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妖国伝エルソラーナス ― 剣と石の叙事詩 ―  作者: 美刀 尊志


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十二の陣

※活動報告にて物語の舞台となるロワン地方の地図を公開しました。位置関係の参考にどうぞ。

夜風が、草原を渡る。


静寂は長く続かなかった。



左。


右。


そして正面。


三方向から、黒衣が同時に飛び出す。



「来ます!」


近衛兵の叫びが夜を裂いた。



キリムが黄金のフルーグリッターを抜く。


一閃。



黒衣は剣を受けない。


紙一重で間合いを外す。



その瞬間だった。


ユンタスの重い一撃が横から迫る。


黒衣は身を沈める。



だが、その動きに合わせるように、別の黒衣が前へ出た。



「……入れ替わったか」


キリムが小さく呟く。



「散開!」


ミリナスの号令が飛ぶ。



近衛兵たちが円陣を組み替える。



だが。


黒衣たちは、一人を追わない。


一か所へ固まらない。



常に四人。


互いの間隔を崩さず、滑るように位置を変えていく。



イストハックが哄笑する。


「面白ぇ!」



棒状の柄の先端から伸びた太い鞭が、緑の光を帯びる。


灼けた空気を裂きながら、大きく弧を描いた。



黒衣たちは散る。


だが。


一人が退けば、別の一人がその隙間を埋める。


決して陣形は崩れない。



「なるほど……」


クヮデューゥが静かに呟いた。


「四人で一つ」



エリムスも頷く。


「ええ」


「互いの間合いまで計算されています」



キリムが一人を追う。



その進路へ。


別の黒衣が滑り込んだ。


さらにもう一人。


無理に攻めない。


無理に守らない。


ただ。


一定の距離だけが保たれている。



「三方向……」


クヮデューゥの視線が戦場を走る。



「四人」



「四人」



「四人」



監視所で見つかった記録板。


『十二名』


その意味が、ようやく繋がった。



その時だった。



黒衣たちが、一斉に距離を取る。


速い。


まるで一つの生き物が身を翻したようだった。



イストハックが踏み出す。


「逃がすか!」



「追うな」


キリムの声が飛ぶ。



イストハックが足を止める。



黒衣たちは、そのまま夜の草原へ姿を消した。


誰一人として、振り返らない。


誰一人として、乱れない。



静寂が戻る。



イストハックが舌打ちした。


「結局、一人も倒せねぇか」



エリムスは黒衣たちが消えた方角を見つめていた。


「彼らは勝負をしに来たわけではありません」


「我々を測りに来た」



クヮデューゥは黙って頷く。



監視所。


十二名。


三方向。


今、全てが一つの線になった。



その横で。


ゼルナだけは、夜の彼方を見つめ続けていた。



静かに目を閉じる。


右中指の“ストーン”へ、そっと指先を添えた。


「……違う」


小さな声だった。



キリムが振り返る。


「何がですか」



ゼルナは、ゆっくりと目を開く。


夜風が黒い髪を揺らした。


「この人たちではありません」



誰も意味を測りかねた。



少しだけ間を置いて、ゼルナは続ける。


「もっと奥です」



クヮデューゥが静かに目を細める。


その言葉を、すぐには問い返さなかった。



夜の草原には。


風だけが吹いていた。

※物語の舞台となるロワン地方の地図を公開しました。イルージ砦戦の位置や、この先の旅路も分かりやすくなると思います。活動報告よりご覧いただけます。

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