侵入者
はじめまして。
本作をお読みいただきありがとうございます。
世界観重視のハイファンタジーです。長い旅の始まりですが、ゆっくりと広がる物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。
ケレルの表面に触れたまま、キリムは外を見ていた。
夜の闇に溶け込むように、黒い影が動いている。
数は多くない。だが、その動きには明確な意思があった。
砦の前面に展開し、間合いを測る――
ただの襲撃ではない。
「……来るな」
キリムが低く呟いた、その直後だった。
外門が開いた。
「おおおおっ!!」
雷のような咆哮とともに、イストハックが飛び出していく。
誰も止める間もない。
巨大な戦闘獣クリルの背にまたがり、そのまま一直線に敵目掛けて突っ込んだ。
物見に控えていたユンタスが何かを叫ぶ。
だが、その声はすでに届かない。
砦前の空間で、イストハックの武器が唸りを上げる。
棒状の柄の先端――そこから伸びた太い鞭が、緑の光を帯びていた。
高温に焼かれたそれは、空気を歪ませながら弧を描く。
振るわれた瞬間、前面の影がまとめて薙ぎ払われた。
焼き切るような音とともに、複数の影が崩れ落ちる。
「ははっ! 柔ぇなぁ!!」
だが――
その一撃の後、左右に分かれていた影が動いた。
回り込む。
速い。
イストハックの側面を取る動き。
「――ちっ」
イストハックの口元が歪む。
次の瞬間、クリルが地を蹴った。
敵を追うのではない。
引き返す。
砦へ向かって、一気に駆け抜けた。
「しまった!! おい、待て、この野郎!!」
叫びは、怒号というより確信に近かった。
――侵入される。
キリムはすでに動いていた。
ケレルから手を離し、指令室を出る。
階段へ向かいながら声を張る。
「ユンタス!」
物見から声が返る。
「キリム殿!」
「兵を五十、入口へ。侵入を防ぐ」
「承知!」
二人は同時に動いた。
神鋼石の床に足音を呑み込まれながら、それぞれ階段を駆け下りていく。
その頃、指令室では――
サーメルはケレルに手をかざしたまま、砦を守るレキシミリードたちへ低く声を放った。
「全守備線、崩すな。“ストーン”を巡らせろ――砦を閉じる」
壁面に埋め込まれた”ストーン”が、一斉に応じる。
緑。
防御の光。
砦全体に、力が満ちていく。
やがてそれは、ひとつの結界のように閉じ始めた。
門前。
イストハックは、なお前面の敵を押さえ込んでいた。
クリルを前面に押し出し、鞭を振るい続ける。
だが、すでに数名がその脇をすり抜けている。
影が砦の内へと流れ込む。
「ちっ……!」
振り返る余裕はない。
正面を崩せば、押し込まれる。
「ちょこまか抜けやがって……!」
歯を食いしばり、前面の敵を押し潰すしかなかった。
入口付近。
キリムがユンタスと合流する。
すでに、数名の侵入が確認されていた。
「八人……分散しているな」
キリムの視線が動く。
「四人はここで捕捉する。残りは奥へ向かっている」
「追います」
ユンタスが応じる。
その言葉と同時に、影が迫る。
速い。
無駄がない。
ただの襲撃者ではない。
「来るぞ」
兵に短く告げる。
次の瞬間、刃と力が交錯した。
一方――
砦内部へ侵入した影たちは、迷うことなく奥へ進んでいた。
だが。
途中で、わずかに動きが鈍る。
「……」
一人が足を止める。
力を流した、その瞬間――
感触が、途切れた。
壁を這う緑の光が、かすかに脈打っている。
「……封じられている」
低い声。
それでも、影たちは進む。
四人は分かれ、それぞれ異なる塔へ向かい始めた。
戦闘は避ける。
兵をすり抜け、奥へ奥へと。
目的は、ただ一つ。
わずかに残る“力”の痕跡を辿るように――
やがて――
そのうちの二人が、指令室の扉の前に現れた。
静かに立つ。
赤と紫の光が、微かに揺れている。
完全には封じきれない“力”が、にじむ。
――通るか。
抑え込まれている。
だが――押し切れるかもしれない。
扉の向こう。
気配を探る。
そして――
抑え込まれた力を無理やり引き出すように、一斉に向けた。
狙いは、ただ一人。
エリムス。
その瞬間。
ゼルナの”ストーン”が、眩い光を放った。
お読みいただきありがとうございます。
今後も更新していきますので、よろしければブックマーク等していただけると励みになります。




