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妖国伝エルソラーナス ― 剣と石の叙事詩 ―  作者: 美刀 尊志


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十二名

※活動報告にて物語の舞台となるロワン地方の地図を公開しました。位置関係の参考にどうぞ。

監視所へ、夕陽が差し込んでいた。


焼けた壁が赤く染まる。


崩れた梁。


煤けた床。


夕暮れの風が吹くたび、黒い灰が静かに舞い上がっていた。



クヮデューゥは、半焼けになった記録板を見つめたまま動かない。


「十二名」


小さく呟く。



「少ないですね」


ミリナスが言った。



クヮデューゥは頷く。


「監視所を制圧するだけなら十分です」



「ですが」


彼はゆっくりと周囲を見回した。


焼けた机。


倒れた棚。


崩れた門。


「無駄がありません」



イストハックが鼻を鳴らす。


「嫌な連中ってことか」



「ええ」


クヮデューゥは即答した。


「偶発的な襲撃ではない」


「目的が明確すぎる」



焼けた壁へ視線を向ける。


「仕事は完璧です」



イストハックが顔をしかめた。


「褒めてんのか?」



クヮデューゥは少し考える。



「……ある意味」



イストハックは呆れたように肩をすくめた。


「学者ってのは、つくづく変わり者だな」



クヮデューゥは否定しなかった。



エリムスは黙って外を見ていた。



風が草を揺らす。



「十二……」


誰へともなく呟く。



キリムが振り返った。


「何か思い当たるのか」



エリムスは少し考えた。


そして。


「分かりません」


そう答えた。



だが。


「ただ」


「軍隊の動きではありません」



クヮデューゥが視線を向ける。



エリムスは続けた。


「少人数」


「高速」


「それでいて、目的を達成している」


「痕跡を残していない」


夕陽が、その横顔を赤く照らす。


「厄介ですね」



キリムが腕を組む。


「そうだな」



「ええ」


エリムスは短く答えた。


「手練れです」


それだけ言って、再び西を見た。


エリムスの視線は静かだった。


まるで。


まだ姿も見えぬ敵と、既に盤上で向き合っているように。



ゼルナだけは何も言わない。


監視所の外。


焼けた柵にもたれ、遠く西を見ていた。



夕陽が、レジイ湖を赤く染めている。


風が吹く。


水面が揺れる。



だが。


ゼルナの表情には、まだ僅かな違和感が残っていた。


先ほど感じた、“ストーン”の残照。


微かだった。


イエロネスでは辿れない。


だが。


確かに。


そこに何かがいた。



「ゼルナ?」


ミリナスが声を掛ける。



ゼルナはゆっくり振り返った。


少し考える。


そして。


「……何かが変わり始めています」



風が吹く。



「ギゼリオン」


「人」


「国」


「古い時代」



レジイ湖の水面が、夕陽を受けて赤く揺れる。



「今まで交わらなかったものが」


「少しずつ近づいている」



クヮデューゥは何も言わなかった。


ただ、その言葉を静かに反芻するように、僅かに目を細めた。



エリムスも黙っていた。


西へ向けていた視線を、ゆっくりゼルナへ戻した。



その時だった。


近衛兵が、慌てた様子で駆けてくる。


「ミリナス様!」


全員の視線が上がる。


「西の街道に人影を確認!」



キリムが即座に外へ出る。


ユンタスとイストハックも続いた。



夕陽を背に。


一騎。


こちらへ向かってくる者がいた。



まだ顔は見えない。


だが。


その騎影は。


恐ろしく速かった。

※物語の舞台となるロワン地方の地図を公開しました。イルージ砦戦の位置や、この先の旅路も分かりやすくなると思います。活動報告よりご覧いただけます。

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