第3話 “かわいい”は作れない
天界に、静かな怒りが満ちていた。
「……まだだ」
創造神ゼルヴァグは、玉座で低く唸る。
「これは“究極のかわいい”ではない」
下界の少女は、たしかに変わり始めていた。
優しくなり、少し笑えるようになり、ほんの少し愛嬌も出てきた。
だが——
「“究極”には届いていない」
神の要求、無駄に高い。
「教育係をつける」
その一言で、すべてが決まった。
呼ばれたのは——
「お任せくださいっ☆」
やたらテンションの高い上級天使、ミルフィナ。
「“かわいい”は作れますっ!」
根拠はなかった。
少女の前に現れるミルフィナ。
「今日からあなたの“かわいい”をプロデュースします!」
少女は真顔。
「帰っていい?」
「ダメです☆」
こうして、地獄の教育が始まった。
■第一講座:モテ仕草
「まずはこれ!上目遣いです!」
ミルフィナが実演する。
完璧すぎて逆に腹立つ。
「こうやって……ちらっ」
少女、やる。
「……ちらっ」
完全に睨んでる。
「違います違います!敵じゃないです!」
■第二講座:ぶりっ子会話
「語尾に“♡”をつけましょう!」
「おはようございます♡」
少女、棒読み。
通行人、距離を取る。
「心が!!こもってません!!」
「♡って心でどうこうなるものなの?」
正論だった。
■第三講座:守ってあげたくなるムーブ
「ここで転びます!」
「は?」
ミルフィナが派手に転ぶ。
「きゃっ♡」
誰も助けない。
少女も無視。
「世の中そんな甘くありませんね!!」
自分で言った。
■第四講座:ギャップ萌え
「普段クール→たまに笑う!これです!」
少女、無表情で一日過ごす。
そして、夕方。
「……ふっ」
通行人、ざわつく。
「今の何!?」「レアすぎる!!」
ミルフィナ、ガッツポーズ。
「方向性は合ってます!!」
少女、納得してない。
「ねえ」
ある日、少女が言う。
「これ、全部“誰かにどう見られるか”じゃない?」
ミルフィナ、固まる。
「“かわいい”って、それだけ?」
その時だった。
近くで、またあの子どもが転んだ。
ミルフィナ、ささやく。
「チャンスです!今こそ“完璧なかわいい”を!」
少女は少しだけ考えて——
駆け寄った。
「大丈夫?」
自然な声だった。
子どもは、泣きながら頷く。
少女は、少し迷ってから。
そっと手を差し出した。
「ほら」
子どもはその手を掴んで、立ち上がる。
「ありがとう」
その笑顔は、とてもまっすぐだった。
少女は、少しだけ照れて——
「……どういたしまして」
その瞬間。
ミルフィナは、何も言えなかった。
そして、天界。
ゼルヴァグは、それを見ていた。
長い沈黙のあと。
「……あれか」
ラフィエルが問う。
「“究極”に、届きましたか?」
神は静かに頷く。
「“究極”とは、作るものではない」
「生まれるものだ」
遠くで小天使がざわつく。
「またいい感じにまとめたぞ」
「いつものだ」
下界。
少女は、ふと呟く。
「……そっか」
誰かに好かれるためじゃなくて。
誰かを想ったときに、自然と出るもの。
それが——
「かわいい、か」
彼女は、少しだけ笑った。
今度は、誰も怖がらなかった。
ミルフィナは空を見上げる。
「……完敗です」
そしてぼそっと言う。
「でも、私の講座も……ちょっとは役に立ちましたよね?」
「三つくらいは無駄だった」
「えっ三つで済んでる!?」
笑い声が、少しだけ広がった。




