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妖国伝エルソラーナス ― 剣と石の叙事詩 ―  作者: 美刀 尊志


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10/21

滅びの報せ―フォローザのエリムス―

はじめまして。

本作をお読みいただきありがとうございます。


世界観重視のハイファンタジーです。長い旅の始まりですが、ゆっくりと広がる物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。

四人は、クリュージ川支流のヤン川のほとりにある渡船砦へと近づいた。



砦を守る三十代半ばほどのレキシミリードは、キリムとゼルナの姿を認めると、すぐにみずから剛鋼製の重い門を開いた。


「モナ・ゼルナ、キリム殿、よくお越しくださいました。さあ、一行の皆様もこちらへ」


守門官――レキシミリードの配下にある砦の守備兵たちは一行を砦の内へと導きながら、歓迎の意を示した。


「モナ・サーメル、出迎えありがとうございます。何かあったようですね」


ゼルナがそう言うと、サーメルは緑の瞳を一行へ向けたまま、


「客人を迎えております。まずは砦へ」


とだけ答えた。


すぐには内容を語らない。

それだけで、ゼルナには事の軽重が知れた。



渡し船は、北岸への往来のためだけのものではない。分厚い装甲の内側には広い船室があり、有事にはそのまま戦闘にも耐える造りになっている。


サーメルを先頭に、一行は船室へ入った。


「モナ・サーメル、北岸の砦では変わりありませんか」


ゼルナが問う。


「このところ、これまでにない動きが見られます。東のケレスが、タラサ近辺の調査を続けております。夜になると時折、強い閃光が見えますので、恐らくギゼリオンとの戦闘かと。暗い紫の閃光ですから、相手はサンクロルあたりでしょう」


「それは毎晩ですか」


「ほぼ毎夜のことです。よく続けるものだと感心するほどに」


「支援の申し出は?」


「特には」


「……そうですか」


ゼルナはそれきり口を閉ざした。

視線だけが水面へ落ちていく。



ほぼ毎夜。

支援要請はない。

それでも調査は続いている。


ただの遺跡調査にしては、静かすぎた。



船は穏やかな流れを進み、半アルムほどでクリュージ川北岸へ着いた。


ヤン砦の門をくぐると、サーメルは一行を右手の一室へ導いた。そこへ続くのは、神鋼石で組まれた薄い燈色の階段だった。足音を吸い込んでしまう階段を上り切り、部屋へ入る。



作戦卓のそばの高背の椅子に、一人の男が座っていた。


肩まで届く、波打った茶色の髪。そこに留められた、ややくすんだ銀の髪飾り。



ゼルナはひと目で、それがフォローザの意匠だと見て取った。


「フォローザの方ですね。私はゼルナ、こちらはイストハック、キリム、ユンタスです」


ゼルナは静かに言う。


「ご様子を見るに、ただならぬことがあったようですが……よろしければ、お聞かせ願えますか」


男は顔を上げた。端正な顔立ちだったが、疲労と消耗は隠しようがなかった。


「仰る通り、私はフォローザのレキシミリード、エリムスです」


低い声だった。だが、張りの奥に掠れが混じっている。


「ご存知かと思いますが、ギャリオンが各地を荒らすようになったのは……私がここにいることと無関係ではありません」



「ギャリオン?」


ユンタスが小さく漏らす。


「北方では、ギゼリオンをそう呼ぶ」


キリムが低く告げた。



エリムスは咳き込み、それから続けた。


「今から三か月前、フォローザは事実上滅びました」



その言葉に、部屋の空気が変わった。



フォローザ。

タリデューサ山脈の北側、タリデューン回廊出口から西方三百リルにある軍事国家。北のギャリオン――ギゼリオンを食い止め続けてきた防波堤。その名が、滅びたという言葉と結びつくこと自体、キリムにはまだ現実味がなかった。



「フォローザが……滅びた?」


ユンタスが、半ば呟くように言う。



「何があったのですか」


ゼルナが促すと、エリムスはゆっくりと話し始めた。


「五か月ほど前、私はタリデューン回廊北方の守備のため、回廊北西の砦へ赴任するよう命じられました。本来であれば、あと四か月は本国で政務に携わっているはずでした」


そこで一度、呼吸が乱れる。


「ここ七年、交代の仕組みは変わっておりません。国王が政治を司りますが、種々の取り決めは我々レキシミリードが担っております。ですから、我々の知らぬまま制度が変わることは本来あり得ません」


エリムスはゼルナを見た。


「ですが、この赴任だけは突然でした。国王の印璽があった以上、従わざるを得ず……後に分かったことですが、これは都から我々有力なレキシミリードを遠ざけるための策だったようです」


「国王の側近たちが怪しい、と以前から噂されていました。東のレキシミリードたちと親密に過ぎる、と。機密すらその経路から漏れているのではないかと疑われ始めていたのです」


ゼルナは何も言わない。

だが、その紫がかった青い瞳はエリムスを見つめ、鋭くなっていた。


「私は部下に探らせていました。やがて都で反乱が起こったとの報せが届き、直ちに砦の兵七千四百を率いて救援へ向かいました」


そこでエリムスの声が沈んだ。


「ですが、都へ向かう途中、ギャリオンの群れに背後から奇襲されました」


キリムの指が、剣の柄に触れる。双盤獣の瞳がほのかに煌めく。


「ほとんどの将兵を失いました。都は荒らされ、焼き尽くされ、国王をはじめ都にいた者たちの消息は分かりません」


「生き延びたレキシミリードたちとフォローザの砦までたどり着くことはできました。しかし、その後も何者かの襲撃を受け続け、命を狙われながら……この地まで逃れてきたのです」



「ギャリオンは、どこから現れたのでしょう」


ゼルナが問う。


「そして、誰に、なぜ狙われているのですか」



「どこから、なぜあれほどの群れで現れたのか――それは分かりません」


エリムスは首を振った。


「狙われている理由も断定はできません。ただ、フォローザを根絶やしにし、生き残った者が他国へ事実を伝えることを防ぐためではないかと考えています」


「ひとつだけ言えるとすれば……ギャリスが何らかの形で関わっているのではないか、ということです」



「黒幕はギャリスということですか」


ユンタスが尋ねる。



「確かな証拠はありません」


エリムスは即答した。


「側近たちは怪しかった。ですが、彼らが黒幕とは思えません。都がなくなれば、彼らの権力もまた意味を失う」


「ただ……真の黒幕がギャリスだとしても、ギャリオンを使って都市を襲わせるなど、にわかには信じ難い。ギャリオンを操ることなど不可能です」


「それでも、我が部隊の後背を、時を同じくして群れが襲った。それが偶然だったのかどうか……」



その言葉の先を、誰も急がせなかった。

お読みいただきありがとうございます。


今後も更新していきますので、よろしければブックマーク等していただけると励みになります。

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