おまけ話 多いおかずとかわいいひみつ
夕方。
小さな部屋に、いい匂いが広がっていた。
「……すご」
多井和が、テーブルを見て固まる。
並んでいるのは
煮物、焼き魚、味噌汁、サラダ、小鉢がいくつも。
「多くない?」
河合みつは、少しだけ得意げに言う。
「うん、多いよ」
「いや、だから多いって」
みつは、ふっと笑う。
「これからね」
「かずくんの名前みたいなご飯、作ろうと思って」
和、首をかしげる。
「名前?」
みつ、ちょっとだけ間を置いて。
「多井和」
そして、指でテーブルを示す。
「多い、おかず」
和、数秒止まる。
理解する。
「……ああ」
「絶対、胃袋つかんでやる」
みつ、ちょっとだけドヤ顔。
和は、少し笑って。
「もう半分くらい掴まれてるけど」
「半分じゃ足りない」
「全部いくの?」
「いく」
即答だった。
和は、少し考える。
そして、みつを見る。
「じゃあ、俺も一つ」
「なに?」
「みつのこと、もっと知りたい」
みつ、少しだけ首を傾ける。
和は続ける。
「河合みつ」
「かわいい、ひみつ」
みつ、固まる。
数秒。
「……それ、ずるい」
少しだけ照れて、目を逸らす。
「全部は教えない」
「いいよ」
和は、優しく言う。
「少しずつで」
少しだけ間を置いて、続ける。
「知らないままでも、かわいいって思えるし」
みつ、少しだけ目を見開く。
静かな時間。
でも、ちゃんと温かい。
■天界
「次の対策案を提出してください」
「価格安定のための調整が——」
「供給バランスがまだ——」
天界は、かつてないほど忙しかった。
ゼルヴァグは、玉座に座っている。
腕を組み、難しい顔。
しかし
発言しない。
ラフィエルがちらっと見る。
「……どうしました」
「……口を出すと、悪化する」
学習していた。
■天使たち
走る。
書く。
調整する。
完全に実務は天使任せだった。
「誰の仕事だと思ってるんですか!!」
「神です!!」
「働いてるのは誰ですか!!
「私たちです!!」
一致していた。
ゼルヴァグは、少しだけ下界を見る。
ほんの一瞬だけ。
みつと和が、並んでご飯を食べている。
その様子に
ほんの少しだけ、口元が緩む。
そしてすぐに視線を戻す。
「……会議を続ける」
ラフィエル、静かに頷く。
■下界
「これ、おいしい」
「でしょ」
「ほんとに多いね」
「まだ増やせるよ」
「いやもう十分」
笑い声が、小さく響く。
特別じゃない。
でも、ちゃんと幸せな時間。




