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妖国伝エルソラーナス ― 剣と石の叙事詩 ―  作者: 美刀 尊志


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11/20

黄の残照

はじめまして。

本作をお読みいただきありがとうございます。


世界観重視のハイファンタジーです。長い旅の始まりですが、ゆっくりと広がる物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。

重く沈んだ空気の中で、キリムが左手で剣の柄を押さえながら口を開いた。


「私たちは、この件を話し合うためにクグルスへ向かっています。よろしければ、そこで今の話をしていただけませんか」



エリムスは少し考えた。


「話すこと自体は構いません。ですが、私は何者かに狙われています。同行すれば、あなた方に危害が及ぶかもしれない」



「それなら心配いらねぇ」


イストハックが身を乗り出した。


「おれ様がぶった切ってやる」


雷鳴のような一言に、部屋の空気がわずかに緩む。



「かなりの猛者たちですよ」


エリムスが言うと、イストハックは鼻で笑った。


「ふんっ。おれ様にかかればイチコロだ」



「それは、心強いですね」


エリムスは力なく笑う。



「安心してください」


キリムが静かに言った。


「この男は、ギゼリオン――ギャリオンを丸焼きにして食べる男ですから」



「倒すとすぐ石になるだろ」


イストハックが言う。


「だがな、ジンクリルの亜種は石になるのが遅い。土で固めて一アルムほど蒸し焼きにするんだ。こいつがうまい」



エリムスの表情に、半信半疑の色が浮かぶ。

一同は顔を見合わせ、ようやく少しだけ笑った。


そのわずかな笑いでさえ、今は貴重だった。



「モナ・サーメル、彼の分の装備を頼めますか」


ゼルナが言った。



「承知しました、モナ・ゼルナ。すぐに手配します」


サーメルはそう答えたが、ふと気づいたようにエリムスへ目を向ける。


「ところでエリムス殿、レキシミリードとのことですが……“ストーン”を身につけておられないようですね」



「混乱の中で失いました」


エリムスは苦く言った。


「あれがあれば、ここまで苦労はしなかったでしょう」



「属性を伺ってもよろしいですか。可能であれば、こちらで”ストーン”を用意いたします」


「黄――イエロネスです」


その場の空気がわずかに揺れた。



イエロネス。

それは、イルージではゼフリが持つ属性である。


ゼルナはエリムスを見つめた。

言葉より先に、何かを測るように。



「イエロネスですか……分かりました。ただ、属性主が極めて少ないため、残念ながらこの砦にイエロネスの“ストーン”はありません。都へ急ぎ取りに向かわせましょう」


サーメルはすぐに配下へ命じた。


「出立までに間に合わなければ、追って届けさせます」



それぞれが動き始める。



キリムはサーメルと二、三言交わすと部屋を出た。第二守備室のある塔の三階へ向かう階段へ歩いていく。


続いてイストハックが、案内された寝所の方へ体を左右に揺らしながら進んでいった。あれだけの巨体なのに、この砦の神鋼石の床は足音一つ立てさせない。



ユンタスは、エリムスと最後に短く言葉を交わしていたゼルナを待っていた。やがてゼルナが退出すると、彼も続いて部屋を出る。


寝所へ向かう階段は、最初こそゆるやかに上っているが、やがて螺旋を描いて下りに変わる。見通しの良い廊下の端まで来たところで、ユンタスが口を開いた。


「あのエリムスという男の話は、本当でしょうか」


表情は硬い。


「“ストーン”を持たぬレキシミリードが、度重なる襲撃をかわし続けられるものでしょうか。真実味に欠けるところがあります」


「それに、北方の者を“会議”に出席させてよいのでしょうか。彼が間者ではない保証はありません」



ゼルナは微笑みをたたえたまま答える。


「彼は今、“ストーン”を身につけてはいません。ですが、“力”の残照が感じられます。間違いなく、イエロネスの属性を持つレキシミリードです」


「それに、彼の外套は保護布エルニナスでした。あれがあれば、戦いを避けながら逃げ延びることは不可能ではありません」


ゼルナは少しだけ間を置いた。


「クグルスまでの道のりは長い。私たちの目を欺き続けるのは難しいでしょう」



その答えは理にかなっている。

だが、ユンタスの不安がそこで完全に消えたわけではなかった。



「さあ、今のうちに十分休みましょう。これからが大変です」


そう言ってゼルナは白い歯を見せて笑った。



ユンタスはなお一抹の不安を抱えながらも、賢兄の言うことを信じることにした。やがてゼルナの部屋の扉が、音もなく閉まる。ユンタスもまた、自室へと入っていった。

お読みいただきありがとうございます。


今後も更新していきますので、よろしければブックマーク等していただけると励みになります。

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