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「常日頃から、マルセル王子は婚約者さまについて苦言を呈されておりました。曰く、出会いの度に毒を飲まされそうになると。ここまで言えば皆さんお察しのとおり、毒とは珈琲の事ですな。加えて、毒を飲まねば世継ぎも残せないとも………詳しい意図は図りかねますが、そこの"元"婚約者さまが珈琲………否、毒を無理矢理に飲ませようとしていたのは、紛れもない事実なのです」

「!?」


カーンの口から語られた内容は、私にとっては予想外も予想外。よりにもよってマルセルとの世継ぎだなんて………確かに、珈琲を一緒に楽しめない人とは愛し合うなんてできない。なんて事を過去に言った気もする。


「つまりカーン宰相閣下は、日頃から珈琲を飲ませようとしていたことが、アテナに殺意があったという証拠であると?」

「そのとおりでございます。とはいえ、亡きマルセル王子も本当に毒が入れられているとは思いもしなかったでしょうが」

「ふむ、なかなかおもしろい話だ………カーン宰相閣下の証言が本当なら、十分に殺意の証明になるね」

「私の発言をお疑いになる、と?」

「まさか。ただの可能性の話だよ」


カーンの言ってることは嘘の可能性が高い。

マルセルが婚約破棄を切り出すまで、私とマルセルの関係は良好だったのだから。とはいえ、それを証明する手立てが私にないのが難点である。


こんなことなら、もっと大っぴらにイチャついておけば………いや、無理!無理無理無理無理無理無理!!!あの超顔のいいマルセルの隣を、私なんて超超芋女が歩いていたら、王宮中の笑いものにされてしまうのが目に見えている。

はぁ、嫌だ嫌だ。もし生まれ変われるのなら、次は美女とまでいかなくとも、せめて自分の容姿に自信が持てる程度の造形美が欲しいところだけど………まぁ、いまそんなこと考えてもしょうがないか。


「カーン宰相閣下の言いたいことは理解した。それでアテナは誰に証言してもらうつもりだい?」


レイルの双眸がこちらを捉える。


「ランド・ウィーバー卿にお願いします」


私はすかさず答えた。

残念ながら、カーンの主張を真っ向から否定する術を私は持たない。けど、ランドがアイリーンとマルセルの密会を証言してくれれば、疑いの目がそちらに向くのは間違いない。証言が認められれば、この審問会の流れも私に傾くはずである。


後は再びアイリーンが墓穴を掘るのを待っていればいい。さっきまでの反応を鑑みれば、放っておいても勝手に自滅してくれることだろう。

七難八苦を覚悟していたけど、案外簡単に物事が運びそうだ。これならジルにお願いしていた切り札を使うまでも無いだろう。


「ふーん、奇妙な組み合わせに見えるけど………さてはて、僕を失望させないでくれよ」

「何をぶつくさ言っているのか存じませんけど。私と彼はただの協力関係です」

「はは、ただの独り言だから気にしないでよ。それではウィーバー卿。あなたは何を証言してくれるんだい?」

「………」


傍聴席に座っていたランドは、なにやら神妙な顔をしながら立ち上がった。

緊張でもしてるのだろうか?

あれだけ大胆に調べ物はしてくるくせに、ランドも存外小心的なところがあるのかもしれない。それとも、審問されている私の身を心配して、とか………流石にそれは私の自意識過剰か。


何はともあれ、後はランドが件の証言をしてくれれば、アイリーンの告発者としての立場はだいぶ危うくなる。ほんと、ランドが私に協力してくれたのは運がよかった。もしランドのような協力者が現れなければ、今頃私はどうなっていたか分かったものではない。


「私が話すことは何もない」

「えっ!?」


ランドの予想外な発言に、私はその意味を理解出来なかった。今更になって話すことがないなんて言う、普通?

そうか、そうか。意味深な態度をしていたのはこのため………


でもまあそういうことだ。

私はまたまた、裏切りにあったというわけだ。


……………………………ぁぁあ!!!もう嫌!


腹痛でどうにかなってしまいそう。

まるでグツグツと煮えた泥を、漏斗を使って無理矢理流し込まれたような………胃袋にはなにも入ってないはずなのに、腹はこれでもかと膨れ上がっている。


「ははは!これは傑作だ。アテナ、君ってやつはいつも僕を楽しませてくれるね」

「ふぅ、」


つい最近、似たような経験をしていてよかった。そのおかげで、レイルの下卑た嘲笑を聞いてもなんとか冷静でいられる。確かにランドの裏切りは誤算だけど、理由を考えてあげられるほどこちらに余裕はない。


今はどんなことをしてでも、自身の身を守らなければ、大切な妹まで巻き添えを食らってしまう。たとえ私の身がどうなろうと、それだけは絶対に阻止してみせる。


「レイル、………あなたに私の全てを捧げるわ」


私の唐突な発言に、審問会はにわかにざわめき始める。だけど、この敗北宣言が切り札を使う合図なのだから仕方がない。そう、私の切り札はレイル………聖神教の最高司祭にこの身を捧げることだった。


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