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44 妖精女王



 カサネに先導されつつ妖精の泉の畔をのんびりと歩く。

 彼女の周りには数人の妖精が代わる代わる現われ手を上げ挨拶を交わしている。

 どうやらこの妖精の棲家には彼女の知り合いがたくさんいるようだ。


『人気者だな』


 俺がそう声をかけるとカサネはちょっと恥ずかしそうに。


「そうですね。私は妖精の中ではそこそこ有名なので知っている者は多いでしょう」


 と答えた。そういえば厳冬を司る権能?を持っていると以前話していた気がする。

 やはりカサネは通常の妖精とは違い力ある妖精のうちの一人なのだろう。

 彼女に声を掛ける妖精達も友達に声をかけるというよりは目上の存在に挨拶に来たという感じなのかな?



「着きました」


 カサネが止まったのは泉から少しだけ離れた草原。

 周囲には花々が咲いている以外には特に目立つ物はない。

 強いて言うのならば妖精が他の場所に比べて多い程度だ。

 ここに妖精の女王がいるのだろうか?


「えぇ? 特に何かがあるようには見えないけど……?」


「違う。よく見て。足元の花の配置が魔法陣になってるわ」


「流石ですね。人間で妖精の作り出した魔法陣を見破るなんて」


 へえ……。

 俺には良く分からないが足元の花の配置で魔法陣が描かれているらしい。

 確かによくよく見てみれば他の色の花々に混じって生えている紫色の花。

 それだけを線で結べばやや歪ながら円形を描いているように見えなくも無い。

 ただ、魔法の専門家であるアリアぐらいでなければ気付く事は難しいだろうな。

 少なくても俺には分からなかった。魔力の気配すら感じられない。


妖精門(ゲート)を開くので円の内側……私の近くに寄って下さい」


 俺達は彼女の言う通りに魔法陣の内部に寄った。

 カサネが俺には判別出来ない高音でしばらく歌うと──周囲の空間が歪み、転移する感触が身体を包んだ。





 真っ暗な空間が開け、気付けば目の前には緑色の空間が広がっていた。

 天まで届きそうな巨大な大木。その周囲は開けていて浮遊したまま固定された紫色の花弁で築かれた通路のような物が何本か伸びている。周囲を見渡してみれば少し離れた場所には森が広がっていて、そこにも別の花から採取した花弁による道が築かれている。花弁の色でどのような施設、場所へ繋がる道なのかを区別しているのかもしれないな。今回俺達は妖精の女王に謁見する事になっている。であるならば目の前の大木に女王がいてその周囲の木々に一般妖精ちゃんが住んでる感じなのだろうか?


「ふう。久々に来ましたね。ようこそ妖精の国エターニアへ。妖精達の楽園、永劫に栄える事を願い作られた妖精達の故郷です」


「おぉ~! すごいね!」


「幻想的な風景ね。まるで絵画を切り取ったみたいだわ」


 アリアとティアは周囲の風景に見とれている。

 確かに、幻想的で興味深い光景だ。

 ここに来る人間は少ないのか俺達を見つけた妖精達が驚きつつも小さい手を振り挨拶をしてくる。

 俺も小さく手を振り返し挨拶しておいた。どうやら敵視されたりはしてないみたいだ。


『それより、カサネやスピカ達もそうだけどみんな大きくなってないか?』


 カサネは俺の手の平ほどの大きさだった筈だ。

 にも拘らず、あの魔法陣を通ってからは小さな少女程度の大きさにまで成長している。

 妖精はあの魔法陣を通る事によって小さくなっていただけで、本来はこの大きさなのだろうか?


「逆です。あなた達が小さくなったのです。この国に滞在するのに適した大きさに変化した……と言えばバルであるなら分かるのでは?」


『魔法の鎧みたいなものか』


 魔法の鎧は着用者に応じてその大きさを変化させる物が多い。

 俺が普段身に着けているアウロラの重層鎧は逆に、俺の身体のサイズが鎧側に合わされてしまう為視点が高く視界が広がるけど。要はそういった類の魔道具に似た力もあの魔法陣には含まれていたのだろう。確かに必要な機能だ。もし俺が大きさを変えずにこの場所に現われてしまったら妖精達の家を踏みつけてしまったりなどの無駄な事故が起こる可能性も捨てきれない。


「人間であるならその例えが一番しっくり来るでしょうね。ともあれ、そろそろまいりましょうか。観光なら後でじっくり出来るでしょうから。女王への謁見の申し込みをしてからどれほど待たされるかも定かではありませんし」


『ああ……やっぱりそういうのがあるんだな』


 王族、貴族の面倒さは妖精であっても変わらないのだろうか?

 幻想的な風景が一気に現実的な物に思えてきてしまった。

 ここも文化や価値観、生き様が違うだけで社会の一部。

 面倒なしがらみが存在するのだと思うと色々台無しになってしまう気がした。



 飛べる種族である妖精前提の街並みなので、アリアとティアを抱えて飛ばないといけなかったり等若干のアクシデントもあったが無事中央の大樹に辿り着き謁見の取次ぎをして貰う。相手は王族という事でかなりの長期間待たされると思いきやすぐに謁見の許可が出た。人間だったらどれだけ手が空いていようがとりあえず待たせて、日を改めて謁見とかになりそうだが妖精達にはそこまでの面倒な決まり事は無いみたいだ。とは言っても俺自身王族とやり取り何てした事がないので、俺の本で読みかじった知識が間違って居る可能性もあるのだが……。


 大樹の(うろ)から登城(?)する。

 中は不思議な光がふわふわ浮いていて、その光から溢れる柔らかい光でとても明るい。

 通路は広く多くの花々で飾られている。様々な色や形の花々が芸術的に組み合わせられており、芸術に対しての理解が浅い俺でも思わず溜息をついてしまいそうな素晴らしい光景だった。そんな通路を少し進むと天へと続く花弁で築かれた螺旋の階段──というよりこれは言ってしまえば「この順路で飛行してください」と示す為の印のようなものだ。実際に花弁を踏み締め上に上る為に作られたものではないらしいが、別にこれを階段に見立てて上っても特に問題はないらしい。花弁は空中で強固に固定されている為足場としても申し分が無い。強いて言うならば手摺りがないので人間が使う場合は事故が怖いぐらいか?


 俺は飛んでも良かったが、アリアとティアの二人は飛べないので必然それに付き添うように階段を上る事になった。周囲を飛ぶ妖精達はそれを微笑ましい物を見るように見つめて来る。というのも、妖精でも空を飛ぶ力が弱い幼少期は今の自分たちの様に花弁を階段にみたてて移動したりするそうだ。だから微笑まし気な目で見られてたのか……。




「エターニアへようこそ人間さん♪ 私がこの国の女王、タイタニアです。よろしくね」


 蜂蜜色の豊かな髪。青く澄んだ宝石のような瞳をしたこの国の最高権力者。

 妖精女王のタイタニアはそう挨拶した。思いもよらぬフレンドリーさで若干混乱してしまう。


「……女王様、流石に少し砕け過ぎでは?」


 流石に侮られすぎて不味いと感じたのかカサネが忠言する。

 ついどっちが女王なのかと思えてしまう感じだ。


「いやー、だってこの子達別に王族や勇者でも何でもないんでしょ? だったら畏まる必要無いと思うよー。人間の国みたいにうちは殺伐とした国土の切り取り合いとか無いしね。人間さんも変に堅苦しいのは嫌だと思わない?」


『俺達は冒険者だからな。変に堅苦しい会話をされると合わせるのが面倒だ。そちらが良いと言うのなら今のままの方が都合が良い』


「だよねー♪ そもそも私達の仲間であるカサネちゃんを助けて貰ったんでしょ? ありがとうね。本当にあの棲家の壊滅は私達にとっても寝耳に水だったから……生き残りが居てくれて嬉しいよ、うんうん」


 タイタニアは満面の笑顔でそう答えた。

 棲家の壊滅か……という事はカサネの身内はみんな死んでしまったのだろうか?


「それで、今回はカサネちゃんの挨拶。あと人間さん達へのご褒美だっけ?」


「そうですね。無事帰還しましたのでご挨拶と……彼らへの褒美を私は差し出す事がないのではずかしながら頼りに来ました」


「あー……それは仕方のない事だね。今までずっと捕らわれていたのだから仕方ないよ。本当は契約(からだ)で払えって話になるんだろうけど、カサネちゃんには一刻も早く仕事に復帰してもらわないと困るからねえ」


 仕事?

 それはよく口にする厳冬を司るとかいう奴だろうか?


「今は私の変わりに誰が季節を回しているのですか?」


「アウロラちゃんだねえ。ここ数百年で大分慣れて来たけどやっぱりちょっと指導者不足過ぎたというか、何のノウハウも引き継がないままやってるからちょっとね?」


 アウロラ?

 豊穣の女神の?

 色々気になるが、二人の会話に割って入るのも空気を壊す気がして問う事は出来なかった。


「そうですか。そうでしょうね……。それでは彼らの案内をある程度終わらせた後、すぐに彼女の元へ向かいます」


「そうしてあげてねー? ととっ、それで結局私は彼らに何をあげればいいの? 流石に加護とかは勇者以外にはあげる事が難しいのだけど?」



「ええ、ですから彼らには我が国の迷宮。七大迷宮の探索許可を頂きたいのです」


カサネがそう答えると、タイタニアは思わず大きく目を見開いた。

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