第四話 来訪
レオンハルト・ダールがケルドに着いたのは、7年目の春だった。
彼は1人で来た。魔術団の外套は着ていなかった。減衰院の待合の長椅子に座って、順番を待った。前に6人いた。全員が坑夫で、全員が彼を知らなかった。
待合の壁には、順番待ちの名簿が貼ってあった。400人分の名前と、その横に二つの数字。累計ドラム数と、残余年数。残余年数が3年を切った者の名前には、赤い印がついていた。
赤い印は、41あった。
隣に座った老坑夫が、レオンハルトの視線をたどって言った。
「あんた、外の人か」
「そうです」
「上から数えて17番目が俺の弟だ」老人は名簿を顎で示した。「去年、44でつるはしを置いた。間に合わなかった。俺は58だが、まだ現役だ。俺のほうが先に順番が来たからな」
「順番は、どう決まるのですか」
「残りが少ねえ順だ」老人は言った。「兄弟でも変わらん。俺が30のとき、弟は28で、そんときは俺のほうが残りが少なかった。それだけだよ」
彼はそれ以上何も言わなかった。名簿を見上げてもいなかった。
レオンハルトは3時間、その壁を見ていた。
ニナが4人目の施術を終えて出てきたとき、彼は立ち上がった。
「久しぶりだ」
「はい」
「時間をもらえるか」
「今日はあと2人います」ニナは言った。「終わるのは日没過ぎです。それでよければ」
「待つ」
彼は待った。日が落ちて、坑夫たちが帰ったあと、ニナは彼を奥の部屋に通した。机の上には帳面が積まれていた。
「団の話をしに来た」
「聞いています。ユリウスさんのことも」
「37人だ」レオンハルトは言った。「現在の団員44人のうち、術が組めなくなった者が9人、出力が半分以下に落ちた者が28人。健全なのは7人。全員、入団3年以内だ」
ニナは頷いた。驚かなかった。
「私が来たのは、頼みに来たからだ」レオンハルトは言った。「金は出す。額はそちらが決めてくれ」
「先に、確認させてください」
ニナは棚から白い紙を出して、机に置いた。
「団員の方の、これまでの高出力術の回数は分かりますか」
「記録は全部ある」
「では、1人ずつ数字を出してください。この町では、1日の坑内作業で0.5から0.8ドラム溜まります。魔術団の高出力術は、私の記録では1回でおよそ2ドラムです」
レオンハルトは自分の鞄から綴りを出した。5年分の案件記録と、術士ごとの出撃簿だった。
2人は3時間かけて計算した。
作業は単純だった。術士の名前ごとに、高出力術の使用回数を年別に積む。それに2を掛ける。訓練での使用は記録が残っていないので、実戦の3割を加算する係数を仮に置いた。係数の根拠は、ケルドの坑夫が坑の外で使う低出力の術——選鉱と搬送に使う分——から取った。訓練がそれに当たる。
レオンハルトは一度も口を挟まなかった。数字を突きつけられる側に回るのは、彼にとって初めてのことだった。
ユリウス・カーレン。13歳から30歳までの17年。累計、4,600ドラム。
セシリア・ヴァント。16歳から32歳までの16年。累計、3,900ドラム。
レオンハルト・ダール、42歳。累計、3,400ドラム。
「限界は、およそ4,000です」ニナは言った。「3,500から4,500のあいだ。個人差があります」
「私は」
「あなたは、まだ届いていません」
42歳。累計3,400。限界まで、600。
レオンハルトは自分の手を見た。
「では、抜けるということか」
「粘っていれば」
ニナは彼の腕を取った。外套の袖をまくると、前腕に古い火傷の痕があった。彼女はそれを避けて、肘の内側に手のひらを当てた。
7年前、彼女はこの腕に一度だけ触れている。31人分の表を作った日だ。当時の感触は、水飴だった。指を入れれば動いた。
今は、指が途中で止まった。
彼女はゆっくりと手を滑らせ、止まる場所を探した。手首側は動く。肩に近づくほど硬い。境目は肘の上、指3本分のあたりにあった。
3十分、彼女は動かなかった。レオンハルトも動かなかった。
そして手を離した。
「半分は固まっています」
「半分」
「およそ1,700ドラムが固化しています。残りの1,700は、まだ抜けます。抜けば、あなたは35歳で1,700ドラムの体になります。以後、澱を溜めなければ、限界には届きません」
「以後、溜めなければ」
「はい。今と同じ運用を続ければ、4年で届きます」
レオンハルトは長く息を吐いた。
「ユリウスは」
「無理です」
「セシリアは」
「3,900のうち、固化がどれだけかは触らなければ分かりません。ですが、術が組めない状態まで来ているなら、ほとんど固まっています」ニナは言った。「固まったものは取れません。私は7年やって、一度も取れませんでした」
「戻す方法は」
「ありません」
「探せば」
「7年、探しました」ニナは帳面の山を指した。「ここにある400人分の記録は、全部その試行です。取れませんでした」
部屋が静かになった。
レオンハルトは、そこで初めて、はっきりと年を取った男の顔になった。
「あの報告書を」彼は言った。「私は読んだ。5年前も、去年も」
「はい」
「去年読んだとき、私の回答書に誤りは見つからなかった。今日、ここに来る馬車の中で、9日かけて、もう一度探した。見つからなかった」
彼は鞄からもう一つ、綴りを出した。4枚の紙だった。
ニナはそれを受け取った。自分の字だった。7年前の、今より少し丸い字。4枚目の表は、団員31人の名前と、10段階の数字。
彼女はその表を、今の目で見た。
段階9は、彼女の感覚ではおよそ3,000に相当する。段階7で2,300。段階5で1,600。7年前、彼女はこの数字を「粘りの強さ」としか書けなかった。単位がなかったからだ。単位を作ったのはケルドに来て2年目だった。
「これに単位があれば」彼女は言った。「あの回答書は書かれなかったと思います」
「そうだろうな」
「なかったのは、私の側の落ち度です」
「違う」レオンハルトは言った。「単位を作るには帳面が30年分いる。ハウザーという男の30年だ。お前は19だった」
ニナは4枚を返そうとした。
「持っていてくれ」
「これは団の保管文書です」
「写しだ。原本は綴りの37番目にある」レオンハルトは言った。「私はそれを動かさない。次の団長が読む」
「誤りはないと思います」ニナは言った。「あの時点の判断としては、正しかったはずです」
「慰めているのか」
「いいえ」ニナは帳面を1冊、机に置いた。「私も同じことをしています」
彼女は開いた。順番待ちの名簿だった。
「400人の坑夫がいて、私たちは年に200人しか診られません。残る200人は、順番が来る前に固まります。私は残余量で順番を決めています。若い人は後回しです。その方が全体の被害が小さいからです」
「合理的だ」
「はい。合理的です」ニナは帳面を閉じた。「そして、10年後に、後回しにされた人がどうなるかは分かっています。分かっていて、そうしています。あなたの回答書と、私の名簿は、同じものです」
レオンハルトは何も言わなかった。
「ですから、謝罪は要りません」ニナは言った。「その代わり、条件があります」
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
ブックマークや下の☆☆☆☆☆の評価にて応援していただけますと励みになります!
この作品が面白いと思ったら
『( ゜∀゜)o彡°』
とだけコメントください




