タラサへ
※活動報告にて物語の舞台となるロワン地方の地図を公開しました。位置関係の参考にどうぞ。
朝靄の薄く残る中、ヤン砦の外門が静かに開いた。
昨日の戦いで砕けた柵は、すでに補修が終わっている。
その前を、哺乳獣たちがゆっくりと進み始めた。
砦を出る者たちは十一人。
キリム。
ゼルナ。
ユンタス。
イストハック。
エリムス。
そして、護衛の兵が六名。
外門脇には、サーメルの姿があった。
その隣には、淡い黄の光を湛えた“ストーン”を抱えた兵士が立っている。
「エティルーダの塔より届いたものです」
兵士が恭しく差し出す。
エリムスは、静かにそれを受け取った。
イエロネスの“ストーン”。
淡く脈打つその光を見つめる横顔には、なお消えぬ陰がある。
「……ありがとうございます」
サーメルは首を振った。
「礼には及びません」
そして、その視線はわずかに鋭くなる。
「次は、砦のようにはいかないでしょう」
キリムが小さく目を細める。
昨夜、闇へ消えた赤と紫。
あの撤退は、美しすぎた。
まるで最初から、役目だけを果たしに来たかのように。
「クグルスは北西」
サーメルが地図を広げる。
指先が、レジイ湖の東をなぞった。
「ですが、まずは東のタラサへ」
タラサ。
三千五百年前に滅びた旧都。
今のロワン地方文明の原型となった都市国家。
その遺跡群は、五百年も前に掘り尽くされたはずだった。
「最新の報告では――」
サーメルの声がわずかに低くなる。
「封じられていた地下区画が新たに確認されたようです」
「さらに、夜にはギゼリオンのサンクロルが現れるようになった」
「しかも、群れで、です」
ゼルナの表情から、わずかに静けさが消える。
イストハックの口元が歪む。
「ほう?」
「ケレスの調査隊は現在、その調査に入っています」
「率いているのは、ミリナス殿です」
その名に、キリムの視線がわずかに動いた。
ゼルナはそれを見逃さなかった。
「旧知の間柄でしたね」
「……ええ。共に戦いました」
短い返答だった。
だが、その声音だけで、ゼルナには十分だった。
サーメルは一同を見渡す。
「クグルスへは急がなければなりません」
「ですが、タラサで何が起きているのか――」
「是非確かめていただきたい」
風が吹いた。
砦外の草が揺れる。
一行は、レジイ湖畔を西ではなく東へと進んで行く。
その向こう。
東の空には、乾いた土色の大地が広がっていた。
タラサ。
滅び、掘り尽くされ、終わったはずの都。
だが今、その地下で。
忘れられていたはずの“何か”が、静かに動き始めていた。
※物語の舞台となるロワン地方の地図を公開しました。イルージ砦戦の位置や、この先の旅路も分かりやすくなると思います。活動報告よりご覧いただけます。




