第8話 名前をもらった日
天界は、またしても落ち着きがなかった。
「……納得がいかん」
創造神ゼルヴァグが、腕を組んで唸る。
「“かっこいい”が、まだ定義できていない」
ラフィエル、即答。
「諦めませんね」
「当然だ」
神、真顔。
「“究極のかわいい”の隣には、“究極のかっこいい”が必要だ」
まだ言ってる。
■調査命令
「現地調査を行え」
「またですか」
「まただ」
こうして、いつものように
天使たちは下界へ放たれた。
■現場調査(雑)
「……あれが“かっこいい”か」
スーツの男が高級車から降りる。
メモ:かっこいい=お金持ち
別の天使。
「……あれが“かっこいい”か」
香水を振りまく男。
メモ:かっこいい=いい匂い
さらに別。
「……あれが“かっこいい”か」
鋭い目で睨む男。
メモ:かっこいい=眼光が強い
また別。
「……あれが“かっこいい”か」
ただ顔が良い男。
メモ:かっこいい=顔
最後。
「……あれが“かっこいい”か」
友達を笑わせてる男。
メモ:かっこいい=面白い
■報告
天界に、資料が揃う。
・金
・匂い
・目力
・顔
・面白さ
「……なるほど」
ゼルヴァグ、頷く。
ラフィエル、顔をしかめる。
(また始まる……)
ふと、思い出す。
“かわいい”を作った時の、あの惨事。
全部詰め込んで、全部ズレた。
(どう伝えるべきか……)
悩む。
めちゃくちゃ悩む。
■一方その頃、下界
少女と青年が、いつものベンチにいる。
少し沈黙。
青年が、意を決して言う。
「あの……」
「名前、聞いてもいいですか?」
少女、止まる。
「……あ」
今さらだった。
■天界
ラフィエル、固まる。
「……名前」
ゼルヴァグも固まる。
「……設定していない」
やってしまった。
「外見と性質に全振りした結果……」
「基礎情報がゼロです」
致命的だった。
■下界
青年、待っている。
少女、考える。
(名前……)
ない。
少し考えて
「……かわいい」
言った。
青年、数秒フリーズ。
「……河合さん?」
脳内変換、完了。
「うん」
肯定した。
■追加質問
「下の名前は?」
少女、さらに考える。
「……ひ、みつ」
青年、頷く。
「みつさんか」
決まった。
■天界
「決まった」
ゼルヴァグ、震える。
「我が創造物に、名前が付与された……」
ラフィエル、静かに言う。
「外部から、ですが」
「……“河合みつ”」
神、反芻する。
「……悪くない」
ちょっと嬉しそうだった。
■神、暴走
「対象の男を分析する」
目が光る。
青年にスキャン発動。
ピコーン
表示:青年の40%は恋で出来ています
沈黙。
ラフィエル。
「……何ですかこれ」
ゼルヴァグ。
「知らん」
■下界
青年、少し照れながら言う。
「みつさんって、いい名前ですね」
少女——いや、河合みつは。
少しだけ、照れて。
「……そう?」
その顔は、かなり自然だった。
■天界
ゼルヴァグ、ゆっくり立ち上がる。
「……理解した」
ラフィエル、嫌な予感。
「何をですか」
神は、低く言う。
「“かっこいい”とは——」
「恋だ」
「そこまで単純ではありません」
即否定。
しかし神は止まらない。
「ならば」
「恋を内包した“究極のかっこいい”を創る」
ラフィエル、頭を抱える。
「またですか」
ゼルヴァグ、力強く頷く。
「今度こそ」
「奴を超える」
視線は、下界の青年へ。
■下界
みつは、ふと空を見上げる。
「……また来そう」
青年、苦笑する。
「知り合い、ですか?」
「……まあ、そんな感じ」
風が、少しだけ吹く。
嵐の前触れだった。




