31 人間同士の面倒な戦い
本日二話目の投稿です
翌日、完全武装した状態で冒険者ギルドを訪れた。
まだ昨夜の蛮行の犯人は定かではない、ガリレオ達が犯人を探る手筈になっている。
俺は冒険者であって、名探偵でもなければ優れた諜報員でもない。
専門家に近い人間に頼れるなら、彼らに任せるのが得策だろう。
冒険者ギルドの中にはいると、周りの冒険者がこちらを見て何事か囁き合っていた。
恐らくは、昨夜の事件についてはもう既に知れ渡っているのだろう。
俺は出来る限りいつも通り行動した。
シャウラと向かい合い第三夢幻回廊についての話を詰めていく。
「……という訳でして、空間魔法で生み出した秘密の部屋にバルさんの獲得した宝物類と魔物の素材を並べて頂きます。そこへ誓約の魔法で誓いを立てた専門家の方々を招いて価値を見定めていただく訳です」
『なるほど』
いくつかの候補があったが、大事をとって部屋のサイズを変更可能。
更に秘匿性の確保が容易な空間魔法で生み出された部屋で鑑定作業をする事になるようだ。
「今、近郊の大規模迷宮を探索している青雷石級のパーティが帰還しましたら、バルさんの発見した迷宮への調査探索を指名依頼で出させて頂く予定です。それが終わりましたら迷宮の価値が概ね把握出来ると思いますので迷宮報告報酬を算出出来る筈です」
『分かりました』
この東の地は小規模迷宮群と呼ばれるほどに小規模の迷宮が多い。
しかし、小規模の迷宮しかないという訳ではない。
中には当然中規模、大規模の迷宮も存在する。
それにしても魔法石級か、まだ元魔法石級のガバームぐらいしか見た事ないんだよな。
どんな冒険者達なんだろうか?
「あとは、近いうちにバルさんのエンブレムの瞳石をスペアの物と交換させて頂いて、未発見迷宮での探索記録を収集させて頂きます。青石での瞳石交換というのは中々稀ですので、少し時間を頂いておりますが間もなく準備が整う手筈になっています」
俺の瞳石の中には未発見だった迷宮──神々による正式名称で言う「第三夢幻回廊」を探索した記録が入っている。その情報をより詳しく取得する為に瞳石を渡す必要があるみたいだ。
俺としても否やは無い。スペアを貰えるなら何の問題も無い。
『そうですか、何日程度を目安にここを訪れればいいですか?』
「そうですね、瞳石交換は五日後には。それ以外は二週間程お時間を頂くかもしれません」
『結構掛かるんですね』
「ええ、実は今回の宝物の鑑定に首都から人が来る予定なのですが……何やらトラブルがあったようで」
『それなら二週間後にまた来ますね』
「……どちらへ向かう予定なんですか?」
シャウラのじとっとした視線が突き刺さる。
これは……今回は素直に答えた方が良さそうだ。
『そうですね……今度はダイモスの迷宮あたりを探索しようと考えています』
「ダイモスですか?随分マイナーな所に行きますね」
『あんまり危険な迷宮に挑むと普段担当してくれてる美人なお姉さんが怒っちゃいますからね』
「そんなお世辞で篭絡されたりしませんからね?それで、何人で探索する予定なんですか?」
『四人ですね』
俺とドレッドノートと妖精ちゃん、そしてホルダード様である。
使い魔、常時寝てる天使、気まぐれについてきている妖精を人数に数えるかどうかは議論の余地がある気がしなくもないが、俺にとっては頼れる仲間達なんだ(棒読み)
「四人ですか……それなら麻痺毒にも対応できますし何とか」
俺の心中など全く知らないシャウラは大真面目に何事か考えているようだ。
騙してるようで悪い、なんてちっとも思ってないけどね。
本当に悪いと思ってるならパーティーメンバーの一人や二人集めてくるはずだ。
「ええ、分かりました。それでは二週間後にまたお会いしましょう」
そう締め括って俺とシャウラの話し合いは終わった。
俺はダイモスの迷宮に行く為の準備を整えていく。
ドレッドノートの為の餌を数種類、同じものばっかりを食べさせてしまうと飽きさせてしまうからね。
基本的には釣り餌にも使われる虫類、練り団子、いくら、子魚などだ。
テントや結界石はまだ大丈夫。
結界石というワードも聞いた時何かを思い出しかけたが、すぐに霧散した。
鉱石を掘る為のつるはしはマジックアイテムで良いのがあるから不要。
スコップやバケツは……鉱石類を魔法の袋に直接投げ込む俺には不要だな。
食料は……適当な野菜と肉でいいな。
どうせ凝ったものなんて作れないし。
パンは既製品をいくらか買っておこう、手早く食べられて有用だ。
基本的に一人で迷宮探索をしたい俺だが、食事が上手い仲間だけは度々欲しくなる。
飯が不味いと徐々にモチベーションが下がってしまう気がするのだ。
その後も細々とした物を買い足していく。
何せダイモスの迷宮でこなせる依頼の数は多い、恐らく数日掛かりの探索になる。
潤沢な物資が必要なはずだった。
『ただいま、帰ったぞ』
「おかえり、あなた。って何言わせるのよ!何でうちのギルドメンバーより気安いのよ!」
『照れてるのか?可愛い奴だな』
「なんですってー!」
物資を買い込んだ後暗殺者ギルドへ帰還する。
俺が今まで泊まっていた部屋は吹き飛んでしまったので必然的に寝る場所が無い。
それを知ったガリレオが俺に提案したのだ「じゃあ、うちに泊まれよ」と。
(どちらかというと、釣り餌にされている気がするけどな)
ガリレオも馬鹿じゃない。
無償で俺のような男を自分の居城に匿うのに、それなりの理由があるはずだ。
俺と彼の共通の敵、昨晩の襲撃者を誘い込む為だろう。
ガリレオ曰く、今回の黒幕は分からないが少なくても末端で動いている人間は動きが杜撰ならしい。
どう考えてもこういった暗闘に不慣れであり、本業とは思えないそうだ。
「お前の居所が分かればきっと食いつく。出来るだけ目立つように街を歩け、俺はここにいるぞってな」
『そんな簡単に行くか?』
「そう思うか?だがな、馬鹿相手に深読みし過ぎると逆に失敗するんだ。作戦は単純なぐらいが丁度いい」
『俺はこういった事は専門外だ、慣れてる奴に任せるよ』
「そうしろ、末端さえ見つかれば……あとは芋つる式に見つかってくもんなんだ、これが」
そう語るガリレオの目に迷いは無い。
今までの経験に基づいた作戦なのだろう。
より良い代替案があるわけでもない、ここは任せるべきだ。
深夜、暗殺者ギルド内にキィーンという不快な音が鳴り響く。
暗殺者ギルドは基本的に依頼主の代わりに村や特定の人物を襲撃した賞金首扱いの魔物の殺害。
また、裏の顔として山賊や盗賊、または重犯罪者の殺害を生業としている。
その性質上、商売敵である重犯罪者集団、カルテル、マフィアなどと交戦する機会も少なくない。
そのため、暗殺者ギルドには襲撃者の来訪を知らせる警報装置が存在した。
今鳴り響いているのはその警報音だ、ガリレオの予想通り襲撃者が来たようだ。
割り当てられた部屋を出て、暗殺者ギルドのホールに出る。
場は混沌としていた、昨晩見かけた暗殺者ギルドのギルドメンバーと襲撃者の集団が交戦していた。
暗殺者ギルドは少数精鋭の武闘派ギルドだ。
冒険者ギルドの空気が合わない荒くれ者というよりはみ出し者の集団。
生活態度や素行の基準が緩い分、求められる戦闘力の喫水値は他のギルドを凌駕している。
外套をなびかせ侵入者を刈り取る一人の暗殺者。
その速度はもはや視認出来る領域を超えている。
彼が握る黒色の石短剣がパンの耳でも削ぐかのような切れ味で襲撃者の腕を鎧ごと断ち切っていく。
薄い紅色のドレスを着た女性。
先日俺をガリレオに会わせてくれた暗殺者ギルドの受付嬢は、繰り出される槍を指で弾き、指輪型の発動機を起点に眩く輝く槍を生み出し襲撃者を貫いていく。
完全に待ち構えられていた襲撃者達が次々と狩られていく。
軽率に暗殺者ギルドに手を出した愚か者達の血で床が赤く染まっていった。
このまま一方的な展開が続くと思われていた。
しかし、そう上手くも行かないようだ。
「上だ!散開しろ!」
ガリレオの号令を受け暗殺者達が散開した瞬間、暗殺者ギルドの天井が崩落する。
土煙が周囲を覆い、視界が不明瞭になる。
しかし、猫をも越える暗視能力を持つ俺にはその煙を突き破り迫り来る爪牙がおぼろげながら確認出来た。神秘盾を前へ、その巨大な爪を受け流すように突き出す。
暗殺者ギルドの受付嬢を狙って襲い掛かったその鋭い爪撃が、神秘盾の表面を流れて受け流された。
煙を掻き分け迫った爪の根元、そこには極彩色の派手な毛皮が目に映った。
やがて、煙を打ち払いその全貌が明らかになる。
「キマイラだと?馬鹿な」
「……今度は獣使いか、錬金術師か……又は両方か?」
「一気に畳み込むぞ、こんな奴に長時間暴れられたら堪らん!」
獅子の顔に竜の翼、蛇の尻尾を持つ異形、キマイラが俺たちの前に現われた。
こんな魔物をどうやってイーストエデンの奥深く、地下街の更に下まで運んだのかとか色々突込み所があるが……運が悪かったな、獣の相手ならば手がある。
背から緑光を放つ長剣を抜き放つ。
薄暗い暗殺者ギルド内でおいてなお光り輝いている。
その効果は獣に対して凄まじい切れ味を誇る。正に目の前の化物を殺す為の剣と言える。
こちらに向かって振り下ろした巨腕を掬い上げるように切り裂く。
その極彩色の毛に覆われた腕が赤黒い血の軌跡を描きながら天井にぶつかり、跳ねて床へ転がった。
咆哮をあげこちらを睨むキマイラ。
剣を掲げその下へスライディングするように滑り込む。
剣身に対して、撫でるようにしか触れていないはずのキマイラの身体が一瞬にして真っ二つへ引き裂かれた。あまりにも呆気ない死に様に暗殺者ギルドのメンバーが口をあけて驚いている。確かに、幸運剣の切れ味はあまりに異常なので、そういうリアクションを取っても仕方ない気もする。
「よしよし!一番厄介なのが死んだな!後は雑魚を狩るだけだ!」
「……俺もキマイラと戦いたかった……」
「何人かは生け捕りにしろ!情報を吐かせるんだ!」
守りの態勢から攻撃の態勢に移った彼らは逃亡を図り始めた襲撃者達を追い詰め、捕縛していく。
その手際は正に熟練の域に達しているように見える、縄が生きているかのように襲撃者に巻きつき、捕らえていく。それからしばらくして、暗殺者ギルドのホールには捕らわれた襲撃者が並ぶ事になった。
「ふむ、山羊頭、お前見覚えがある奴はいるか?」
フード付きの外套を毟られ、素顔をあらわにした襲撃者達。
その顔をひとつひとつ眺めてみるが、特に見覚えのある顔は見当たらなかった。
「そうか、ならば丁寧に訊いてやるしかないな。奥へ連れていけ」
ガリレオの指示の元、襲撃者達は暗殺者ギルドの奥深くヘと消えていった。
これから拷問とかそれっぽい事でもやるのだろう。
「ふう、ここからは俺達だけでやる方が速いだろう。あの錬度じゃ大した訓練も受けていない、直に黒幕まで辿り着けるはずだ」
『そうか』
「お前はもう寝とけ、それとも女が必要か?」
『遠慮しておく、逆に寝られなくなりそうだ』
「そうか」
ガリレオは何故か残念そうな顔をした。
何か思惑があったのだろうか?
「はああ、この天井の補修、一体いくらかかるのよ」
「……我らの拠点の天井をぶち抜いた罪は重い、必ずや弁償させてくれよう」
「当然だわ、このままじゃ大赤字よ!」
受付嬢と石短剣のお兄さんは意外と現実的な問題に悩んでいた。
確かに、地下の拠点の修復費用は安くない出費だろうな。
結局あのキマイラは何だったんだとか色々気になる事はあったが、俺に出来る事も無いのでお先に寝させて貰う事にした。キマイラの死体は貰っても良いとの事だったのでありがたく頂いておいた。
◆◆◆◆◆◆
「まいったな、これは思ったより面倒事だぞ」
翌朝、俺の部屋を訪ねるなりガリレオが昨晩の成果を教えてくれた。
彼らは冒険者ギルド、錬金術師ギルド、魔道具開発ギルド、獣使いギルドのギルドマスターから指示を受けたそれぞれのギルドのギルドメンバーだった。彼らは街の中に潜りこんだ非合法の密輸人と、暗殺者ギルドの幹部達が手を組み、イーストエデンに禁制品のマジックアイテムをばら撒くつもりだからそれを防ぐ為に暗殺者ギルドを襲撃すると聞いていたそうだ。
当然大嘘なのだが、暗殺者ギルドという只でさえ世間体の悪いギルドがこれらの大手ギルドを一斉に相手取るのは中々厳しいものがある。殺し合いならともかく、事業規模で言えば暗殺者ギルドはこれらのギルドの中でも間違いなく最弱……まともに取り合って貰えるかすら疑わしい。
そして、俺の魔法の袋の中を全て検分するのもまた難しかった。
彼らの大義名分は「俺が禁制品をイーストエデンへ持ち込んだ」という物だ。
俺はそもそも何がこの都市において「禁制品」として扱われているかすら知らない。
また、俺の魔法の袋に収められている宝物、マジックアイテムは無数にあり、その全てを独力で精査するのは現実的に不可能であった。十中八九冒険者ギルドからも情報が漏れている証拠でもある。
「それにな、これだけの数のギルドを巻き込める貴族なんて……間違いなく王城区の奴だ、それも高位の」
『手は無いのか?』
「難しいな、手が無くは無いが時間が掛かる」
『そうか……』
「そう落ち込むな、魔物との戦いと違って人間同士の戦いには時間や手間をかけて大義名分を得る必要があるんだ。腕っぷしだけじゃどうにもならないんだよ。俺達は勝ってもいないが負けてもいねえ、お前はお前の出来る事をやってろ、襲撃にだけは気をつけろよ?」
『そうさせて貰おう。俺はダイモスの迷宮へ向かう、何かあれば呼びに来い』
「おいおい、俺達に迷宮まで呼びに来いって?冗談きついぜ」
ガリレオは心底嫌そうにそう言った。
◆◆◆◆◆◆◆
あれからほぼ二週間だ。
ダイモスの迷宮探索は憂さ晴らしどころか、余計心配事や悩みを増やす事になってしまったが。
ガリレオ達は順調に大義名分を得る為の作業を進められているだろうか?
暗殺者ギルドの動向も気になるが、その前に俺にはするべき事がある。
第三夢幻回廊で手に入れた宝物の鑑定作業や素材の目利きをやっとして貰えるのだ。
面倒だが、大金を得るには必要な作業だ。
ギルドマスターとのいざこざ等、不安は尽きないが頑張ってこなしていこう。




