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妖国伝エルソラーナス ― 剣と石の叙事詩 ―  作者: 美刀 尊志


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それぞれの道

※活動報告にて物語の舞台となるロワン地方の地図を公開しました。位置関係の参考にどうぞ。

朝の風が街道を吹き抜ける。



テスネリーク軍と、イルージ・ケレスのキャラバンは、そのまま街道に並んでいた。


互いの目的地は同じ。


南部連合エピナスの諸国が集う、クグルス。



長く言葉を交わす必要はなかった。



エリムシュラーナが、ゆっくりと街道の先を見渡す。


「ここから先は、イルージ国境か。」



ミリナスが頷く。


「ええ。」


「まもなくです。」



緋色の外套が風に揺れた。


エリムシュラーナは、一度だけ背後のギリへ視線を向ける。


ギリは静かに頷いた。


それだけだった。



「進路を変える。」


短く告げる。


「西へ。」


命令は、それだけだった。



だが。


八千の兵は、一人として戸惑わない。


隊列は淀みなく動き始める。



キリムは、その様子を静かに見届けた。


そして。


「行こう。」


イルージ・ケレスのキャラバンも、再び歩き始める。


東寄りの街道。



東と西。


二つの隊列は、ゆっくりと距離を広げていく。



クヮデューゥが、小さく息を吐く。


「見事ですね。」


誰へともなく漏らした。



エリムスも静かに頷く。


「あれだけの軍が、一言で動く。」


「よく統率されています。」



ゼルナだけは。


まだ三人を見ていた。


緋色の外套。


灰色の外套。


長槍の武将。


一人ずつ。


ゆっくりと視線を移す。



しばらくして。


小さく目を伏せた。


何も言わない。


だが。


その沈黙だけは、誰よりも長かった。



イストハックが肩越しに笑う。


「次はクグルスだな。」



少し離れた街道で。


エリムシュラーナは振り返らぬまま、右手を軽く上げた。


それだけで十分だった。



やがて。


緋色の外套は、西の街道へゆっくりと遠ざかっていった。




昼過ぎ。


丘を越えた先に、巨大な石壁が姿を現した。


幾重もの旗が、風を受けて翻る。


見張り櫓。


城門。


長く連なる防壁。


イルージ北方国境砦。



ケレスの近衛兵の一人が、小さく息を呑む。


「……これが。」


「国境砦。」



その時だった。


重々しい城門が、ゆっくりと開く。



一頭の大型哺乳獣が、城門を抜ける。


深い青の装甲。


厚く重ねられた外皮。


一歩踏み出すたび、黒雷石を敷いた街道が低く軋む。


巨体とは思えぬ滑らかな足運びで、一直線にこちらへ迫ってきた。


青い外套が風を翻る。



キリムの口元が、僅かに緩む。



イストハックも思わず笑う。


「来たか。」



やがて。


大型哺乳獣は目前で静かに歩みを止めた。


男は、その背から軽やかに飛び降りる。


青い外套が、大きく風を受けた。



豪快な笑みが浮かぶ。


「遅かったな、キリム!」



「待たせた。」


キリムも短く応じる。



イストハックが声を張る。


「エステラーザ!」



男は大きく笑った。



その背後には。


整然と並ぶ八千八百の将兵。


微動だにしない。


まるで。


一枚の鋼だった。


イルージ北方国境を守る。


鉄の軍団。



その先頭に立つ男。



炎の将。


エステラーザ。

※物語の舞台となるロワン地方の地図を公開しました。イルージ砦戦の位置や、この先の旅路も分かりやすくなると思います。活動報告よりご覧いただけます。

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