第7話 “かっこいい”は相手を見ること
あれから、三ヶ月。
下界は、相変わらず平和だった。
「……またパン?」
青年が苦笑する。
少女は頷く。
「安定してる」
二人の距離は、少しだけ近くなっていた。
でも——
手は、まだ触れていない。
「今日、少し遠くまで歩きませんか」
「……いいよ」
相変わらず、ゆっくりだった。
■天界
「……なるほど」
創造神ゼルヴァグは、静かに頷く。
「関係は安定している」
ラフィエルが補足する。
「良好、と言えるかと」
「だが——」
神の目が光る。
「“究極”ではない」
また始まった。
「“究極のかわいい”には、対となる“究極のかっこいい”が必要だ」
天使たち、嫌な顔。
「……“かっこいい”とは何だ」
沈黙。
そして——
神は、立ち上がった。
「かっこいいは——」
ゆっくりと、腕を広げる。
「我だ!」
終わった。
■創造開始
「我が威厳、我が力、我が存在そのものをモデルとする」
ラフィエル、小声。
「やめた方が……」
「遅い」
ゴゴゴゴゴ……
世界が震える。
そして生まれたのは
無駄に長身、無駄に発光、無駄に低音ボイス。
常に風が吹いている謎の男。
「……完璧だ」
完璧にズレていた。
■下界
少女と青年が並んで歩いている。
その時。
空間が割れた。
「来た」
現れたのは、例の男。
風、吹いてる。
誰も頼んでないのに。
「……」
男、ゆっくりと歩み寄る。
「我は——」
声、低すぎて地面が震える。
「“かっこいい”の化身」
少女、即答。
「うるさい」
終わった。
■アピール開始
男、ポーズを取る。
キラーン(効果音付き)
「この佇まい」
「眩しい」
「この声」
「重い」
「この圧倒的存在感」
「怖い」
全否定だった。
青年は一歩引いている。
「すごい人ですね……」
「違う、すごくない」
少女、冷静。
■天界実況
ゼルヴァグ、食い入るように見る。
「なぜだ」
「なぜ通用しない」
ラフィエル、冷静。
「“かっこいい”の方向性が異なるかと」
「何が違う」
「全部です」
■最後の一撃
男、少女に近づく。
「貴様の隣に立つにふさわしいのは——」
「我だ!」
沈黙。
少女、青年を見る。
青年、気まずそうに笑う。
少女、ため息。
そして
「無理」
即答。
■理由
「あなた、自分のことしか見てない」
男、固まる。
「かっこいいってさ」
少女は、少しだけ考えて言う。
「隣にいる人のこと、ちゃんと見てる人だと思う」
青年を見る。
「この人は、そうだから」
静かだった。
男の風が、止まる。
■崩壊
「……想定外だ」
男、消えかける。
存在意義が揺らいでいる。
■天界
ゼルヴァグ、沈黙。
長い沈黙。
そして
「……回収」
即決だった。
■強制送還
男、回収される。
天界に戻された瞬間。
「……我は、かっこよくなかったのか」
ラフィエル、間髪入れず。
「方向性が独特でした」
優しい言い方だった。
■下界
静けさが戻る。
青年が、ぽつり。
「……さっきの人、知り合いですか?」
少女、少しだけ考える。
「……親戚みたいなもの」
だいたい合ってた。
少し沈黙。
そして
青年が言う。
「俺、ああいうのは無理ですけど」
「……ちゃんと隣にいることは、できると思います」
少女は少し驚いて。
少しだけ、嬉しそうにして。
「……うん」
初めて、少しだけ距離が縮まる。
■天界
ゼルヴァグ、腕を組む。
「……なるほど」
「“かっこいい”とは、外ではない」
「内か」
遠くで天使がささやく。
「またいい感じにまとめた」
「今回ちゃんと当たってる」
神は咳払いをする。
「……次は」
天使たち、身構える。
「何もしない」
沈黙。
「……たまにはな」
少しだけ、大人になっていた。
「ただし、監視は続ける」
やっぱりだった。




