第一章エルフの里⑤ エルフの里へ
忘れがちだが、この世界はまるでラノベなのだ。
一難去ってまた一難。揉め事が収まればまた新たな問題が起こるわけで…
今、このホッとした空気。
そろそろ何かが起こりそうな…って言わんこっちゃねぇ!
霧が出てきた。しかもすっごい濃いヤツ。まるで雲の中にでも入っちゃったんじゃないかってくらいの。
まだ昼過ぎで、さっきまで晴れていた。急激な気温の変化があった訳でなし。
さて、どうする?
「ミキ先輩。いかがいたしますか? ロッジ、出しちゃいます?」
「うーん…霧ぐらいで、って思わなくもないんだけどー」
「でも、下手に動くと迷っちゃったりするっすよ?」
「動かぬ方が得策だろう。白騎士団の実地訓練でもそう教えている」
「あの、ご主人様。あちらの方向にたくさんの人の気配を感じるのですが」
そういえばメルリは気配に敏感だったな。
「なぁ。メルリがあっちの方に人の気配があるって言ってんだけど。なんとなく灯りっぽいのも見えるんだよね」
昼間なのに見えてるんだが。
「それは信用できる情報なのですか?」
ユーリが真顔で聞いてくる。
まぁヘマすればこの人数で路頭に迷うわけだから当然ではあるが。
「信用も何も、メルリの言うことに従って進んだら村があって、お前と出会って今こうなってんだぜ? メルリは二人のキューピッド様だよ。盗賊の接近もメルリが事前に察知してたろ?」
「…確かに。それは信用せざるを得ない、ですね。ミキ先輩、いがかしましょう?」
「いかがも何も、どのみち食料の調達とかも考えなきゃダメだしねー。まぁでも、メルリちゃんをアテに、って責任押し付けるのはアレだから、多数決で。あっち、行ってみるって人ーっ!」
…全員挙手。
「全会一致! じゃー、行ってみよー!」
と、怪しいフンイキの割にはノーテンキに進むのであった。
◆
さて、歩き進むのだが、灯りは一向に近づいて来ない。結構な時間を歩いた気がするのだが…
「メルリ。方向は間違ってないよな?」
「はい…確かにこの方向に人の気配を感じるのですが…」
メルリは少し言い澱んだ。自分の中では確実なのだが現実がついてこないと不安にもなる。
そして
「え?」
急に辺りが夜のように暗くなったかと思えば
「…村だ…」
オレたちを覆った闇も霧も晴れ、目前に集落が現れた。
それは、眩いばかりの光差す、新緑に包まれた村。
ここんとこ大きな街に居てばかりだったんで忘れかけてたが、ここは中世欧州風の世界観だったな。
そして目の前にあるのはゲームなんかでよく見た、既視感を覚えるほどの中世欧州風の村。
ちょっと感動するぞ。
さらに言えば、これがエルフの村だったりしたら満点なんだが…
村を目前に立ち尽くすオレたち。
村の家々からワラワラと人が出てきた。
そのうちの一人がオレたちに声を掛けた。
「お珍しい。ヒトのお客様ですか。ようこそ、エルフの里へ」
一目で気付くその特徴、尖った耳。
満点、だ。
◆
長老?と呼ぶには若過ぎる男のエルフに案内され、彼の家へ招かれた。
招かれた、って言っても…何せこっちは7+1名の大所帯。リビングに通してもらったが、まぁギュウギュウよ。
話の席にはもちろんパイセンが着くが、もう一人。
「メルリが、ですか?」
「だってここ、エルフの里だそうだぜ? だったらこっちもエルフ代表を、ってのがスジじゃねぇかなぁ? それにメルリも聞いてみたいことがあれば直接聞けるしな」
「そう、ですね。ご主人様がそうおっしゃるなら」
うーん、オレがどうこう関係ないと思うんだけど。
「私はこの里の代表、とでも言えばいいですかね、オルフィンといいます」
向こうから切り出し、自己紹介される。それに応え、オレたちも一通り名乗った。
あれ? フルルは? と見回せば「いつもの特等席」、か。
「さて、皆さんは転生者でらっしゃいますな」
「リバース?」
「【設定】により形を持ったこの世界の者を先住者、転生し、この世界に形持った者を、私共は転生者と呼んでいます。彼女は…どちらとも少し違うようですが。エルフ、ですか」
「まーそうなんだけどー、そういう細かいとこは、まぁ、いいかなーって」
「それで、このエルフの里というのは、エルフしか住んでいないのですか?」
質問切込隊長ユーリの質問タイムが始まる。
「そうです。とはいえ大部分がネイティブ、私を含め一部がリバースですね」
「ネイティブとリバースって、何が違うのですか?」
「ネイティブは【設定】より生まれし者ですから、個性はあるにしてもおおよそ考え方の傾向と言いますか、意見の方向は同じ方に向きます。リバースは元は人ですから、考え方も行動様式も人それぞれ。まぁせっかく転生するのであればエルフになってみたかった、みたいな者ばかりです。私も含めてね」
ヒミコが女に憧れたように、エルフになってみたい、なんて願望もあったりするんだな。その辺は人それぞれ、か。
「ネイティブにも【人格設定】はあるのですか?」
「【人格設定】はあるようです。ただし我々リバースのように【設定】で特殊な能力を持ったりはしないようですね」
まだ話の途中なのだが…
ドンドンドン
激しくドアを叩く音。
「ん? やれやれ、乱暴な訪問者ですね。すみません、少々席を外します」
そう言ってオルフィンは玄関へ向かう。
◆
「今ここに旅行者が来ただろう?!」
「ああ、お客さんとしてもてなしているが」
「あの中にエルフォイドがいるぞ!」
◆
バカでっけー声で喋りやがるから全部こっちに筒抜けだ。
そしてオレだけではないだろう、それが聞こえたのは。
エルフォイド。
確かにその言葉が。
その証拠にか、メルリの身体がビクッとなってオレに振り返り、不安げに見上げているのだ。
「ご主人様…」
「大丈夫だ」
とメルリの両肩に手を乗せるより早く。
「大丈夫。あたしたちがついてる」
パイセンがメルリの手を握り、誰もいない虚空を、厳しい眼差しで見つめている。
「ミキミキさん…」
◆
「やれやれ…」
オリフィンが頭を掻きながら戻ってきた。
「状況は分かりました。我々がここから退去しましょー」
パイセンがキッパリと言う。
「せっかくのお客様なのに申し訳ないですね。いま来たのはみんなネイティブのエルフですよ。先ほどもお話ししましたが、行動が一様なんですよね。それで、皆さま、これからいかがするつもりで?」
「うーん、この時間から移動ってわけにもいかないから、どっかその辺でロッジ張って、明日ここを離れる感じかねー」
「それでしたら、よろしければ私がそちらへ出向きましょう。話の方も途中ですから」
「それは助かります。そんじゃ行こっかー」
◆
出てみればゾロゾロといるわいるわ、お出迎えのエルフの皆さまよ。コソコソ何か言ってやがるが、まぁ聞こえてるさ。
エルフォイド、とな。
◆
里と外界の境界線とも言える柵を出る。途端に霧が立ち込めた。つまりはまぁ、そういうことで、どうやらこの霧はエルフの里を覆うように立ち込めているようだ。
少し歩いたところにそこそこ広い場所を見つけたのでここをキャンプ地とする!ことに。2棟張るから場所選びも大変よ。
「どうぞ。お入りください」
メルリが案内する。
「ほほう、なかなか立派なロッジですな」
さて席に着き…しかしメルリは「自分の家」ともなれば働いてしまう。まぁ小難しい話しするよりそっちの方が気が楽かもな。
席にはパイセンとユーリが着く、のだが。
「さて、何の話でしたかな?」
「続きの前に聞かせてくれッ! エルフォイドって何だッ!?」
さすがにオレも黙ってらんねぇ。
「カナっちー、落ち着きなよー」
「落ち着いてられっかッ! そのエルフォイドとやらのおかげで、こっちゃモリブデンから出て行かなきゃならなくなったんだぜェッ?!」
「モルドレンです、カナート」
「大体合ってる!」
「…ヒトとエルフの間の存在、とでも言えばいいでしょうか。彼らネイティブはエルフォイドと呼んでいますが、我々リバースではヒューマネルフと呼んでいますが」
「呼び方の違いはどうでもいい! なぜそれでメルリが誹られるような目に遭わなきゃなんねぇんだ!」
「ご主人様…! あの、落ち着いて」
「大丈夫。オレは冷静だ」
とは言うが、正直、さっきのエルフの群れを見て心中穏やかではない。
「…ヒューマネルフというのは非常に珍しい存在でして、ごく稀にこの里へ迷い込んできた方をお見受けする程度。ただ…」
「ただ…?」
「夏至の頃にはこの里にエルフイーターが現れるのです。ヒューマネルフが来るのがたまたま夏至の頃が多く、それで、ネイティブの間ではヒューマネルフが現れるとエルフイーターが来る、と思われているようで。実際には関連性は無いのですが」
「エルフイーター…って何?」
「我々リバースの間でそう呼んでいるのですが、要は巨大なキメラなのです」
キメラ…こないだのヤツか。ありゃぁ厄介だった。頭飛ばされたもんな。
「ヤツは夏至の頃にこの里へやってきて、エルフを選んで喰うのです」
「エルフを」
「喰う…?」
「はい。エルフのニオイを嗅ぎつけるのか、選んでエルフを喰うのです」
「なんでー?」
「さぁ…それはエルフイーターに聞いてみなければ、というところですが、現在3タイプのエルフイーターが確認されてまして、今年は2型が来る可能性が」
「それは強いのですか?」
「ええ。何しろ頭がカメレオンで胴体はカメ。昆虫の脚で、トカゲの尻尾を持つもので」
あれ?
「それは…モルドレンに出たキメラとよく似ている…」
「キメラが? はて、どういうことで?」
「先日モルドレンで厄介な連中と戦闘になりまして、その時相手が召喚魔法を使ったらしく、巨大なキメラが現れまして。それは倒したのですが、先ほどこちらのカナートが言ったように、そちらのメルリさんがエルフォイドとされ責任を被せられそうになりまして」
「そう…だったのですか…それはおそらくこの里からモルドレンに移ったエルフの仕業でしょう。成り代わりましてお詫び申し上げます」
と、オルフィンはメルリに頭を下げた。
「いえ、あの、メルリは、その…何もされてませんので…眠ってましたから…」
そういやそうだ。
「あの、でもご丁寧にありがとうございます」
とメルリも頭を下げた。
「それにしても…そのキメラ、エルフイーターを倒したと?」
「はい。こちらの…というべきか、メルリさんが」
「なんとっ!?」
そりゃ驚くわな。
「まぁその辺はこっちの事情もあるんであんまり詳しく話せないんだけどー、そのエルフイーター?をぶっ倒したらまずは安心じゃないのー?」
「そうなのですが…まだ3型が残ってますからね。今のお話だと倒されたのは2型のようですから、問題の先送り、といったところでしょうか」
「その、3型というのはさらに強い、と」
「ええ。最凶最悪と言っていいでしょう。1型2型は合成した元ネタがまだ分かりますが、3型はもはや何を掛け合わせたものなのかすら分かりませんで…おそらくキメラ同士を掛け合わせて合成したものではないか、と考えています」
もはやドリンクバーとスープバーとサラダバーでカクテル作ったみたいな話になってきた。
ふと、さっきゾロゾロ群がってたエルフを思い出す。アイツら喰われちゃうのか。そりゃ命に関わるっつぅなら真剣にもなるか…
「それで、エルフの皆さんが食べられてしまって、どのくらい人口は減ったのですか?」
「それが…減っていないのです」
「はぁっ?」
「もちろん、一時的は減るのですが、新しく生まれたり他所から入ってきたりしまして」
「ちょっと待ってー? この世界、【フォビドゥン】っていうらしいんだけどー、子供って生まれないんじゃなかったっけー?」
「え? そうなのっ?」
「ああ、カナートにはその辺、まだ必要ないかなと思い、話してませんね」
…必要なくて悪かったな…
「この世界では誰しも成長しないし死なない、とはお話ししましたが、そうであれば新しい命も生まれないのです。仮に受精してもそこから先へ進みませんからね」
「あ、そうか。なるほど」
細胞分裂が起きなければ老化もない。それなら寿命で死ぬこともない。それって時が止まってるのと同じじゃね? ん? だから時計やカレンダーがないのか? いやでも季節はあるしな…うーん、なんだか分からなくなってきたぞ?
「どうもネイティブ同士だと子供が生まれるようなんですよね」
「どうやって…」
「いやいや、他所のお宅の『夜の事情』は聞けないでしょう」
まぁそりゃそうだ。
「リバースのエルフは皆さんと同じですね。子宝に恵まれたという話は聞きません」
「他所から来るというのは…街や村からですか?」
「いえ、これが皆さん一様に『森を焼かれて来た』と言うのですよ」
な、何だと?!
「ちょっと待て。メルリにもエルフの森を焼かれたって記憶があるんだが、どうも怪しいんだよな。他にもそんなヤツいるのか?」
「他にも、というより私も含めて全てのエルフがそのような記憶を持っています」
「はぁ?」
「これはおそらく、この世界のエルフの【設定】がそうなっているのではないか、と睨んでいます。ネイティブは置いておいて、リバースのみんなに聞いても焼かれたと答えますがその詳細に踏み込むと途端にあやふやになります。焼かれた結果だけで、それ以前の記憶がないんですね。私もそうです。以前の記憶といってもそもそもこの世界はできてから10年ほどしか経っていませんが」
「エエーッ?!」
「何ですって?!」
「サンプル数はそう多くありませんが、ここのリバースや各地を放浪してここを訪れる旅の方、皆さんに聞いてみましたが、遡って10回の夏至を迎えたというのが最長でした。その方のお話ですと、この世界に転生した時点で昔からここにいたような記憶が備わっていたそうです」
「だってさー。ユー君、分かったかい?」
「分かりましたが…解りません…」
ユーリが分からんもん、誰が分かるんだ、って話だが。
「ああ、もう日が傾いてますな、そろそろお暇させていただきましょう」
「貴重な情報、ありがとうございます」
「いえいえ、情報だけで分かってないことばかりで。そうそう、里で取れた収穫物、いかがですか? ロマネスコというブロッコリーのような野菜なんですが」
「いいんですかー? ありがとうございまーす!」
「後ほどいただきに伺います」
「分かりました。それでは失礼します」
◆




