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宝石掌編  作者: 石留 琴
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真珠

お前を飲めば、俺は安らかに死ねるだろうか。絹のような光沢、するりと光る表面に浮かぶ灰青の輪、海のものなのに山に息吹く生き物の気配を持つ真珠。それは人には理解し得ない神秘と、人には到底得られない強さが形づくり、そして人を殺す毒として作られているような気がした。玉のように丸く、氷のように冷たく、人よりも柔らかい真珠。それを喉の奥に送り込んで、ごくりと音を立てて飲み込めば、肺に海水が満ちて幸せに死ねるような気がする。白い光が喉を通って、俺の中の全てをお前が満たしてくれるような気がする。お前という白い毒が、俺をこの上なく安らかに殺してくれるような気がする。真珠の白さは、優しさと残酷さがないまぜになった白さだ。


『死にたい?』


そうだ。


『それとも、殺されたい?』


嗚呼、そっちの方が正しいかもしれない。俺は、真珠に殺されたいのかもしれない。真珠はきっと優しいものだから、俺を殺すとしたら優しい毒になると、それだけのことなのかもしれない。ガラスの透明な瓶に詰められた、小粒で不揃いで、それでもやはり絹のように美しい真珠。それらはころり、ころりと波のように転がってくすくすと笑い声を上げる。綺麗な笑い声をあげて、さらさらと生成色の光を瓶に満たす。この光ごと飲み込んで肺に閉じ込められたら、どれほど幸福だろうか。その青と鈍色と黄色と朝焼け色の玉は、飲み込んだら冷たいだろうか、あたたかいだろうか。小さなガラス瓶に閉じ込められて、背景に海と空の青を背負った東洋の神秘。その匂いは汐風と同じだろうか。そう尋ねると真珠がひどくおかしそうに笑う。


『真珠は貝からできてるの。人が貝を使ってつくっているの。匂いはきっと血の匂い』


そうなのか。それでは瓶の真珠も、お前も人に造られたものなのか。それならばきっとうんと安らかに死ねそうだ。人は人に優しいものを作りたいと思うのだから。あるいは、恐ろしく冷たくて苦しい毒になっているのだろうか。人は人に優しくしようと思わないのだから。どちらだろう。


『死にたいか、殺されたいか。その違いね』


そうだろうな。その優しさも行動も、受け取る側の解釈で如何様にも荒れるのだろうから。だから俺は真珠に優しさを求めるけど、でも俺は真珠は喉に詰まって俺を苦しめるのではないかとも思う。これも受け取る側の解釈ということか。俺は優しくされたいが、でも真珠の指先は冷たいと信じて疑わない。深海のように透き通って、津波のように重い波が産んだ真珠だと、お前をそう思っているから。真珠は蒼く光って俺を嘲笑う。蒼い影を落として、蒼い光が落とされる。真珠が風に吹かれる旅に潮と死の匂いが鼻腔をくすぐってくる。真珠の瓶をキツく握りしめると、真珠は反発できずに大人しく潰されるのを待っている。真珠は俺にまろい目を波のように向けて笑う。俺を見下しながら優しく笑う。


『飲んでみる度胸はどうせないのにね?』


うるさい。俺はその空耳を掻き消すように真珠を飲み干そうとした。真珠は口からこぼれて俺の手を伝って落ちた。

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