第一章エルフの里③ 第2回有識者会議②メルリの秘密
「それでは、改めまして、第2回メルリさん有識者会議、始めたいと思います」
クイクイとメルリがオレの袖を引く。
「ご主人様。メルリの会議って何ですか?」
「オレも分からんよ…」
と、非常に正直に答えた。
「さて、ご本人を交えての会議となりますが、議題の中心を考えますと、メルリさんが質問攻め、悪く言えば集中砲火を浴びてしまう可能性がありますので、議長提案としてメルリさんに弁護人を立てることを提案いたしますが、いかがでしょう?」
「それならオレが」
「やるのは規定路線として」
「おぅ…」
「まだ比率的にはまだメルリさん側が不利なのですが」
「ワタシがやろう」
「グランディール…?」
「オスカレッテさんはむしろ被害者側では…」
「被害者などではない。そもそも被害などない。アレは、ワタシの剣技の未熟、ワタシ自身の未熟さから来たものだ。ワタシはメルリ殿に係る嫌疑を払拭したい。故に、メルリ殿に付く」
付くって…ケンカするわけじゃないんだけどなぁ。
「そういうことであるならば。それでは始
「ちょっとまったー! なのでして」
「フルルさん?」
「ボクはメルリのなかで、メルリいがいにはゆいいつ『メルリ』にあったことがあるのでして。なら、メルリのみかたをするのはとうぜんなのでして」
ムッフーと鼻息も荒く、パタパタと飛び上がるとメルリの頭の上にぺたっと貼り付いた。
「なるほど、道理です。味方はともかく、フルルさんの意見は貴重かと思われます」
「ぶーぶー! なんかあたしたちが悪者みたいじゃーん!」
「まぁまぁ。皆でメルリさん側では話は進展しそうにないですから。ディベートだと思って進めましょう」
お? そうか。メルリに童殺服を選んだ悪の3人組があっち側なんだな。
「ご主人様、ミキミキさんもヒミコさんもリリアさんも優しい、良い人たちですよ? 悪とかじゃありません」
「ん? ああ、分かってるが」
「それに、どうさつふく…って何ですか? サージエンスで皆さんに選んでいただいたお洋服のことでしょうか? お気に召しませんでしたか?」
上目遣いにグイグイと質問攻めにされ、どう答えたもんか、腕を組み考える。
「うーん…」
お気に召さんも何も、似合い過ぎるところが問題、とでも言うか。
ん? …あれ? …まさか…
うーん、あの服、メルリに似合い過ぎて殺されちゃうよー、ってくらい似合ってるってことなんだけどなー。
…どうだッ?
と、メルリの様子を見れば、耳まで真っ赤に茹って俯いている。
これって…やっぱり…漏れてる?
「はい…」
茹でメルリが小さく答える。
ユーリさんや。
「やっと気付きましたか」
そうか。ずっとか?
「僕はモルドレン出てから気付きましたが、ずっと、です」
そうか…もう心を閉ざすしか…
「カナートはまたもれてるのでして?」
隣で問うフリルに、無言でコクコクと頷く。
「うっふっふーでして。やっとでばんがきたのでして。カナート。あたまをだすのでして」
このやり取り。まさか…
「ではいくのでして!」
ゴッ
またこれか…しかも…
「イってェェェッ!!」
なんだこの…なんだ?
打撃の主であろうフルルを見ると
「むっふー! でして」
誇らしげに顔の前で拳を握ってる。
「フルルさんや。なんてことをしてくれやがりますか」
「おおばばさまじきでんなのでして!」
あのババァ!
しかしフルルのそのちっちゃな手で殴られてこの痛み…
ニンフってホントはめちゃくちゃ強いんじゃないだろうか?
「コントはそのくらいにして、そろそろ始めたいのですが」
コントじゃねぇよ…
「さて、本日の議題はやはりもう一人のメルリさん、通称『裏メルリ』と我々が呼んでいる方に関してになるのですが」
自分の名前、そしてもう一人の『メルリ』の名が出て、メルリは表情を曇らせ俯いた。
オレは何ができるわけでもないので、メルリの肩を抱き寄せ、小さく呟いた。
「大丈夫だ。オレがついてる」
メルリはオレの腕の中で小さく頷くだけだった。
「しょうがないにゃー。お姉さんが悪者になってあげよう。で、メルリちゃんさー、あたしたち勝手に『裏メルリ』とか呼んじゃってるけど、彼女とはいつからのお付き合いなのー?」
「…いつから、というのは分からないのですが、少なくともご主人様と一緒になった時には、すでにメルリの中にいました…」
「じゃぁ、ほとんど最初っからってことだねー。生まれつき、みたいなー?」
「そう、かもしれないです」
「そんじゃ、そんな大事なこと、どうーして教えてくれなかったのー?」
来た。
やはりこの質問は避けられないか。
そして
「えっと、あの、その、」
やはり答えられないか。
そりゃそうだろう。
だから。
「それについては弁護人のオレが答える」
そのために弁護人とやらに立候補したんだ。
「『裏メルリ』とやらをメルリが知っていることについては、オレは知っていた。なぜなら、サージエンスでソイツを見て、オレは気になってメルリに聞いたからだ。検察は自ら重要案件と主張しながら聴き込み調査すらしていない。よって、今の質問は却下を要求する。裁判長!」
「えッ? これ裁判だったんですかッ? …えー、それでは検察。反論はありますか? 無いようでしたら質問を却下しますが」
「ぐぬぬぅ…カナっちめぇ…ならば聞こぉー! パーティー内に危険が及ぶ可能性のある事案は積極的に情報公開すべきではないかー?」
「異議あり! オレが聞いた時点で危険かどうかの判断はできない。メルリ自身もよく分かっていない事案をどう公開するのか。むしろあやふやな存在を皆に知らしめることで不必要に不安を煽ることになりかねない。例えばオレが、オレの中にケモノが棲んでいるんだぜ、と言ったところで、早くしまえよ、そのポ◯クビ◯ツと言われるのがオチだ。よってこれは、個人情報の保護であり、その公開を迫ることはプライバシーの侵害である!」
「あー…検察…いかがですか?」
「ムキーッ! カナっちのくせにー! ダンゴムシのくせにー! 無駄に弁が立ちやがるー!」
「オレはメルリのためなら本気出す!」
「おーのーれー、カナっちめぇ!」
パイセンは地団駄を踏んで悔しがる。
ネットに蔓延る有象無象の誹謗中傷好きドモ相手に、学校も行かず戦ってきたオレだ。
そう易々とこの22層のメルリ防護壁、破られてたまるか。
「あー、じゃ、はーい」
「リリアさん」
「それじゃ先輩と稽古やった時、メルリちゃん、めっちゃ強くて目が赤かった、というのはどうなんすかねぇ?」
「リリアさーん、ナイスアシスト!」
「それについてはワタシが答えよう」
「オスカレッテさん」
「先も言った通り、メルリ殿にワタシが敗北したのはワタシの技術が、剣技の腕が未熟だったからだ。目が赤かったのは真剣だったが故に充血でもしていたのだろう」
「なーあーあー、先輩まで…」
同じ弁護側でありながらメチャクチャだとは思う…
「検察側、反論はありますか?」
「うーうーうー」
もはやパイセンは言葉を喋っていない。
代わりに、なのか、ヒミコが手を挙げる。
「ねぇフルルちゃん。中から見て、『裏メルリ』ってどんな感じなの?」
「はなしかけてもおへんじしてくれないのでして。『なかのメルリ』はむくち、というかことばをしらないのでして。こっちのいうことはあるていどわかっても、ボクのしつもんにはこたえられないのでして」
「それじゃ分からないってことかぁ。でもそれじゃフルルちゃんはメルリちゃんの中に入って何してるの?」
「『なかのメルリ』がおおあばれしないようにこんとろーるしてるのでして。キメラあいてのときも、ちからをおさえたのでして。たいへんだったのでして。ふぅ」
「抑えてアレ? 『裏メルリ』って凄い強いんじゃ…」
「ほらー! やっぱ制御下にない膨大な力ってのは危険なワケよ! ねぇメルリちゃん。アレってメルリちゃんがコントロールできないもんなの?」
「えと、えと、」
メルリ、困惑しとる。
そりゃそうだ、
「コントロールできるもんなら最初からしとるっつぅーの」
ってことよ。
「そこをなんとかならないかって話してるんじゃん」
「あの、」
「なんともならねぇって話してるんだろが」
「えと、」
「なんともならないんじゃ危険な物が放し飼いになってるってことでしょ?」
「えと、」
「危険も何も喰らってもねぇのに」
「あの」
「喰らってからじゃ遅いでしょ! これから先
「あのッ!」
大声を上げてメルリが立ち上がった。
大粒の涙を溜め…てない、ボロボロ流しとる!
「「あ…」」
オレとパイセン、ユニゾン。
…やっちまった…なぁ…
「あのッ! ごめんなさいッ! みんな、みんな、メルリが悪いんですッ! 黙ってたことも。『彼女』とお話しできないのも。『彼女』を宥めることも。みんな。みんな。メルリのせいなんです! だから…だから…ケンカを…やめて下さい…ウワァァ…」
と、最後は泣き叫んで自分の部屋に行っちまった。
振り落とされ(?)た、フルルが宙に浮かぶ。
「あ、ああ、ああァァァァァァァ…」
パイセンが泣き崩れる。
「あたし…あたし…また、またやっちゃったぁあぁぁぁあぁぁぁ…」
しかも号泣だ。
うわぁ…どうしたものやら。
「カナートくんはメルリちゃんのところに行ってあげて。こっちは大丈夫だから」
ヒミコに促され、ダイニングを離れ、オレはメルリの部屋へ向かった。
◆
コンコン
「入るぞー」
カギは掛かってなかった。
部屋に入ると、メルリはベッドに突っ伏してわんわん泣いていた。
「メルリ、大丈夫か?」
「ご主人様…ウワァァァァァァァァ」
オレに抱きついて大泣き。
「メルリが悪いんです! みんなメルリが悪いんです…!」
こちらもどうしたものやらと、そっと抱きしめてやる。
「メルリは悪くないぞ」
「でも、ミキミキさんが」
「パイセンも悪くねぇ。誰も悪くねぇ」
「でも。でも」
「パイセンはオレたちのリーダーだからな。当然全体のことを考えてモノを言わなきゃなんねぇ」
「でもご主人様は」
「オレはメルリを守るのが役目だからな。パイセンに何と言われようと、メルリの味方だ」
「でも、それでは」
「そりゃぶつかるさ。ぶつかったからといって、相手もオレも、何かが変わるわけじゃねぇ。パイセンは優しい良い人だ、って教えてくれたのはメルリだろ? パイセンは優しいよ。それは今もこれからも変わらない」
少し落ち着いたか、しがみ付く腕を緩め、顔を上げてくれた。
「そう…なんですか?」
「ああ、そうさ。前にメルリは役目、役割を欲しがったろ? オレもパイセンも、その役割ってのを果たしてるだけさ。むしろ、そんなに泣かれちゃ、メルリが役目を果たしてない、って言われちまうぞ?」
そう言ってオレは、メルリの頭を撫でてやった。
「グズッ、あの、すみません…」
「謝るこたぁねぇさ。役目を果たそうとするぶつかり合いに、メルリが驚いちゃっただけだ。それだけだ」
「…はい」
「だからメルリも役目を果たせ。お、そうだな。明日の朝メシの準備、頼めるか? ユーリの作ったヤツは…色々とヤバい、からな」
「はい。分かりました」
「明日も朝からずっと歩くぞ。今日はもう寝て、しっかり休め。それから、明日はメルリの笑顔が見たい。やれるか?」
「…はい。がんばります…」
「そうか」
そう言ってオレは部屋を出た。
メルリの感じは…まだ少し重い、かな?
寝付くまで一緒に、と思ったりもしたが、メルリも着替えなきゃなんねぇだろうからな。
で、ダイニングに戻る。
「パイセンは?」
「自分の部屋に行ったよ。メルリちゃん泣かせちゃったー、ってえらく落ち込んでたよ。メルリちゃんの方は?」
「落ち着いた。もう寝るように言ってきた」
「そう。ミキ姉さん、悪気があったわけじゃないよ?」
「あ? そりゃそうだろう。それはオレも分かってるさ。ただ、メルリには自分らの意見をぶつけ合うこととイチャモン付けられてやるケンカの区別はまだ無理みたいだ」
「白熱しましたからねぇ」
「茶化すなよ、ユーリ」
「はは。すみません」
「ワタシが…もっとしっかり弁護できれば良かったのだろうか?」
「そういう問題じゃねぇと思うがな。ただ…」
「なんすか?」
「なんというか、オレもそうかもしれねぇけど、『裏メルリ』って、なんかみんなモノ扱いしてねぇか? なんかそんな感じがするんだが」
「言われてみれば…」
「それでやいのやいの言われちゃ、メルリが気の毒な感じがするな」
「すみません。僕が勝手に名付けちゃいましたからね」
「ユーリのせいでもねぇだろう。呼び方決まってねぇならそんなもんかと思う」
「それじゃあ、『裏』のメルリちゃんにも名前、付けてあげる、とか?」
「カナート君、どうっすか?」
「え? オレ?」
「カナートはメルリのごしゅじんさまなのでして」
「いや、オレは…ヤバいと思うぞ?」
「焼き鳥がどうしたとか名付けちゃいますからね」
「クソ…だがユーリ様のおっしゃり通りなんだよな…」
「じゃぁみんなで考える?」
「それがいいんじゃないっすかね? 新しく迎える仲間みたいでいいんじゃないっすか?」
「新しい仲間、か。そう思えばいいのか。なるほど。いいアイデアだ」
「それでは明日、ミキ先輩にはこの件伝えて、各々考えておく、ということでよろしいですか?」
「そうだな」
「では本日は解散ということで」
「そうそう、明日の朝メシの準備、メルリに頼んだから」
「おや、そうですか。それは楽しみですね」
楽しみなのはお前だけじゃない。オレもだが、その隣で声無き喜声を上げて小踊りしそうなくらいヒミコがニッコニコしとる。
「では我々は自分のロッジで休むとしよう。行こう、リリア」
「ハイ! 先輩!」
「あ、オスカレッテさんたちのロッジって、今度見に行ってもいいですか?」
「いいぞ。遠征演習用のものだからこことは違い殺風景なものだぞ。それになんのお構いもできないが、それで良ければ」
「わぁ。ありがとうございます。楽しみ!」
「ここの片付けは僕がやっておきますので。みなさん、おやすみください」
「すまんな」
「おやすみー」
というわけで本日は解散。
…しかし、グランディールとリリア、二人出て行ったのを見るユーリの視線は見逃さなかったぞ。
◆




