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妖国伝エルソラーナス ― 剣と石の叙事詩 ―  作者: 美刀 尊志


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湖岸の夜(前編)

※活動報告にて物語の舞台となるロワン地方の地図を公開しました。位置関係の参考にどうぞ。

西の空は、すでに紫色へ変わり始めていた。


レジイ湖から吹く風が冷たい。


一行は監視所を離れ、湖岸近くの小高い丘へ陣を敷いていた。


哺乳獣は円を描くように繋がれ、近衛兵たちが周囲へ警戒線を張る。


火は小さい。


夜目を利かせるためだった。



イストハックが焚き火へ薪を放り込む。


「で?」


「結局、十二人は何がしたいんだ」



クヮデューゥは地面へ簡単な地図を描いていた。


監視所。


街道。


レジイ湖。


クグルス。


三つの監視所へ、小石を置く。


「分かりません」


即答だった。



イストハックが呆れる。


「お前、最近そればっかりだな」



「分からないことを、分かったふりはしません」


クヮデューゥは淡々と続ける。


「ですが」


「敵が街道を制圧する気はない」


「村も襲わない」


「監視所だけを狙っている」



ミリナスが腕を組む。


「監視網を潰した」



「ええ」


クヮデューゥは小石を指で弾いた。


「つまり」


「夜に何かをする」



風が吹く。


焚き火が揺れた。


エリムスは黙ったまま湖を見ている。



キリムが尋ねた。


「待ち伏せか」



「可能性は高いでしょう」



エリムスは短く答えた。


「敵が私を狙っているなら」


「クグルスへ向かう途中で仕掛ける」



「砦の前では遅い」


ミリナスが頷く。



イルージの国境砦。


エステラーザ。


八千八百の兵。


そこへ近づけば、


十二人の特殊部隊では分が悪い。



「なら」


キリムが言う。


「今夜か」



エリムスは答えない。


湖面を見つめたまま、


ゆっくり目を細める。


「……来るなら」


「静かに来ます」



その時だった。


ゼルナが、不意に顔を上げる。



風が止んでいた。


誰も気付いていない。



だが。


ゼルナだけは、


何かが変わったことを感じていた。



右中指の“ストーン”が、


微かに熱を帯びる。



残照。


違う。


もっと新しい。



ゼルナが立ち上がる。



キリムが振り返った。


「どうかしましたか?」



ゼルナは西を見たまま答える。


「います」



全員の空気が変わる。


クヮデューゥが立ち上がる。


エリムスも。


イストハックは、


もう剣へ手を掛けていた。



湖岸。


暗くなり始めた草地の向こう。


ぽつり。


小さな赤い光が灯る。



そして。


少し離れて。


もう一つ。


紫。



風が吹く。


赤と紫の光だけが、


夜の湖岸に静かに浮かんでいた。

※物語の舞台となるロワン地方の地図を公開しました。イルージ砦戦の位置や、この先の旅路も分かりやすくなると思います。活動報告よりご覧いただけます。

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