第一章エルフの里④ ミキの過去、ウランちゃん
翌朝。
「おはようございます」
キッチンに立つはメルリ。
着ているのはユニフォームとも言えるメイド服。
なんか…久しぶりに見た気がするんだが。
「ああ、おはよう」
ダイニングを見渡せば、いつも朝から賑やかな人がいない。
「パイセンは?」
「さっき見に行ったら起きてたからもうすぐ来ると思うよ」
「ヒミコは…何やってんの?」
「見れば分かるでしょ? 朝ごはんの支度。わたし、メルリ先生に習って美少女完全体を目指すんだ。それでお手伝いしてるの」
「そんな、先生だなんて」
自分で美少女言っちゃうあたりに制服戦士的な厚かましさを感じなくもない。
「おはようございまーっす」
「朝食を馳走になりにきた」
お隣さん(?)のグランディールとリリアもやってきた。
あと一人、だが
パンパンッ
部屋の前で顔を叩き気合いを入れている人が。
「メルリちゅわーん! おはよー!」
ビャッとキッチンへ行くとメルリに抱きつく。
「きゃっ! あ、ミキミキさん。おはようございます」
「何食べるのー?」
「ご飯とお味噌汁と」
メルリは…まだ硬い、か。
それにしても、見た目に反して苦労人なんだな、パイセン。
◆
今日も歩く。
目的地もなくただひたすら。
今朝、朝メシの準備で一緒だったせいか、メルリはヒミコと並んで歩いている。
料理の話でもしているのか、盛り上がってるな。
それで、いつもヒミコと並んでいるパイセンが余っているわけだ。
「かーのじょ。オレと一緒に歩かない?」
「ふんっ。カラダ目的のナンパなんか、お断りよっ」
「元気ねぇなぁー」
「まーねー。昨日はわんわん泣いちゃってさー。目とか腫れぼったくて。鏡無いとこういう時不便よねー。どう? あたし、顔大丈夫?」
「ちゃんとついてるぞ」
「あー、うん。ありがとう。それで、メルリちゃんはどうだった? あの後」
「まぁ泣いてはいたけどな。目の前でケンカがおっぱじまってビックリしたってとこだろう。親しくしてたつもりの人が急に敵意めいたものを向けてくるから」
「そーゆーつもりはなかったんだけどなー。言い過ぎちゃったんだろうなー」
「受け取り方は人それぞれってもんよ。でも朝はパイセンから声掛けてもらって、安心した。メルリはまだちょっと硬かったけどな。オレにはそういう芸当できねぇ。大いに学ばなくてはな」
「男相手のが楽よねー。女は難しいなぁー」
「パイセン、前世は男だったん?」
「いやいやいや。バッキバキの女よ?」
女でバッキバキって言わんと思うがなぁ。
「女同士ってめんどくさいの?」
「めんどくさいわよー。だって私、それで死んだんだもん」
「…え?」
「大学のサークルでね、まぁいわゆるオタク系のサークルに入ったのよ。そういうサークルだからさ、女でありゃ大体『姫』扱いチヤホヤされるもんなんだけど、私は全然でねー。女は何人かいて、その中に目立つ子がいたワケよ。おっぱいもデカくてさぁ。そりゃぁもう、モテるモテる。チヤホヤされるんだけどさ、人によっちゃぁチヤホヤされると天狗になって、にょーんって鼻が伸びちゃう子もいるワケよ。その子はまさにそれでね、男どもはみんな言いナリ。女の鼻がにょーんって伸びれば男どもの鼻の下がにょーんって伸びるワケ。まぁこっちもさ、それじゃ面白く無いから言ってやったのさ」
「なんて?」
「マタのアナ使わしゃオトコなんかいくらでもドレイにできるよなって」
「あー…」
「そしたらドンって押されてさ。階段を真っ逆さまに一番下まで落っこっちゃった」
「あちゃー」
「まさに『あちゃー』よ。落っこちながら『あちゃー。言い過ぎたー!』って」
「…笑い事でいいのか?」
「まぁ今じゃ笑い事よー。相手の気持ち考えないでズケズケ言っちゃダメなんだってね。反省したからこそ、今の私があるってこと、なんだけど… …私は…みんなに優しくできているのかな…」
「十分に」
「カナっちが言うなら信じられるね」
「そうかぁ?」
「だってメルリちゃんのご主人様だよ?」
「それ、関係あんの?」
「アリアリのオオアリクイよ!」
「それは意味わかんね」
「まぁさ、私のマネしてみたところでいいことないかもしんないから、カナっちはカナっちでいいんじゃなーい?」
「まぁ好きにさせてもらうさ」
「あぁ、その方がいいやねー」
ふと前を見ると、メルリが立ち止まってこっちを見ている。
立ち止まっているので、オレたちは追い付くわけだが。
「どうした?」
「いえ、あの、別に…」
これは…メルリクイズ? 今のお気持ち当てなきゃダメなヤツ?
「ご主人様は、ミキミキさんと仲直りしたんですね」
オレの横に来て、一緒に歩き出した。
「は? 仲直りも何も、ケンカも何もしとらんのだが」
「でも昨日の夜、あんなに」
「だから言ったろ? オレもパイセンも、自分の役割を果たしただけだ。別に仲が悪くなったわけじゃないぞ?」
「メルリちゃんさ、歩きながらでいいから、あたしの話、聞いてくれるかな?」
「…はい」
再び歩き出すが、メルリとパイセンの間にオレが挟まってる状態。つまりはこれが今のメルリの心の距離ってとこなんだろうな。
「あたしね、メルリちゃんのこと、大好きなんだ。とっても。一方で、このパーティーのリーダー的な立場にもなっちゃってるから、みんなのことも考えなくちゃならない。そうなるとね、言わなきゃいけない時には言わなくちゃいけなくなっちゃう。どんなに大好きな相手でも。それで嫌われちゃうこともあるんだけど、でもあたしの中で譲れないところってあるから。そこは曲げたくない。だから、大好きなメルリちゃんにはそこんとこ、分かって欲しいなって。嫌いでキツいこと言うわけじゃないんだって。どう…かな?」
パイセンはこういう時、ハッキリ言うタイプなんだろう。男はそれで納得できるが、女はどうなのかは知らん。一方で、最後の方、ちょっと言い淀むあたり、パイセンも全てに自信があって言うわけじゃないんだな、と。そういう人間臭いところがこの人の魅力なんだと思う。オレたちの上に立つ者でありながら、同じ地平で話をしている感じがする。
そして…あとはメルリの問題だろう。それを受け止められるかどうか。
「…あの…ミキミキさん…」
「ん? なに?」
「…あの、隣に行っても…いいですか? 一緒に歩いてくれますか?」
「はァァァァァァァァァァァァァァ」
パイセン、急に奇声を上げる。
「来て! 来て! こっち来て! 一緒に行こう! 手も繋ごう!」
「はぁぁ…! ハイッ!」
と、久しぶりに聞く、メルリの元気な返事。パイセンの手を両手で掴み、一緒に歩き出した。
「じゃ、メルリを頼む」
「おうヨ! もう返さない!」
「…エェっ?」
メルリはパイセンを見上げて固まる。本気にしたらしい…
「ウソウソ、冗談よ!」
「ああん、もう…」
固まった顔が笑顔に変わる。
うん。いつものペースだ。
パイセンの目にキラッと光るものを見た気がするが、気のせい、にしておこう。
そしてヒミコにも追い付いたので
「あとは頼んだ」
と一声。
「任しといて!」
と、メルリのもう片方のサイドへ。それは見慣れたフォーメーション。
これは丸く収まった、かな?
オレはオレで、ユーリの横へ。これもいつものフォーメーション、だ。
◆
夜。
今日の夕食は…素晴らしかった、の一言に尽きる…
何しろ笑顔のメルリが笑顔で作ったのだぞ? そりゃ込められるパワーに違いが出るってものよ。
ただ、今日はヒミコもキッチンに入って手伝い、パイセンも配膳を手伝ったりしている。雨降って何とやらで、女子組3人の絆が深まったってところだろうか。
こうなると落ち着かないのは白騎士団の2人なのだが
「あの、メルリ殿…ワタシ達も何か手伝えることがあれば…」
「大丈夫ですよぉ。座って待っててくださぁい」
メルリはご機嫌だが、2人にはむしろプレッシャー、だな。
食後。
「さて、第3回メルリさん有識者会議を開催しようと思うのですが」
ユーリの言葉に隣のメルリがビクッとなり俯く。
無理もねぇ、昨日がアレだったからなぁ。
「この件は…言い出しっぺのカナートから、でよろしいでしょうか?」
「ああ」
オレは立ち上がる。
「え…? ご主人…様?」
不安そうに見上げるメルリ。
安心しろ。オレはいつでもメルリの味方だからな。
「あのさぁ、みんなあの子『裏メルリ』とか呼んでんじゃん? あの子に名前付けてあげてもいいんじゃねぇかと思うんだ。なんかさ、人扱いしてない上に仲間外れっぽい気がするんだ」
シーンとする『会議場』。
チラリとメルリを見れば驚きと喜びの良い表情。
「カナっちぃぃぃ…」
「え? 何? 何?」
俯いたパイセンから唸り声のような何かが聞こえたが。
と思ったらガバッと立ち上がる。
「キミは本当に良い人だなーっ! その通りだ! そうだよ、まず名前だよー! 『裏』とかさ、エロビデオじゃないだから!」
その例えはいかがなものか…
「で、カナっちが付けるんじゃダメなの?」
「…さすがにあの子が気の毒だ…」
「そっか…それじゃ誰かアイディアある人ー?」
パイセンが率先して仕切る。オレよかよっぽどパイセンの方が良い人だぞ? パーティーの輪のためなら身を削る覚悟すらあるんだからな。オレはメルリだけで手一杯だってのに。
さて、パイセンがそう切り出して右手を挙げてしばらく経つが…
「…あれれー? 誰も意見ないのー?」
「ミキ姉さん、人の名前決めるって難しいですね…」
だろー? 技名だって難しいのに。
「メルリちゃんはどうなん?」
「うーん…自分に『メルリ』以外の名前を付けるようなものなので…」
それもそうだ。メルリ自身は彼女を『メルリ』と呼んでるんだからな。
「とりあえず裏のメルリちゃんってことで『ウラノ』ちゃんでどうっすかねぇ…」
なんて投げやりな妥協案だ…
「ウラノちゃん?」
「ウランちゃん?」
「ウランちゃん!」
「なんか、それ良い! ウランちゃん!」
「ウランちゃん。どお? メルリちゃん!」
「では、それで」
「え? 良いの? そんな適当で?!」
「何にも名前が付いてないよりは全然良いですから」
「そ、そお…?」
「では『彼女』に伝えておきますね。あなたの名前は『ウラン』だよって」
「でもなんか聞いたことない?」
「…ん? あー、アトムの…なんだっけ?」
…なんだっけ? なんかこう、概念的なところはふんわりと頭にあるんだが上手く言語化できんな…
「まぁいっかー。それじゃみんなも『ウラン』ちゃんって呼ぶようにねー」
「「「「「「「はーい」」」」」」」
「それでは本日の有識者会議は閉会でよろしいでしょうか?」
「よろしいでーす!」
…なんか頭に引っ掛かるものがあるんだが、何がどう引っ掛かっているのかよく分からんな。パイセン同様、まぁいいか、とするしかないのか。
◆




