好き」
という気持ちの方が大きくなっています。
そしてミアの
「レンもいると落ち着く」
という言葉。
これはかなり大きいです。
ミアは、本当に心を許した相手にしかこういうことを言わないので。
あと今回、フィアが自然に
「一緒に飲みません?」
とレンを誘ったのも重要でした。
もうレンは、
“気を遣う他人”ではなく、
二人の隣にいるのが当たり前の存在になっています。
次回からまた少し物語が動きます。
そしてそろそろ、新しい風が入ってきそうです。




