表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖国伝エルソラーナス ― 剣と石の叙事詩 ―  作者: 美刀 尊志


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/33

退路

※活動報告にて物語の舞台となるロワン地方の地図を公開しました。位置関係の参考にどうぞ。

「ミリナス様!」


近衛兵が焦った声を上げる。



「後退します!」


ミリナスの声が、狭い通路へ鋭く響いた。



調査員たちが即座に後退を始める。


迷いはない。


すでに退路は確認済みだった。



クヮデューゥは最後尾へ回ろうとした兵を制した。


「記録板を」


調査員が抱えていた石板束を受け取らせる。


優先順位が徹底されていた。



その間にも、奥からサンクロルの群れが押し寄せてくる。


だが、一直線に襲いかかってくるわけではない。


狭い通路へ群れ同士がぶつかり合い、互いの身体を押し合うように前へ滲み出ていた。


低い唸り声。


紫光。


重い圧。



その奥。


さらに深い暗闇から、また咆哮が響く。


空気が震えた。



その瞬間。


サンクロルたちの動きが、一斉に変わる。


奥へは戻らない。


いや――


戻ろうとしていない。


群れは押し合うように前へ滲み出てくる。


まるで。


その奥にいる“何か”から距離を取るように。



ミリナスの表情が変わった。


「急いでください!」


近衛兵たちが調査員を庇いながら後退する。



その背後。


紫光が走った。



「後方、接近!」


近衛兵の声が飛ぶ。



次の瞬間。


ゼルナの右手が静かに上がる。


右中指の“ストーン”が、淡い黄色の光を帯びた。


空気が沈む。


押し寄せていたサンクロルたちの動きが、一斉に鈍った。


まるで。


通路そのものへ、深い水圧でも満ちたかのようだった。



その横を、キリムが踏み込んだ。


青白い剣閃。


最前列へ食い込もうとしていた一体だけを、正確に断ち切る。



ほぼ同時に、ミリナスの細身のフルーグリッターが閃いた。


狭い通路の隙間へ滑り込むような斬撃。


別の個体が弾き返される。



群れの先頭が崩れる。



その横穴側へ回り込もうとした個体を、ユンタスの重い一撃が叩き落とした。


崩れた石片が飛び散る。



イストハックは半ば崩落した柱間へ踏み込み、通路脇から現れたサンクロルを強引に押し戻していた。


無理に前へは出ない。


退路を崩さない位置を保ったまま、側面への侵入だけを潰している。



「左側です!」


崩落柱脇を警戒していた近衛兵が叫ぶ。



エリムスが左手を前へ出した。


左中指の“ストーン”が淡く輝く。


次の瞬間。


群れの流れそのものが乱れた。


後方のサンクロルたちが互いの進路を狂わせ、狭路入口で激しくぶつかり合う。


まるで、群れ全体の方向感覚だけを奪われたかのようだった。



ユンタスが低く唸る。


「ほう……」



その時だった。


深部から、三度目の咆哮が響く。


通路全体が震えた。


天井から砂が落ちる。



サンクロルたちが、一斉に身を伏せる。


恐れている。


明らかだった。



イストハックの笑みが消える。


「……おい、何なんだよ、奥の奴は」



誰も答えない。



ただ。


暗闇のさらに奥。


灯火の届かない場所に。


“何か”がいる。



それだけは、全員が理解していた。

※物語の舞台となるロワン地方の地図を公開しました。イルージ砦戦の位置や、この先の旅路も分かりやすくなると思います。活動報告よりご覧いただけます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ