第9話 “かっこいい”は作れない
天界は、すでに手遅れだった。
「素材は揃った」
創造神ゼルヴァグが、静かに言う。
・金
・匂い
・目力
・顔
・面白さ
「これらを融合し——」
ラフィエル、即座に遮る。
「やめましょう」
「なぜだ」
「前回を思い出してください」
ゼルヴァグ、少しだけ考える。
「……今回は“かっこいい”だ」
「関係ありません」
しかし
「遅い」
ゴゴゴゴゴ……
創造、開始。
■誕生
現れたのは
やたら整った顔。
無駄に高級な服。
香水の香りが強すぎる。
目力が強すぎる。
常にキメ顔。
そして
「ヘイ、ベイビーたち」
軽い。
最悪のチャラ男が誕生した。
「……完璧だ」
完璧に間違っていた。
■下界
「ねえ、和くん」
少女——河合みつが言う。
「うん?」
青年、多井和が振り向く。
呼び方、進化していた。
「今日、なんか変な予感する」
「いつもしてない?」
「今日は強め」
その時だった。
風が吹く。
いや
香りだった。
「来た」
空間が歪む。
そして現れる
チャラ男+取り巻き女性多数。
「待たせたな」
待ってない。
「この街の“かわいい”は、君だろ?」
指差し、みつ。
女性たちがざわつく。
「え、あの子?」「普通じゃない?」
みつ、真顔。
「誰?」
致命傷。
■チャラ男ムーブ開始
「俺は“かっこいい”」
名乗った。
「この世界で一番モテる男さ」
和、ぽつり。
「自分で言うんだ……」
■アピール①:金
「この車、どう思う?」
高級車ドーン。
みつ。
「駐車大変そう」
終了。
■アピール②:匂い
「この香り、わかる?」
「強い」
「……そうじゃなくて」
■アピール③:目力
じっ……
みつ。
「怖い」
■アピール④:面白さ
「じゃあジョークいくぜ」
スベる。
完全にスベる。
和がフォローする。
「あー、ちょっと惜しかったですね」
優しい。
■崩れ始めるチャラ男
「なぜだ……」
「完璧なはず……」
チャラ男、みつに手を差し出す。
「君を、もっと輝かせてやる」
みつ、即答。
「いらない」
静かだった。
■理由
「あなた、自分を見てほしいだけでしょ」
チャラ男、止まる。
「かっこいいってさ」
みつは、和を見る。
「隣の人をちゃんと見てる人だよ」
和、少し照れる。
「……みつ、それちょっと恥ずかしい」
「本当だからいい」
自然だった。
■完全敗北
チャラ男の取り巻き女性たちもざわつく。
「……あれ?」「なんか違うくない?」
「ていうか、この人普通に優しくない?」
和を見る。
チャラ男、崩壊。
「……俺は……」
「かっこよく……ない……?」
■天界
ゼルヴァグ、沈黙。
ラフィエル、静かに言う。
「データの組み合わせでは、本質は再現できません」
神、目を閉じる。
「……またか」
チャラ男、強制送還。
「次は……次こそ……」
懲りてない。
■下界
静けさが戻る。
和が、ぽつり。
「……大丈夫?」
みつ。
「うん」
少し間。
和が、少しだけ勇気を出す。
「みつ」
名前で呼んだ。
みつ、少しだけ嬉しそう。
「なに、和くん」
距離、また少し縮まる。
■天界
ゼルヴァグ、腕を組む。
「……理解は進んでいる」
ラフィエル。
「本当ですか?」
「50%くらいだ」
半分だった。
遠くで天使たちがざわつく。
「まだ半分かよ」
「長いな」
神は下界を見る。
みつと和が、並んで歩いている。
少しだけ、穏やかな顔で。
「……悪くない」




