黄の残照
はじめまして。
本作をお読みいただきありがとうございます。
世界観重視のハイファンタジーです。長い旅の始まりですが、ゆっくりと広がる物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。
重く沈んだ空気の中で、キリムが左手で剣の柄を押さえながら口を開いた。
「私たちは、この件を話し合うためにクグルスへ向かっています。よろしければ、そこで今の話をしていただけませんか」
エリムスは少し考えた。
「話すこと自体は構いません。ですが、私は何者かに狙われています。同行すれば、あなた方に危害が及ぶかもしれない」
「それなら心配いらねぇ」
イストハックが身を乗り出した。
「おれ様がぶった切ってやる」
雷鳴のような一言に、部屋の空気がわずかに緩む。
「かなりの猛者たちですよ」
エリムスが言うと、イストハックは鼻で笑った。
「ふんっ。おれ様にかかればイチコロだ」
「それは、心強いですね」
エリムスは力なく笑う。
「安心してください」
キリムが静かに言った。
「この男は、ギゼリオン――ギャリオンを丸焼きにして食べる男ですから」
「倒すとすぐ石になるだろ」
イストハックが言う。
「だがな、ジンクリルの亜種は石になるのが遅い。土で固めて一アルムほど蒸し焼きにするんだ。こいつがうまい」
エリムスの表情に、半信半疑の色が浮かぶ。
一同は顔を見合わせ、ようやく少しだけ笑った。
そのわずかな笑いでさえ、今は貴重だった。
「モナ・サーメル、彼の分の装備を頼めますか」
ゼルナが言った。
「承知しました、モナ・ゼルナ。すぐに手配します」
サーメルはそう答えたが、ふと気づいたようにエリムスへ目を向ける。
「ところでエリムス殿、レキシミリードとのことですが……“ストーン”を身につけておられないようですね」
「混乱の中で失いました」
エリムスは苦く言った。
「あれがあれば、ここまで苦労はしなかったでしょう」
「属性を伺ってもよろしいですか。可能であれば、こちらで”ストーン”を用意いたします」
「黄――イエロネスです」
その場の空気がわずかに揺れた。
イエロネス。
それは、イルージではゼフリが持つ属性である。
ゼルナはエリムスを見つめた。
言葉より先に、何かを測るように。
「イエロネスですか……分かりました。ただ、属性主が極めて少ないため、残念ながらこの砦にイエロネスの“ストーン”はありません。都へ急ぎ取りに向かわせましょう」
サーメルはすぐに配下へ命じた。
「出立までに間に合わなければ、追って届けさせます」
それぞれが動き始める。
キリムはサーメルと二、三言交わすと部屋を出た。第二守備室のある塔の三階へ向かう階段へ歩いていく。
続いてイストハックが、案内された寝所の方へ体を左右に揺らしながら進んでいった。あれだけの巨体なのに、この砦の神鋼石の床は足音一つ立てさせない。
ユンタスは、エリムスと最後に短く言葉を交わしていたゼルナを待っていた。やがてゼルナが退出すると、彼も続いて部屋を出る。
寝所へ向かう階段は、最初こそゆるやかに上っているが、やがて螺旋を描いて下りに変わる。見通しの良い廊下の端まで来たところで、ユンタスが口を開いた。
「あのエリムスという男の話は、本当でしょうか」
表情は硬い。
「“ストーン”を持たぬレキシミリードが、度重なる襲撃をかわし続けられるものでしょうか。真実味に欠けるところがあります」
「それに、北方の者を“会議”に出席させてよいのでしょうか。彼が間者ではない保証はありません」
ゼルナは微笑みをたたえたまま答える。
「彼は今、“ストーン”を身につけてはいません。ですが、“力”の残照が感じられます。間違いなく、イエロネスの属性を持つレキシミリードです」
「それに、彼の外套は保護布エルニナスでした。あれがあれば、戦いを避けながら逃げ延びることは不可能ではありません」
ゼルナは少しだけ間を置いた。
「クグルスまでの道のりは長い。私たちの目を欺き続けるのは難しいでしょう」
その答えは理にかなっている。
だが、ユンタスの不安がそこで完全に消えたわけではなかった。
「さあ、今のうちに十分休みましょう。これからが大変です」
そう言ってゼルナは白い歯を見せて笑った。
ユンタスはなお一抹の不安を抱えながらも、賢兄の言うことを信じることにした。やがてゼルナの部屋の扉が、音もなく閉まる。ユンタスもまた、自室へと入っていった。
お読みいただきありがとうございます。
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