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妖国伝エルソラーナス ― 剣と石の叙事詩 ―  作者: 美刀 尊志


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12/19

ケレスの王女ミリナス

はじめまして。

本作をお読みいただきありがとうございます。


世界観重視のハイファンタジーです。長い旅の始まりですが、ゆっくりと広がる物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。

第二守備室で、サーメルが静かに口を開いた。


「このところ、タラサの方角に砂煙が立つのを度々目撃しています。ケレスの調査隊は遺跡群の南東の一角に入っているようです」



キリムはわずかに考え込んだ。


「私は都へ帰る途中で彼らに会うためにタラサに立寄りましたが、あいにく出会うことはできませんでした。南東を調査していたのですか……」


「それにしても、打ち捨てられた遺跡群を今さら調べるとは、どういうことでしょう」



「何を調べているかまでは分かりません」


そう言うと、サーメルはここ3日間の調査隊の動向を告げた。




タラサの遺跡群。

それは今から三千五百年ほど前、ロワン一帯を支配したサリューヌ王国の都の残骸だった。堅牢な建造物群が、砂漠の砂に埋もれながら、辛うじて時を越えてきた。王国繁栄の残照とも言うべき場所である。


王国の陰りとともにレジイ湖畔の緑は失われ、今ではそこは土色一色の大地となっている。


歴史から取り残されたこの遺跡群に、今さら何を求めるのか。見聞を広めてきたキリムにも、すぐには思い当たらなかった。




「モナ・サーメル、遺跡群の南東といえば、多くの石板が見つかった一帯ですね」


キリムは思い出すように言う。


「五百年前には、石板の類はすでに掘り尽くされていたはずです。それを今さら調べるというのは、余程の理由があるに違いありません」


「ケレスには親しい友人たちがいます。クヮデューゥという者を知っていますが、ゼルナにも劣らぬ知恵者です。滅多なことでは、調査隊など編成しないはずです」



「それほど大規模な調査隊ではないようですが、キリム殿のお考え通りでしょう」


サーメルが短く応じた。


それから、ふと思い出したように言い添えた。


「率いているのは、ミリナスというケレスの姫君のようです」



「ミリナス……」



「ご存知ですか」



「ええ。よく知っています。そうですか……」


それだけ答えると、キリムの意識に、かすかに過去の光景がよぎった。



 

キリムはサーメルとのやり取りを終えると、第二守備室を出て寝所へ向かった。


扉を閉める。

静寂が落ちる。


徐に装備を解き、黄金の長剣を手に取る。


その刃に、かすかに光が宿る。


あの感覚を、まだ手放せずにいる。


――思い出す。


淡い金の髪。

光を帯びたような、あの少女の姿を。


「あれから二年か……」




ミリナス。


キリムより二つ年下。

当時、十五。


上品で艶やかな外見。

だが、その枠に収まるような性格ではなかった。


重臣も、側近も、彼女の前では調子を崩す。

それを意に介さぬ、奔放さがあった。


――だが。


剣を持った瞬間、空気が変わる。


十五にして、ケレスでも五指に入るエスタリオ。


そのフルーグリッターは、迷いを持たない。


踏み込みが見える。

狙いが見える。


次に何をするか――考えるまでもなく、分かる。




キーヌサリ湖畔。


濁った水面が揺れ、ギゼリオンが唸りを上げていた。


ミリナスは右翼を支え、キリムは中央を率いる。


声は交わさない。


だが――


すでに、呼吸は合っている。



彼女が踏み込む。

同時に、キリムも動く。


左右から食い込むように、隊が前へ出る。


ギゼリオンが反応を遅らせる。


その一瞬で、形勢は決まる。


混乱。


断裂。


崩壊。


ミリナスの剣が閃く。

風のように入り、そのまま断つ。


キリムの一撃が閃く。

次の瞬間、青白い光が弾け、中央を押し潰した。


――戦場では、言葉は要らなかった。


二隊の同時攻勢は、ギゼリオンを薙ぎ払い、湖畔を制圧した。


あの戦いの後――

キーヌサリ湖沼から、ギゼリオンの姿は消えた。




そのミリナスがタラサの遺跡群の調査をしている。


戦場でミリナスの考えをすぐに理解できていたキリムにも、その真意が読めなかった。


――タラサに、一体何があるのだろう。


その問いを胸に抱いたまま、キリムは寝台に身を横たえた。


やがて意識は深い眠りへと落ちていく。




隣の部屋では、イストハックが床に大の字になっていた。


大きく口を開け、規則正しく空気を震わせている。


砦の静寂の中、その寝息だけが、この砦でいちばん平和だった。

お読みいただきありがとうございます。


今後も更新していきますので、よろしければブックマーク等していただけると励みになります。

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