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妖国伝エルソラーナス ― 剣と石の叙事詩 ―  作者: 美刀 尊志


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14/20

侵入者

はじめまして。

本作をお読みいただきありがとうございます。


世界観重視のハイファンタジーです。長い旅の始まりですが、ゆっくりと広がる物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。

ケレルの表面に触れたまま、キリムは外を見ていた。



夜の闇に溶け込むように、黒い影が動いている。


数は多くない。だが、その動きには明確な意思があった。


砦の前面に展開し、間合いを測る――

ただの襲撃ではない。



「……来るな」



キリムが低く呟いた、その直後だった。


外門が開いた。



「おおおおっ!!」



雷のような咆哮とともに、イストハックが飛び出していく。


誰も止める間もない。


巨大な戦闘獣クリルの背にまたがり、そのまま一直線に敵目掛けて突っ込んだ。


物見に控えていたユンタスが何かを叫ぶ。

だが、その声はすでに届かない。



砦前の空間で、イストハックの武器が唸りを上げる。


棒状の柄の先端――そこから伸びた太い鞭が、緑の光を帯びていた。


高温に焼かれたそれは、空気を歪ませながら弧を描く。


振るわれた瞬間、前面の影がまとめて薙ぎ払われた。


焼き切るような音とともに、複数の影が崩れ落ちる。



「ははっ! 柔ぇなぁ!!」



だが――



その一撃の後、左右に分かれていた影が動いた。


回り込む。


速い。


イストハックの側面を取る動き。



「――ちっ」


イストハックの口元が歪む。



次の瞬間、クリルが地を蹴った。



敵を追うのではない。


引き返す。


砦へ向かって、一気に駆け抜けた。



「しまった!! おい、待て、この野郎!!」


叫びは、怒号というより確信に近かった。




――侵入される。




キリムはすでに動いていた。


ケレルから手を離し、指令室を出る。



階段へ向かいながら声を張る。


「ユンタス!」



物見から声が返る。


「キリム殿!」



「兵を五十、入口へ。侵入を防ぐ」



「承知!」



二人は同時に動いた。


神鋼石の床に足音を呑み込まれながら、それぞれ階段を駆け下りていく。




その頃、指令室では――



サーメルはケレルに手をかざしたまま、砦を守るレキシミリードたちへ低く声を放った。


「全守備線、崩すな。“ストーン”を巡らせろ――砦を閉じる」


壁面に埋め込まれた”ストーン”が、一斉に応じる。


緑。


防御の光。


砦全体に、力が満ちていく。


やがてそれは、ひとつの結界のように閉じ始めた。




門前。



イストハックは、なお前面の敵を押さえ込んでいた。


クリルを前面に押し出し、鞭を振るい続ける。


だが、すでに数名がその脇をすり抜けている。



影が砦の内へと流れ込む。



「ちっ……!」


振り返る余裕はない。


正面を崩せば、押し込まれる。



「ちょこまか抜けやがって……!」


歯を食いしばり、前面の敵を押し潰すしかなかった。




入口付近。



キリムがユンタスと合流する。


すでに、数名の侵入が確認されていた。



「八人……分散しているな」


キリムの視線が動く。


「四人はここで捕捉する。残りは奥へ向かっている」


「追います」


ユンタスが応じる。



その言葉と同時に、影が迫る。


速い。


無駄がない。


ただの襲撃者ではない。



「来るぞ」


兵に短く告げる。


次の瞬間、刃と力が交錯した。




一方――


砦内部へ侵入した影たちは、迷うことなく奥へ進んでいた。


だが。


途中で、わずかに動きが鈍る。


「……」


一人が足を止める。


力を流した、その瞬間――


感触が、途切れた。


壁を這う緑の光が、かすかに脈打っている。



「……封じられている」


低い声。


それでも、影たちは進む。


四人は分かれ、それぞれ異なる塔へ向かい始めた。


戦闘は避ける。


兵をすり抜け、奥へ奥へと。


目的は、ただ一つ。


わずかに残る“力”の痕跡を辿るように――




やがて――


そのうちの二人が、指令室の扉の前に現れた。


静かに立つ。


赤と紫の光が、微かに揺れている。


完全には封じきれない“力”が、にじむ。


――通るか。


抑え込まれている。


だが――押し切れるかもしれない。




扉の向こう。


気配を探る。




そして――


抑え込まれた力を無理やり引き出すように、一斉に向けた。


狙いは、ただ一人。


エリムス。




その瞬間。


ゼルナの”ストーン”が、眩い光を放った。

お読みいただきありがとうございます。


今後も更新していきますので、よろしければブックマーク等していただけると励みになります。

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