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30 アウロラの幸運剣



 ダイモスの迷宮からドレッドノートの魔法で地上に帰還した。

 外に出ると、生憎の空模様で厚い雲が空を覆っている。

 迷宮内ですっかり体内時計が狂っていたが、今はどうやら昼から夕方に差し掛かる頃合のようだ。


 重い足を引き摺りつつ階段を上り、すり鉢状の場所から抜け出た。

 一度そこで野営を行い、起きた後にイーストエデンへ向かう事にする。


 結界石を四隅に置き、安全地帯を確保する。

 そういえば、いまだに俺は結界石を地面に直置きしている。

 ティア達を見習って結界石を固定する為のマジックアイテムを帰ったら探さないとね。


 魔法の袋からテントを取り出し、組み立て設置する。

 同様に薪と着火用の燃え易い乾草を用意、魔法で火をつけ焚き火を作る。

 ぱちぱちと、心地良い音が周囲に響いた。


 薪に火がきちんと燃え移ったのを確認した後、鎧を脱いで楽な服装になる。

 アウロラの重層鎧は非常に俺の身体に馴染み、とても全身鎧を着ているとは思えない着心地だが、やはり平服に比べると大分着ていて疲れる。久々に感じる解放感に包まれながら寛ぐ準備を進めていく。


 鎧を魔法の袋に仕舞い、焚き火にフライパンを無造作にのせた後獣脂を炒めていく。

 脂の甘い匂いが周囲へ広がっていく、妖精ちゃんとドレッドノートにとってはあまり好ましい匂いではなかったのか、俺が調理を始めるとそそくさと焚き火から離れていった。


 フライパンに脂が馴染んだら、卵とベーコンを焼いていく。

 卵の白身があっと言う間に透明から白へ、ベーコンの表面にも香ばしそうなこげがついていく。

 具合が良くなるように適当なタイミングで焼く面を変えていくと、それなりに上等な目玉焼きと焼きベーコンが出来た。


 ベーコンと目玉焼きをフォークで切り崩しつつ口に運んでいく。

 目玉焼きの中の黄色のどろりとした黄身が、ベーコンの塩味を包み込みまろやかにしていく。

 単純にして至高の組み合わせだ!突き出されたフォークは止まる事なくフライパンの中身を刺し貫いていき気付けばフライパンの上はもぬけの殻となっていた。


(さて、ホルダード様に出て来て欲しいんだが……腹が膨れたらそういう気分ではなくなってしまったな)


 俺の神秘盾に宿っている天使様──ホルさんに色々聞きたい事があったのだが、迷宮から出て気が緩み、更に食事も済ませたことで完全にそんな気分ではなくなってしまった。


 ……結局俺はプロセラルムのティーポットで生み出したお茶を飲んで一服。

 満足感に浸りながら惰眠を貪る事にした。

 気が向かないときに無理矢理身体を動かしても上手くいかないんだ。

 あとは起きた後の自分に任せる事にした。




 目を覚ますと周囲は暗闇に包まれていた。

 何かガサゴソと音がすると思えば、妖精ちゃんがフライパンに残った目玉焼きの残滓をぺろぺろ舐めていた。じーっと見ているとこちらを振り返り、いたずらが見つかった子供の様にえへへと笑いながらふよふよとこちらに近付いてきた。何となく、頭を撫でて欲しそうな気配を感じたので軽く頭を撫でておく。そういえばこの子の名前はなんなのだろう?ペットなら名付けたりするのもありだが、妖精なら既に名前を持っていそうな気もするし、変に名付けるのは失礼な気もする。妖精と対話出来る都合のいいマジックアイテムでも見つかれば、もう少し濃い意思疎通が図れると思うんだけどなあ。


 焚き火に薪を足しつつ、妖精ちゃんと戯れていると空が白み始めた。

 夜が明けつつあるのだ、月と入れ替わるように陽が上り、虫や動物達がやがて活動を始めるのだろう。


 ……きちんと陽が登るまで待ってから天使を起こすべき。

 夜闇に包まれた中で彼女を呼べば無駄な怒りを買うという予感がした。

 俺の理性的な部分が、その予感は正しいだろうと明確に伝えてくる。

 ホルさんは力を回復する為に神秘盾に宿っている、変なタイミングで彼女を起こすのはその治癒行動を阻害する結果になるのでへそを曲げてしまいかねないのだ。


 そもそも、人間が自分の都合で天使を叩き起こす時点で大分不敬なのだけど。

 人の事をパワースポット代わりに使っているんだし偶には役に立ってもらわないと割に合わないという想いもあったりなかったりする。




 ホルさんを起こそうと試みると、案の定彼女はごねにごねた。

 ……交渉は非常に難航したが、粘り強い説得の末なんとか折れてくれた。

 朝から始めた交渉が纏まる頃には、すっかり陽が上りきっていた。


「……なるほど、最近幸運剣を携えているのにも関わらずやたら厄介な魔物に襲われていると」

『はい、そうなんです。それで何か心当たりがないかとお尋ねしたくて』


 俺はここ最近感じている違和感について彼女に尋ねた。

 アウロラの幸運剣──持ち主に幸運を運ぶはずの剣を携えるようになってからやたら厄介な魔物と出会っている事、たまに自分が自分ではないように行動してしまう事について相談した。


「それはおそらく、この幸運剣の定義する「幸運」とあなたの求めている「幸運」にズレがあるのでしょう。もしくは「その剣はあなただけでなく隣人にも幸せを運ぶ」の部分が原因でしょうね」

『……と、言いますと?』

「この剣からすれば、あなたが厄介な魔物と交戦する事によって得られる利益が交戦するリスクより圧倒的に勝っていたのでしょう。また、あなたが殺害した魔物が将来的に隣人──この地域に住む人々に対して生み出す不幸を未然に防ぐ為に、思考誘導したのでしょうね」


 確かに、今まで戦った強敵からは相応の利益を得ている。

 それは金貨だったり虹箱だったり、形は違えど容易に手に入らないほどの破格なものだ。

 それにしても……。


『幸運剣の特殊性能の「隣人」とはこの地域に住む人間全体に及ぶほど広いんですか?それほどの規模の人々に対して幸せを運ぶってそれじゃまるで……』

「そうですね、あなた方の定義で言えば「勇者」と言っても差し支えない規模で救いを撒いている事になりますね」

『……』

「そもそも、あなたはその剣の生み出された経緯についての説明を聞いていたはずです。魔王が暴れ、世が乱れていた時代に生み出された剣。仮想敵も当時暴れていた魔王やその眷属であると」

『確かに、そのように説明された気がしますね』

「魔王を倒す事を目的として生み出された剣ですよ?握る相手に「ふさわしい活躍」を強制する魔法効果のひとつやふたつ、付いていない方が不自然ですよ。……ただ、神を侮辱するつもりはないですが、豊穣の女神という、戦いとは無縁の女神様の要請で作られた剣ですから、実際に魔王に類する相手に勝てるようになるかと言われればやや疑問が残る所です。力を過信し過ぎてはいけませんよ?」


 マジックアイテムは単純な魔法の道具ではないってことか。

 強力なものであればあるほど、それが生み出された経緯や思惑がある。

 それを読み違えれば、今回の様に使用者の望まぬ結果を招く事もあるようだ。


「ともあれ、その剣がそれなりに有用な事には違いありません。冒険者とは迷宮を巡り、マジックアイテムを発掘する仕事なのでしょう?であれば、今回のような事は今後も起き得るでしょう。マジックアイテムに振り回され、人生を翻弄されたくなければより真摯にマジックアイテムを理解する努力をすべきでしょう」


 そう、話を締めくくった後に彼女は俺に手を差し出した。

 何事か?と思えば以前俺が彼女に視て貰いたかったマジックアイテムの効果を調べてくれるらしい。

 さすが天使様!慈悲深いな!と一瞬思ったが「何度も何度も起こされてはきりがないですからね」という言葉でその妄想は一瞬にして打ち砕かれた。



 野営跡を綺麗に片付け、ドレッドノートに「この後はどうする?」と尋ねると[いつも通り、狩りにでも行くわ]と予想通りの答えが返ってきた。


 ドレッドノートと別れ、妖精ちゃんと森に入る。

 思いっきり走れば三日ほどでイーストエデンへ辿り着くが、今は何となく森を歩いてみたい気分だった。


 森の中特有のちょっとひんやりとした空気。

 草葉の間から指す木漏れ日が幻想的な雰囲気を生み出している。

 とぼとぼと下を向き虫でも探している狐、頬を膨らませて木の実を集めるリス。

 普段は見逃してしまいがちな、森の風景をぼんやり眺める。


 (せわ)しなく移動している時には目に入らない景色の数々。

 注意を向ければ確かに存在するにも拘らず、意識しなければ全く目に入らない森の表情だ。


(思えば、少し焦り過ぎていたのかもしれないな)


 この世界に落ちてきてから、冒険者としての知識や経験を必死に貪ってきた。

 自由になったから、やりたい事を必死にやった。

 それはきっと間違った事ではないのだろう。


 だが、一朝一夕の知識や努力で歩み続けられるほど冒険者という仕事は浅くないのだろう。

 本来自分の冒険を助けるはずのマジックアイテムのデメリット、そんな物にも気付けないほど目が曇っていた。それに、俺の魔法の袋の中には「水とかげの迷宮」「第三夢幻回廊」「餓獣の迷宮」「ダイモスの迷宮」で手に入れたマジックアイテムの数々が眠っている。


 その中のいくつを有効活用できている?

 そもそも、効果をきちんと把握していない物すらいくつかある。


 その中には、効果を知っていれば今までの迷宮探索をより快適に出来る可能性を秘めた物品もあったかもしれない。手札を見ずに札遊びをするようなものだ、自分の手に入れた物の価値も碌に把握せずにがむしゃらに迷宮探索という勝負に出るのは……自殺的行為だ、挑むべき迷宮に対する冒涜ですらある。


『なるほど、確かに幸運(・・)に恵まれたのかもしれないな』


 自分の身の程を知らせる強敵、されど死力を尽くせば覆し得る相手。

 それを用意され、気付きを得る事が出来た俺は確かに幸運と言えなくも無い。

 もしこの幸運に恵まれなければ、いつしか敵わない相手とぶつかり命を落としただろう。

 ただ、やはり少しばかりデメリットが怖かったので、今は魔法の袋の中にしまっておく事にする。



◆◆◆◆◆◆




 ダイモスの迷宮からイーストエデンまで、結局7日もかかってしまった。

 ダイモスの迷宮で受けた依頼は塩漬け依頼──特に期間は設けられず、なるべく早く持ってきてくれと要請されている依頼だったので、依頼の期限切れなどは特に心配する必要が無かった。それにしても少しゆっくりし過ぎていた気もするが。


 久々に訪れたイーストエデンは活気に満ちていた。

 以前から活気のある街ではあったが、今は比べ物にならないほどだ。

 街を行き交う人々の表情は明るく、何より以前に比べて街に男性が増えている気がする。

 この街にいる男性は、その多くが北西のコボルトとの主戦場に掻き集められていたはずだ。

 コボルドとの戦線に何らかの好転があったのは、まず間違いが無いんじゃないかと予想が出来る。


 街のあちこちから視線を感じる。

 町人に紛れ、こちらを窺っているのだ。

 恐らく、ギルドマスターに無理難題をふっかけた高位貴族の手の者だろう。



 虹箱が白かまきりから見つかってしまったあの日。 

 冒険者ギルドの解体部屋で見つかってしまった為、当然周囲には少なくない数の作業員やギルドの職員がいた。その内の誰が漏らしたのかは定かではないが、ギルドマスターはもちろん、耳聡い貴族にその存在が知られてしまったのだった。


 虹箱というのは、優れた腕を持つ魔法石級の冒険者ですら夢見るような希少な物だ。

 歴史に名を残すような冒険者でも、その入手は困難を極める。

 言ってしまえば存在は確認されているが見た事も、誰かが手に入れたという話も全く聞かない。

 都市伝説の一部のようなものであり、大迷宮の奥地を目指す冒険者達が生涯をかけて追い求める物だ。


 歴史上、幸運にもそれを手に入れた冒険者は盛大な祝福と……どす黒い嫉妬の嵐に塗れる事になる。

 虹箱から産出されたマジックアイテムを巡っての闘争劇は幾度か歴史に刻まれている。

 しかし、不思議とその中身を奪われたという話は聞こえてこない。

 一説には「虹箱自体が所有者を選別している」という話もあるぐらいだ。

 数多にある都市伝説のひとつでしかないけどね。


 実は、虹箱は多くの最上位冒険者が拾得しているが、意図的に隠蔽されているとも言われている。

 その証拠かは定かではないが、冒険者として経験を積んだものほど石箱を探り当てる過程を意図的に晒さない。つまり、迷宮主の身体を捌いている時にエンブレムの瞳石に映らないように解体中袋に入れたり裏返したりするそうだ。これは虹箱を入手した後に知った事だが、言ってしまえばひとつのジンクスみたいなもののようだ。


 虹箱から産出した装備──八王竜の外套を手に入れた事が不覚にも露呈してしまった俺は、翌日にシャウラと話し合いをしている最中にギルドマスターの来訪を受けた後に要求されたのだ。八王竜の外套を差し出せと。


 一応、買取という形ではあった。

 提示された数字は金貨二千枚、二十億ポッチという間違いなく一生遊んでいけるほどの額だった。

 しかし、冒険者にとって虹箱から産出されたマジックアイテムという物の価値はお金に変えられないものだ。それに俺には第三夢幻回廊の発見報酬やそこで手に入れた宝の換金という将来的に莫大な現金を得る当てがあった。当然断ることになる。


 そこで一度ギルドマスターは引いた。

 呆気無く引いたので妙だとは思っていたのだ。


 問題はシャウラとの話し合いの後、定宿に戻った後だった。

 支配魔法の練習という日課も半ば終え、そろそろ床に着くかというタイミングで


 窓から何かが凄まじい勢いで投げ込まれた。

 透明な球体の中に青い炎のような物が映りこんでいるのが見えた。

 俺はその球体に危機感を覚え、咄嗟にベッド脇に立てかけてあった神秘盾を構え球体との間に壁を作った。


 次の瞬間、何かが砕けた音と共に俺の部屋を炎の嵐が吹き荒れた。

 床板や薄い壁は飴細工の様に溶け、俺も階下に投げ出された。

 それと同時に外套を目深に被った数名が宿の扉を蹴破って侵入してきた。

 宿番の甲高い悲鳴、何が起きたと飛び起きてきた宿泊客の飛び起きる音、危機を察知し荷物を纏め窓から飛び降りる客の着地音などが普段は平和な宿の中に響き渡る。


 正気とは思えない蛮行を繰り広げた侵入者は俺の姿を確認すると音も無く抜剣した。

 俺は視線を巡らせ流星を見つけると飛び込むように確保し、釣られるように剣を抜いた。


 最初に斬りかかって来た男はそれほど早い身のこなしではなかった。

 しかし、そのギラつく剣は魔法の剣で、神秘盾で受けてみると俺の身体を弾丸の様に弾き飛ばした。

 彼自身の剣技も、重い一撃に重きを置く流派なのかもしれない。

 だが、恐らく俺の身体を吹き飛ばしたのは剣の特殊効果か何かだ。

 俺の身体は宿番の突っ立っていたカウンターに突き刺さる。


 思わず目を回しそうになったが、襲撃を受けた緊張感が俺の正気を保った。

 しかし、俺の復帰を大人しく待っていてくれる道理もない。

 残る三名の内二名が左右から俺に剣を突き込んで来る、もう一人は万が一俺が避けた際にカバーする役だったのかもしれない。


 二条の光の槍が蛮行を働いている侵入者の胸を貫いた。

 俺の使える魔法の中で最も速さに秀でている<雷槍>の魔法だ。

 魔法による襲撃を予期していなかったのか、襲撃者の瞳が困惑に揺れる。


 一人は致命傷を与える事が出来たようだ。

 びくりと動いた後にやがて動かなくなった。

 しかしもう一人は、魔法に抵抗する為の防具もしくはマジックアイテムでも携行していたのか苦しむ様子を見せつつも起き上がろうと試みていた。


 無事起き上がった俺は<雷槍>を六本生み出すと追撃する。

 魔法に抵抗した一名は頭を直撃した<雷槍>に抵抗し切れず、息絶えたようだ。


 残る二名は驚くべき反応を見せた。

 一人は篭手で、もう一人は外套で雷槍を弾き飛ばし宿の外へ矢の様に駆けて逃走したのだ。

 追うべきか追わざるべきか。一瞬迷ったが俺は追うのを諦めた。

 彼らを追うより先にやるべき事があった。


 俺は殺した二名の顔と武装を確認する。

 見た事が無い相手だ。怨恨の類ではないようだ。

 二名とも女性だ。いくつかの魔力を帯びた道具を身につけている。

 今回の襲撃の為に準備したものだろう。価値のあると思える物品は押収した。


 二名の死体に共通した持ち物に金属製のイヤリングがあった。

 恐らく俺が捜し求めていたものだ。

 艶の無い緑色の金属で作られたもので、それぞれ別の動物と数字のような物が刻まれていた。


 ……冒険者のエンブレムではない。

 だが、恐らくどこぞのギルドのものだろう。

 俺は死体を魔法の袋にしまうと、武装した後冒険者ギルドへ向かった。



「こんな夜更けにどうされましたか……?おや?バルさんですか」

『あれ?シャウラさん?』


 夜更けにも拘らずまだ開いていた冒険者ギルドの二階。

 資料室に向かうとそこには何故かシャウラが居た。

 話を聞いてみると、俺の担当をしている時が特殊なだけで普段は資料室の司書として働いているそうだ。


 ……考えてみれば当たり前か。

 彼女にだって普段行っている通常の業務があるというのは。


『……このイヤリングがどこのギルドの物か調べたかったんですが、見覚えはありませんか?』

「当然あります、ギルドの数はそれほど多くないですから」


 それから彼女に何処のギルドの物か。

 そして、そのギルドの所在についても教えて貰った。


 そして俺は目的のギルド──「暗殺者ギルド」を訪ねる事になる。



◆◆◆◆◆◆




 暗殺者ギルドはイーストエデンの地下街の更に奥深く。

 一見してみれば隠れ家的なバーのような風体の入り口の先にあった。

 地下街から更に地下に伸びる階段を下り、スイングドアを開くと薄暗い建物の中に目をギラつかせたいかにもな男女が酒を静かに飲み交わしていた。彼らは俺をちらりと一瞬盗み見たあと、再び酒と料理に舌鼓を打ち始めた。


「ようこそ、暗殺者ギルドへ。本日はどうされましたか?」


 全裸と言ってもいいレベルの薄い布地で作られたドレスを着た女性が俺に問う。

 恐らく、冒険者ギルドで言う所の受付嬢に相当する人間なのだろう。


 ……それにしても、見えてはいけないものが色々見えすぎている。

 思わず凝視していると、その視線に気付いたのか女性はニヤリと笑った後説明してくれた。


「ふふふ、そんなに凝視しても服は透けないわよ?魔法の効果で大事な所は見えないようになっているの。まあ……あなたの顔とお財布次第ではサービスしてしまうかもしれないけどね?」


 なるほど。

 彼女の説明で全ての謎が氷解した。

 つまり、本来は魔法の効果でこの服は秘所が見えそうで見えないような仕様なんだろう。


 だがしかし、俺には愛剣(りゅうせい)の特殊性能がある。

 「その剣は所有者に不可視の存在を見通す力を与える」というものだ。

 本来視認する事が出来ないものを視認出来る様になる能力で、精霊や妖精などの本来特殊な才能がなければ見えない生物、魔法によって隠蔽された通路や敵を見る事も出来るようにする能力。



 なるほど、俺はまだこの剣の真価を見誤っていたようだ。

 これこそが、この特殊性能の本当の価値だったようだ。



 彼女の身体をちら見しながら「流星の力も見直すべき部分があるな」と考えつつ彼女に今回の用件を伝える事とする。俺は殺した襲撃者から入手したイヤリングを取り出し何故俺がここに来たかについて説明した。俺がイヤリングを出すと周囲の人間の雰囲気が変わった、こちらへの注目度がより一層高まったような。


「……確かにうちのギルドの物ですね。それにしてもこのシリアルは……こちらへどうぞ」


 彼女に促されてバーのような暗殺者ギルドの更に奥へ導かれていく。

 いくつもの分かれ道、複雑な道程、まるでそこは迷宮の回廊のようですらあった。

 今自分が何処に進んでいるのかが定かではなくなった頃に、ひとつのドアの前に辿り着いた。

 ドアの先から水音やら何やらが聞こえてくる、時間が時間だ、仲睦まじい男女ならそういう事(・・・・・)をしていてもおかしくない時合であり、まさしく最中なんだろう。


「少々お待ち下さい、すぐ戻ります」


 暗殺者ギルドの受付嬢(?)は果敢に部屋の中に突撃していった。

 部屋の中でしばらく何らかの話し合いが行われていたようだが程なく中へ呼ばれることになる。


「ほう、随分と禍々しい兜を被った男だな。そういえばそんな奴が最近現われたと報告があったっけ?まあいい、暗殺者ギルドのギルドマスターをしているガリレオだ。偽名だけどな」


 中に入ると、細く引き締まった体躯に中性的な顔つきをした男がいた。

 かなり若い、もちろんギルドマスターという役柄の割りにという意味で俺よりは年上だろう。

 ギルドマスターの衣装なのだろうか?白色の不思議な衣装を着ている。ローブの前面をあえて真っ二つに切り裂き無理矢理ベルトで固定しているような……俺には馴染みのない服だ。


 彼の後ろには先ほどまでギルドマスターの相手をしていたのか三名の美少女が立っている。

 その頬や肌はこころなしか紅を指していて……余計な勘繰りはやめておくか。


『夜分遅くに来訪してしまい申し訳ありません』

「いやいいさ、というかそんなに畏まった喋り方しなくていいぞ?冒険者が敬語とか気色悪いぜ?」

『……そうか、ならそうさせて貰おうか』

「ああ、そっちの方がずっといい。今回はこのイヤリング……うちのギルドのシンボル、お前達風に言えばエンブレムか?それについて訊きに来たんだろ?」

『そのとおりだ。単刀直入に聞く、俺に刺客を送り込んできたのはお前らか?』


 俺は密かに緊張感を高めていく。

 ここで彼がイエスと答えたら……即座に殺し合いになるだろう。


「ブッ!アハハハハ! いや、ねーだろ普通。というかお前そこも確かじゃないのにうちのギルドに来たのかよ! もしここで俺が「そうだ」って答えてたらうちのギルメン全員と殺り合う気だったのか?男らし過ぎるだろ?……それとも何か?その自信があると?」

『俺はあんたのギルドと関わった事が今まで無い。噂の類も聞いた事が無い。実力を測る機会など一度も無かった』

「ほう、それでなおここに何故来た?」

『宿ごと爆破してくる頭おかしい奴ら相手に情報収集しつつ後手に回って戦えとでも?そんな事している間に状況はどんどん築かれていくだろう。それなら出来るだけ早く敵の喉下に近付く、臨機応変な戦いをする。それが冒険者、いや、俺のやり方だ』

「……」


 ガリレオは俺の言葉を聞きつつもイヤリングを凝視している。

 その瞳は一見穏やかに見えるが、何故か底知れぬ怒りを内包しているようにも見えた。


「バカヤロウが、今回は良かったとは言え次があればもっと慎重に動け。迷宮ならどうか知らんが人相手にそんな事してたら瞬きする間に土に埋まる事になるぞ」

『と言うと?今回の刺客はあんたのギルドのメンバーが行ったのではないのか?』

「そもそも誤解があるようだがうちは人間相手の暗殺なんてたまにしか(・・・・・)受けねーよ。特定の魔物に対する敵討ちが主な仕事だ。人間が相手の場合もよっぽどの大義名分がないと殺れねえよ、仮にもギルドとして看板掲げてるんだぞ?」

『つまりは偽装か』

「そうだ、にしても随分荒い偽装だな?頭がよっぽど沸いているらしい。そしてこのシンボルのシリアル……うちの身内のシンボルを持っているという事は俺らの敵である可能性もあるな」


 こちらを見つめるガリレオの瞳がギラリと光る。

 見つめられた俺の頬に思わず汗が走った。

 まるで獲物を射程に収めた獅子のような、身も竦むような視線だ。


「こいつはもうお前だけの殺し合いじゃねえ、仲良くしようぜ?山羊頭くん」

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