西へ向かう者達
※活動報告にて物語の舞台となるロワン地方の地図を公開しました。位置関係の参考にどうぞ。
サグアスとの遭遇以降、一行は進行速度を僅かに落としていた。
街道そのものは静かだった。
だが。
静かすぎた。
風が、草原を長く揺らしていく。
右手には、なおレジイ湖の白い水面が広がっていた。
キリムは前方を見据えたまま口を開く。
「群れではないな」
「ええ」
クヮデューゥが頷いた。
「むしろ逆です」
「群れから分離した個体に近い」
イストハックが肩を鳴らす。
「はぐれたヤツらか」
「単純な話ではありません」
クヮデューゥは即答した。
「通常、ギゼリオンは群れ構造を崩すと弱体化する」
「ですが先ほどの個体は、少数行動へ適応していた」
キリムはクヮデューゥの方へ乗っているミュルを寄せた。
「タラサで二頭のスカードルと遭遇した時もそうだった」
クヮデューゥの目がほんの一瞬だけ光を増す。
「スカードルがタラサに……」
エリムスが静かに頷いた。
「北側でも似た報告がありました」
「そして“群れ”は、以前より“統率された型”が増えている」
「集団の大きさによらず、明確な攻撃の意思があります。タラサの遺跡内にいたサンクロルとは大きく異なる」
ユンタスが低く唸る。
「つまり、群れそのものが変わってきていると」
クヮデューゥが頷く。
「可能性は高いでしょう」
ミリナスが視線を上げた。
「ギャリスの影響ですか」
「まだ断定はできません」
クヮデューゥの声は落ち着いていた。
「ですが、偶然として片付けるには一致が多すぎる」
ゼルナだけは何も言わなかった。
だが、その表情には僅かな違和感が残っている。
先ほどのサグアス。
あの個体は、どこか妙だった。
キリムが後ろを振り返る。
「サグアスはタリデューサの南では滅多に見られない。あれを知っているのですか」
ゼルナは少しだけ黙った。
風が吹く。
湖面が白く揺れる。
ゼルナの紫がかった青い瞳は、遠い前方を見つめたままだった。
「昔は、ここまで南へ降りては来なかった」
「少なくとも、群れの境界はもっと北方にありました」
クヮデューゥの目が細くなる。
“群れの境界”。
その言葉に、何か引っかかるものがあった。
タラサ。
サンクロル。
導線防衛。
そして今。
山脈を越え始めたギゼリオン。
別々の現象に見える。
だが。
「……境界が崩れ始めている」
クヮデューゥが、小さく呟いた。
イストハックが眉をひそめる。
「何だそりゃ」
「まだ仮説です」
「タリデューサ山脈が、数百年に渡りそれを担っていた」
「だが、フォローザの滅亡が、タリデューン回廊の“門”を開いてしまった」
クヮデューゥは前方を見たまま続ける。
「南で見られぬギゼリオン」
「そして、各地の群れ行動に共通性が出始めている」
「まるで、何かが境界の向こう側から押し出されているようだ」
そこまで言いかけた時だった。
キリムは再び先頭へ戻ると、不意に哺乳獣ミュルを止めた。
「……煙か」
西側。
街道の先。
細い黒煙が、空へ上がっていた。
※物語の舞台となるロワン地方の地図を公開しました。イルージ砦戦の位置や、この先の旅路も分かりやすくなると思います。活動報告よりご覧いただけます。




