刃の行方
はじめまして。
本作をお読みいただきありがとうございます。
世界観重視のハイファンタジーです。長い旅の始まりですが、ゆっくりと広がる物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。
入口付近では、すでに刃が交わっていた。
狭い通路を埋めるように、黒い影が走る。
その先頭へ、キリムは静かに踏み込んだ。
黄金の長剣が、低く唸る。
一閃。
先頭の影が、胸元を打たれ、その場に崩れ落ちた。
続けて横へ流れるように身を捌く。
二人目の刃を外し、その手元を強く払う。
影は武器を取り落とし、体勢を崩した。
兵たちは一瞬、息を呑んだ。
速い。
だが、それ以上に無駄がなかった。
一歩ごとに位置を取り、
一振りごとに敵が減る。
キリムは剣を返す。
あの一撃は使えない。
ここで放てば、入口ごと砕ける。
それほどの力を振るう場所ではない。
ならば――
足りるだけでいい。
三人目が飛び込む。
踏み込みを見切り、半身で外す。
喉元へ、柄頭。
影が仰け反ったところへ、返しの刃。
その身体が横倒しに崩れた。
最後の一人が、迷った。
その一瞬で終わる。
キリムの剣先が、影の肩口を打つ。
浅い。
だが、それで十分だった。
腕から力が抜け、戦意もまた消えた。
「前へ出るな。守りを固めろ」
兵たちへ短く告げる。
キリムの視線は、すでに外へ向いていた。
門前。
まだイストハックがいる。
その頃――
ユンタスは兵を率い、内部通路を駆けていた。
神鋼石の床が、足音を呑み込む。
角を曲がった、その時だった。
前方を二つの気配が横切る。
鋭い。
息を潜めたまま、風のように遠ざかっていく。
赤と紫。
ただならぬ圧。
ユンタスは追わなかった。
追えば、こちらの陣が乱れる。
それを狙った誘いである可能性も高い。
「二班、右へ。三班はこの先を封鎖しろ!」
即座に命じる。
残る気配は二つ。
こちらを攪乱するために残された影だ。
通路の奥で、黒い影が跳ねた。
兵の槍をかわし、壁を蹴る。
速い。
だが、逃がさない。
ユンタスは踏み込み、剣を振るった。
真正面ではない。
逃げ道へ先に刃を置く。
影が自らそこへ飛び込み、肩口を打たれる。
もう一人が背後へ回る。
兵の一人が倒された。
ユンタスは振り返らず、短く命じる。
「下がれ!」
兵が身を引いた瞬間、空いた空間へユンタスの蹴りが飛ぶ。
影の体勢が崩れる。
そこへ、左右から槍が突き出された。
影は身を捩る。
避けきれない。
足を取られ、その場に膝をついた。
二人の侵入者は、互いに視線を交わした。
短い沈黙。
次の瞬間。
力が抜けるように、その場へ崩れ落ちた。
兵たちがざわめく。
ユンタスは表情を変えない。
「触れるな。武器もそのままにしておけ」
低く告げる。
そして、わずかに眉を寄せた。
徹底している。
捕らえられる前に、自ら口を閉ざした。
その時、通路の奥から別の兵が駆けてくる。
「ユンタス殿! 司令室前の敵影、退却しました!」
「……そうか」
やはり。
赤と紫が引いた時点で、全体の任務は終わっている。
「倒れた者を運べ。負傷者を優先しろ。配置は崩すな」
指示を終えると、ユンタスは門前へ顔を向けた。
外では、なお咆哮が響いている。
イストハックは、まだ暴れているらしい。
一方――
門前では。
「逃がすか、この野郎どもがァ!!」
緑の光を帯びた鞭が、大きく弧を描いた。
悲鳴とともに、影が吹き飛ぶ。
クリルが前脚を振り上げ、地を震わせる。
その中央で、イストハックは上機嫌に吠えていた。
キリムは外門へ歩きながら、小さく息を吐いた。
「……まだ終わっていないな」
砦の夜は、なお騒がしかった。
お読みいただきありがとうございます。
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