地上
※活動報告にて物語の舞台となるロワン地方の地図を公開しました。位置関係の参考にどうぞ。
「出口まで!」
ミリナスの声が響く。
一行は崩落階段へ向かって駆け続ける。
後方では、なおサンクロルたちが狭路へ溢れ続けている。
押し合うような群れ。
低い唸り声。
紫光。
そのさらに奥。
深部から響く咆哮が、通路そのものを震わせながら、いつまでも響いている。
「急いでください!」
近衛兵たちが調査員を押し上げる。
その瞬間。
後方のサンクロル群が、一斉に狭路へ雪崩れ込んだ。
ゼルナが静かに振り返る。
右中指の“ストーン”が、淡く黄色に発光した。
次の瞬間。
通路内は眩い黄金に包まれ、その空気の密度が大きく変化する。
押し寄せていたサンクロルたちの動きが、一斉に止まった。
群れ全体が、見えない重圧に押さえ込まれる。
低い唸り声。
紫光が揺れる。
だが、一歩も前へ進むことができない。
イストハックが目を見開いた。
「……おい、何だそれ」
その声には、初めて隠しきれない驚きが混じっていた。
ユンタスだけが静かに息を吐く。
「さすがですな、兄上」
ゼルナは何も答えない。
ただ静かに、サンクロルたちを見据えている。
「今のうちです」
ミリナスの声で、一行は一気に崩落階段を駆け上がった。
乾いた風が吹き込む。
白く霞んだ空。
レジイ湖の光。
そして、地上へ。
近衛兵たちが周囲を警戒しながら広場側へ散開する。
調査員たちは、その場でようやく大きく息を吐いた。
地下から追ってくるものはない。
ただ、崩落入口の奥では、なお低い唸り声だけが反響していた。
クヮデューゥは、受け取った記録板を静かに確認している。
地下構造。
巡回線。
水没区画。
王宮前縁。
その全てを、頭の中で整理していた。
やがて、小さく息を吐く。
「……十分です」
ミリナスが視線を向けた。
「ここで切り上げますか」
「ええ」
クヮデューゥは頷く。
「確認すべきことは、ある程度見えました」
その視線が、湖底遺跡へ向く。
「タラサは、死んでいない」
風が、石柱群を吹き抜けた。
「地下構造は機能を残している」
「サンクロルは、それを守っている」
「そして深部には――」
そこで言葉を切る。
誰も続きを促さなかった。
クヮデューゥほどの男が、断定を避けた。
それだけで十分だった。
ゼルナは黙って湖を見ている。
胸の奥には、まだ説明のできない違和感だけが残っていた。
クヮデューゥが静かに振り返る。
「この件は、エピナスへ伝えるべきでしょう」
キリムが目を細めた。
「クグルスへ?」
「ええ」
クヮデューゥは頷く。
「昨夜の襲撃者」
「北の異変」
「そして、このタラサ」
「これらの出来事には繋がりがあります」
ミリナスが静かに言った。
「では、我々も同行します」
キリムが視線を向ける。
「調査隊ごとか」
「はい」
「ここで得た情報は、ケレスだけで抱えるべきではありません」
クヮデューゥも異論は示さなかった。
その目はすでに、タラサの先を見ている。
クグルス。
南部連合エピナス。
そして、北。
静かだった世界が、少しずつ軋み始めていた。
※物語の舞台となるロワン地方の地図を公開しました。イルージ砦戦の位置や、この先の旅路も分かりやすくなると思います。活動報告よりご覧いただけます。




