第54話:三代を数える
残り二日で、私たちは千二百四十件を数え直した。
二十年ぶんの認可簿である。最初にこの書架へ来た日、私は頁数と行数を掛けて件数を出した。あのときは、ただの見積もりだった。今度は、一件ずつ検める。
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数えるのは、簡単な仕事ではない。けれど、難しい仕事でもない。必要なのは、決めた通りに数え続けることだけだ。
——観察記録。認可簿、二十年、千二百四十件。検める項目は一つ。両家それぞれに、三代の登記があるか。
「三代あれば〇、なければ×」私は紙を配った。「迷ったら△です。判断はしません」
「判断しないの?」ジェミマが眉を寄せた。
「します。数え終わってから」
数えながら判断すると、数が意見に寄ります。母がそう書き残していた。手帳の三十二頁目である。
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大公家の広間を、二日だけお借りした。卓を十二台並べて、大公家の書記が四人、監査室からギデオン様と私、それにジェミマとニコラ。マティルデ様とグレーテルさんが、勝手に来て座った。
「わたくしにもできますか」
「三代の登記があるかを見るだけです。数えるのに、身分は要りません」
マティルデ様は、九年ぶんの花嫁教育で身につけた姿勢のまま、一日で百四十件を検めた。いちばん速かった。
「……お嬢様」グレーテルさんが呆れていた。「ご休憩を」
「休むと、数が合わなくなりますもの」
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二日目の夜、集計が出た。
千二百四十件のうち——三代の登記が揃っていた認可、千百六件。三代が揃っていないのに認可されたもの、百三十四件。
「百三十四」ギデオン様が紙を睨んだ。「一割強か」
「はい」
「例外はないと、窓口は言っていたな」
「ございません、と伺いました」
私は、百三十四件の一覧を日付順に並べ替えた。数は、並べ替えると形になる。
——観察記録。百三十四件。発生、二十年間に均等ならず。
年ごとの数を数えると、多い年と少ない年がある。多い年は、大公家の帳面で支出のまとまった年と一致した。
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数えているあいだ、私は一度だけ手を止めた。十四年前の一件である。両家とも三代が揃っていて、認可も下りていた。何の問題もない。
問題がないのに止まったのは、片方の家名に見覚えがあったからだ。
ガーランド伯爵家。
王都で、白鳩会に借金漬けにされていた老貴族の家である。一年前、私を縁付ける先として名の挙がった家だった。十四年前、その家はメルテンの家と縁を結んでいる。認可は、二日後に下りていた。
——観察記録。ガーランド伯爵家、十四年前、認可。所要、二日。
線を引きたくなった。引かなかった。引く材料が、この紙にはない。国を跨いだ縁組は珍しくないし、二日という間隔はこの二十年、二百件近く出てくる。
私は、その頁の番号だけを控えて、次へ進んだ。
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「もう一つ、数えたものがございます」
私は二枚目を出した。「却下された申し立て、二百八十九件。そのうち、三代が揃っているのに却下されたもの——十一件」
「十一」
「はい」
「揃っているのに、通らなかった」
「はい」
一覧の一番上に、十七年前の日付があった。申立人の名は書かれていない。訂正の申し立ては、名を残さない。
けれど、私は知っている。
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「これで、二つ言えます」
私は紙を揃えた。「一つ。三代の登記という要件は、二十年前にザーラント様ご自身が字句を整理する形で足されたものです。原本の書き足しと、承認欄のご署名がございます」
「二つ目は」
「その要件を、ご自分で二百四十五回、曲げておられます」
百三十四と、十一。足せば、二百四十五になる。
「通してはならぬものを通し、通すべきものを止めた。二十年で、二百四十五件」
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「殿下」
「なんだ」
「私はこの二日、腹を立てずに数えられました」
「……それは、良いことなのか」
「良いことです」私は紙を胸に抱えた。「腹を立てながら数えると、多いほうに寄ります。あとで数え直されて、こちらの負けになります」
ギデオン様は、卓の上の百三十四件を見た。
「君の母上も、そう書いていたか」
「はい」
「……なるほど。娘は、母の頁を読み直して二十年ぶんを数えたわけだ」
「読み直しただけです」
「読み直すのが、いちばん難しい」
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その晩、私はザーラント様に一通の書状を出した。内容は三行である。
『明日、婚礼認可の場において、当該認可の運用に関する監査の結果を申し述べます。
同席をお願い申し上げます。
——コーデリア・レインズ』
不意打ちにはしなかった。不意打ちで崩れる相手なら、この四十八日は要らなかった。この方は、崩れない。崩れない相手には、逃げ道がないことを先に見せておくほうがいい。
返事は、その夜のうちに来た。一行だった。
『承知いたしました。——ザーラント』
私は、その紙をしばらく眺めた。
——観察記録。返事、一行。文字、乱れなし。
明日、この方は逃げない。逃げない人を裁くのが、いちばん難しい。
お読みいただきありがとうございます! 二日で千二百四十件。「腹を立てながら数えると、多いほうに寄る」——母カサンドラの手帳の一行が、ここで効いてきます。
次回「大公の沈黙」。婚礼の前夜、大公閣下がどちら側に立つかを決めます。
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