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29 土葬都市ダイモスの迷宮③



 そのコボルドの姿は異様な物であった。

 頭上には光り輝く王冠が、まるで天使の輪のように浮いている。

 先ほどまではただ黒いだけだった体毛に紫色の光が纏われている、魔法か<技能>か、それとも何らかのマジックアイテムの効果なのかは俺には判別できなかった。


 一歩、王冠コボルドがこちらに近付いただけで周囲の空気が大きく震えた気がした。

 その足が何気なく床に踏み出された瞬間、床に蜘蛛の巣状の亀裂が走っていく。


 二歩目を踏み出した──そう思った瞬間には既に眼前に奴の爪が迫っていた。

 咄嗟に神秘盾で受けたが、受け切れず冗談の様に跳ね飛ばされた。


 後ろ向きに転がりながら床を何度もバウンドしつつ吹き飛ばされていく。

 俺が吹き飛ばされている過程で削り飛んだ床板が破片となって宙を舞っていく。

 痛いなんてもんじゃない、この鎧を着るようになって以来初めて感じるような鈍い痛みが各所に走る。


 ──奴の攻撃を盾で受けるのは愚策だ、出来る限り避けるのが望ましいだろう。

 ただ、先ほどの速度で爪を振るう奴の攻撃を全て避けきれるか?正直それも無謀に思える。

 ならば、相手に殺される前にこちらが相手に致命的な痛打を与えるしかない。




 何故か俺は王冠コボルドから逃げるという選択肢を全く考えなかった。

 普段であれば、迷宮主でもなく何らかの因縁があるわけでもない厄介な相手と出会った際には、わざわざ相手をする必要も無いと、そう考える筈だった。


 思えば、コボルドの行動が気になって尾行する時点で俺らしくない行動だ。

 普段なら無駄な冒険などせずに依頼をこなし、迷宮主を倒して早々に地上に戻ったはずだった。

 いつもと違う思考や行動、それに対して心の奥底で微かな違和感を感じつつも俺は剣を手に化物に挑む。




 八王竜の外套を翼の様に広げる。

 そして、足元にいつも異常に魔力を勢い良く叩き付けて加速。

 ドレッドノートと一緒に空を飛んでいた時とは比べ物にならないほどの加速で王冠コボルドに迫る。


 唸り声をあげながらこちらに突き込まれる輝く爪をぎりぎりかわしていく。

 玉座の間を大きく震わせる、その咆哮に惑わされずきちんと目で見れば……完全には捕捉出来ずとも大体の軌跡を読み解く事は可能だった。


 イメージするのはベアヘッドの地下で見た妖精達の舞だ。

 ふわりふわりと風に揺れる柳の様に翼を駆使して空中で避けていく。


 その振り回される爪に合わせて幸運剣を振るう。

 ガツンっという、普通のコボルドに対して振るわれた時とは違う感触。


 魔獣──コボルドや狼達に対して気持ち悪いほどの切れ味を誇っていた幸運剣。

 その異常な切れ味を持ってしても、王冠コボルドの爪を一撃で圧し折るのは難しいようだ。

 王冠コボルドの血の様に赤い目が、一瞬揺れた。奴にとっても予想外の手応えだったのかもしれない。


 王冠コボルドの爪を幸運剣で消し飛ばすのが難しいのなら、より深く踏み込み指や腕を狙う必要があるだろう。しかし、それは中々の無理難題だった。当たり前の話だが王冠コボルドと俺では体長が違い、腕の長さが違い、当然リーチが全く違う。鈍重な相手、格下の相手ならそれでも一撃を叩き込む事が可能だと思われるが──王冠コボルドは速くて強い、そこには何らかの工夫が必要だろう。


 そして、このままではいけないと考えたのは俺だけではないらしい。

 王冠コボルドの王冠が光り輝き、その手に緑炎を纏う棒……いや、杖か?

 武器をその手に生み出したのだ、これでは先ほどの様にアウトレンジから腕を狙うのが難しくなる。


(これは……覚悟を決めて懐に深く潜り込むしかないか)


 奴の生み出した武器は棒は長大だった。

 奴の身の丈に迫るほどの長さだ。

 三匹の金・銀・銅色の蛇が複雑に絡まり合い、ひとつの棒と化したような見た目だ。

 常に緑色の不気味な炎を纏っていて、見るからに危険そうだった。


 お互い床板を吹き飛ばしながら肉薄する。

 風を切り王冠コボルドに迫った俺に対して、王冠コボルドは棒を床に叩きつけた。


 その瞬間、緑色の炎の波が蛇棒から津波の様に溢れ出てきた。

 しかし、それは俺にとって見慣れたもので、充分に予測出来る範囲の事象だった。


 玉座の間を吹き荒らす嵐が緑炎を薙ぎ払った。

 八王竜の外套で生み出した翼を引き絞り、一気に振り回す。

 圧倒的な膂力を誇る竜の翼が生み出す風は、小賢しいマジックアイテムの杖が生み出した炎を蝋燭の火を吹き消すかのごとく呆気なさで消し飛ばしていった。


 八王竜の外套の生み出した風は、その暴威を床や王冠コボルドの身に刻みつける。

 王冠コボルドも、思わずといった様子でその風の刃から逃れる為に、顔をその腕で覆う。

 それは、魔物であろうと人であろうと不可避な反射的行動。

 転びそうになった人間が思わず手や足を前に出し、顔などの弱点を守ろうとしてしまう本能的な要素だ。


 ──ようやく隙を見せたな。


 俺はその腕の守りが解かれる前に一瞬で近付き、顔を守っている右腕ごと貫通させ王冠コボルドの顔に幸運剣を突き込んだ。いつもとは違う、剣で獣の肉を割いていく感覚。この世の終わりのような断末魔をあげながら王冠コボルドが両手を振るう。その拍子に奴の手から三色蛇の棒が手放された。離脱する間際にそれを蹴飛ばし、混乱している王冠コボルドが立ち直る前にこっそり魔法の袋に回収する。


 赤い目をギラつかせながら俺を見据える王冠コボルドの右腕には大きな穴が開き、奴の右頬はズタズタに切り裂かれ、赤黒い血に染められた歯と頬骨が見えてしまっている。普通の剣ではこの様な傷の付き方はしないだろう、やはりこの幸運剣という剣は魔獣に対して使う際に普通の剣とは違う傷の与え方をするようだ。


 しかし、上手くいったのはそこまでであった。

 王冠コボルドの立ち回りが大きく変わったのだ。

 俺の周囲を縦横無尽に駆け巡りながら、その爪を鋭く突き込んでくる。

 俺が応戦しようと剣を振るうと、身体を逸らしひらりとかわす。


 それはまるで先ほどまでの俺のような動き。

 今度は向こうがアウトレンジからそのリーチを活かし、一撃離脱の嫌らしい動きを見せてくる。

 冗談のような速度で動き回り、翻弄する、嫌な動きだ。

 俺の身に纏っている鎧も尋常ではない、その鋭い爪を受けても貫かれ穴が空く様な事も無い。

 ただし、その際生まれた衝撃の全てを緩和出来るほどの万能の鎧でもない。

 全身鎧の中で俺の身体はシェイクされ、身体中が悲鳴をあげた。


 王冠コボルドは俺をあえて吹き飛ばさないように、床に叩きつけるような角度で上から下にその爪を振るう。決して逃がさないように、丁寧にしかし荒々しくその爪を振るっていく。


 俺もただただやられている訳ではない。

 何度も離脱しようと、その包囲から抜け出そうとするもすぐに追いつかれ、先ほどと同様の状況に戻される。宙に逃げようとしても、ここは迷宮の中だ。玉座の間は非常に広く、天井も高いが……王冠コボルドの尋常ではない脚力は、その天井まで跳躍する事すら可能としていた。


 剣を振るう、ひらりと避けられる。

 爪が振るわれる、そして床に叩きつけられる。

 一方的な暴力が俺を襲う、身体中が今まで感じた事がない程の熱い痛みに支配される。

 何度も兜越しに爪を振るわれ、頭を揺らされた結果、俺の意識は朦朧とし始めていた。

 どうすればいい、どうすればいい?どうすればいい?!!


 混乱と恐怖が身体を巡っていく。

 思えばここまでの窮地は初めての事だった。

 今までは、何だかんだで上手くやってきた。

 いや、上手く行き過ぎていたと言ってもいい。


 俺には分からなかった。

 この窮地をどうすれば乗り越えられるのか。

 ドスンドスンと鈍い音をたてながら振るわれる爪。

 転がる身体、転倒し、うつ伏せになった状態から重くなった身体を持ち上げる。

 俺に出来る事、この窮地から生き延びる事、そんな事は不可能に思えた。



 そう、余程の奇跡(・・)でも起こせない限りは。



『……慈悲深き我らが主よ……』


 立ち上がり、神秘盾を構えつつ俺は希った。


『……神敵に立ち向かいし英雄へ、施しの光をお与え下さい』


 祈りを捧げ、奇跡を希う。

 俺の体内を巡る聖気は、いつも通り機能し奇跡を地上へ顕現する。


『《揺り戻し》』


 まるで嘘の様に身体中に染みを作っていた血が体内に戻り、頭を襲っていた混乱や酔いが醒めた。

 ……何をやっているんだか、俺は最初からこいつに対する切り札をいくらでも持っていたんだ。


『……万物に安らぎを与える闇の神』


 膨大な聖気が身体中から抜けていく。

 その様子に危機感を煽られたのか王冠コボルドが今まで以上の速度でこちらに迫ってくる。

 ……傷つき、困惑していたからこそ不可能だったが、頭を冷やせば先ほどまでの動きの延長線上でしかない。その爪撃、そして組み合わされるように迫り来る蹴撃を距離を一定に保ちつつ捌いていく。


『……弱者に眠りを!強者から隠れ潜む安寧を与える慈愛の神よ!!! その恩寵を……我が外套に与え給え──祝福(ブレス)!!!』


 圧倒的な聖気が八王竜の外套に染み渡り、神の恩寵を一身に受けた外套はこの瞬間のみ至高の神器と化す。──秘蹟<祝福>を受けた外套が、波打つように大きく揺れた。


 唐突に異様な気配を放ち始めた八王竜の外套。

 それに対してこれまで以上の危機感を感じたのか王冠コボルドが玉座の間の大きな扉に向けて駆け出していく──ここまで殺り合っておいて逃げようだって?誰が逃がすか糞犬が!


 外套が蠢き、竜の足、そして翼を形成する。

 この世に存在する生物の中でも最上位カーストに存在する生物の圧倒的脚力。

 そしてその翼が生み出す異常な推進力で今まででは考えられないほどの加速を得て、王冠コボルドに肉薄する。追いつかれ、ギョッとした瞳でこちらを振り返る王冠コボルド。奴も腹を括ったのか虚勢とも思えるような咆哮をあげながらこちらに爪を向ける。……なんでさっきまでこんな奴の咆哮、そして力に怯えていたんだろうな?こんな図体がでかいだけの犬野郎に。


 奴の突き出された腕を、竜の翼から巨腕へと変化した外套が掴み、握り潰す。

 これは先ほどまでの八王竜の外套では不可能な芸当だった。祝福を受けているからこそ膂力で圧倒し、このような事が出来るようになっているのだ。先ほどまでとは打って変わって目を見開き、口を半開きにしている王冠コボルド。その胸に真正面から鋭く幸運剣を突き込む。幸運剣は王冠コボルドの胸を的確に抉り、その命を見事に刈り取った。



『ふう……流石に疲れた』

[ちょっと!! そっちが終わったなら早くこっちを手伝いなさいよ!!]

『ん?』



 声のする方を見てみると、ドレッドノートと妖精ちゃんが玉座の間の向こうからやってくるコボルドの群れと戦っていた。──正直、王冠コボルドとド派手に戦っていたからまるで気付かなかったよ。そういえばここはコボルドの巣窟の奥深くだったね。


[はーやーくー!私はあんたと違って継戦能力は低いんだから!]

『少し待て』


 俺は王冠コボルドの死体と、玉座の脇に置かれた漆黒の宝玉の山を魔法の袋に回収した。

 この宝玉は、何故か放置してはいけない気がしたのだった。


 その後、コボルド共を蹴散らし、隅から隅までコボルドのいた迷宮区画を荒らし尽くした。

 妖精ちゃんも地味に手伝ってくれたので、欲しそうにしていた緑色の宝石を幾つか渡してあげた。

 妖精ちゃんは宝石を受け取ると頬ずりした後踊りだし、やがて空間魔法と思われる魔法でそれを収納したようだ。やはり彼女も女の子だから、宝石が好きなのだろうか?



◆◆◆◆◆◆◆◆



 コボルド達の巣窟を粗方探索し終えた俺達は、いよいよダイモスの迷宮の第三階層に足を踏み入れた。

 薄暗い石造りの道、道の脇に何故か走る水路、それは俺にこの世界で初めて潜った迷宮「水とかげの迷宮」を思い出させた。


(あれから、それほど経っていないのに……随分と遠い昔の事に思えるな)


 右も左も分からなかった頃の自分と今の自分。

 期間は左程空けていないが、あの頃に比べればいくらか前進しているように思える。

 冒険者として、一歩一歩着実にこつこつとやっていけているな。

 この調子で、一流はともかく、それなりの冒険者になれるよう頑張らなくては。

 決意も新たに、俺は新たな階層をゆっくりと探索する事とする。


 ダイモスの迷宮第三階層は半分水没した洞窟のような階層だ。

 無骨な石で築かれた道、その脇に水路が走るような通路がその大半を占めている。

 たまに、道が水没していて水棲の魔物に怯えながらその水没部分を跨いで反対側の通路に行かないといけない。普通の冒険者からすれば必ず水に濡れる羽目になり、この階層の探索は結構不快らしい。


 道幅は基本的に狭い、それでも人一人が通行したり剣を振るう分には特に制約を受けたりはしないだろう。ただし、複数人で徒党を組んでこの迷宮に挑む場合は中々面倒なそうだ。


 出現する魔物は片側のハサミだけ槌のように大きく分厚く発達した蟹の魔物、大槌蟹(クラブクラブ)や鋭い歯と太刀のような銀色の肌を持つ太刀魚(ソードフィッシュ)を初めとした水棲の魔物がメインだ。


 これらは魔物料理的な需要があるようで、その身体を素材というよりは食材として集める依頼があった。

 襲ってきたところを剣で迎え撃った後、魔法の袋に突っ込んだ。


 最初は魔法で迎撃しようと試みたが、<雷槍>で貫いた魚はとても食材として納品するのが憚られる風体になってしまったので、あとで自分が食事を取る際に調理して消化してしまう事にする。


 ここに生息する魔物は中々姑息だ。

 気配を消す術に長けていて、気付けば前後を挟まれた後に左右の水路からも現われ包囲してくる。

 この迷宮は冒険者が訪れる事が少ないようだし、数少ない餌を逃さないように知恵を絞って生きているのだろうか?何度か包囲されたりした後、ドレッドノートに水中を探査して貰う事によって大分奇襲を受ける機会を減らす事が出来た。久々に水を浴びたからだろうか?ドレッドノートの機嫌も上向いてきた。


[蟹は美味しいのよ!]

『お前はそればっかりだな』

[……食べるぐらいしか娯楽がないのよ]


 魚の食べる以外の娯楽ってなんなんだろうな?

 狩りか?結局食事なような気もする。


 ダイモスの迷宮第三階層の探索はかなり順調に進んだ。

 やたら硬い魔法石製のゴーレムも出てこないし、王冠を被った化物コボルトも出てこないからだ。

 これが本来のダイモスの迷宮の難易度なんだろう、ここ、小規模迷宮だしな。


 迷宮の規模と難易度は必ずしも一致する訳ではないそうだが、大体は比例すると言われている。

 そう考えれば、ここ最近挑んできた迷宮は……ちょっとおかしい気がする。

 ここ最近の自分の行動の影に、何らかの悪意のような物を感じてならない。

 まるでそう、意図せず危険な道に導かれているかのような……。


 不意に悪寒のようなものを感じた。

 まるで気付いてはいけない何かについて考えてしまったような、そんな感覚だ。

 俺は頭を振るい、意識を切り替え、迷宮主が居ると言われている区画に足を踏み入れていく。



 迷宮主というのは迷宮の奥深く、最奥に佇み侵入者を待ち受けている。

 そういう風に考える冒険者は意外と多い。

 しかし、実際はそのような行動を取る迷宮主ばかりではない。

 迷宮にも種類があるように、迷宮主にも様々な種類があるのだ。


 一番一般的だといわれる迷宮の最奥に佇んでいるタイプの迷宮主を定着型。

 必ず同じ部屋の同じ場所に佇み、迷宮に挑む冒険者達を待ち受けている。

 水とかげの迷宮のボスとかげ先生や第三夢幻迷宮の槍騎士なんかはこのタイプだ。


 特定の階層を徘徊するように歩き回るのが徘徊(テリトリー)型だ。

 迷宮の最深層をぐるぐると、自分の縄張りを見張るかのように徘徊し、侵入者を見つけ次第排除しようとしてくる。最近潜った迷宮「餓獣の迷宮」の大狼なんかはこのタイプだ、最深部がひとつの大きな部屋と化していたので少し分かり辛かったが。


 そして、一番厄介なタイプが迷宮の最深部、自分の棲家に罠を張り冒険者を待ち受ける(トラップ)型だ。このダイモスの迷宮の迷宮主である大水蜘蛛(ヘルストライダー)もこのタイプだ。


 迷宮主の居城である子島とその周りを囲む水辺には不可視の罠がしかけられている。

 魔力によって生み出された毒糸だ、室内に張り巡らせられたソレは触れてしまえば身体を蝕み上手く身動きが出来なくなってしまう。麻痺毒の一種で、即効性の厄介な毒なんだそうだ。その魔法の糸が張り巡らせられた罠部屋を、如何に攻略するかがこの迷宮主を倒す上での難題だ。


『焼き払え』

[りょーかい!<炎色斑紋>!!]


 ……この迷宮主の罠の致命的欠陥として、生み出された糸が炎に対して致命的に弱い点があげられる。

 というより、この迷宮の情報は既に冒険者ギルドでしっかりと調べ上げた上で探索に臨んでいる。

 俺達なら簡単に打開出来る事を知っているから厄介な行動パターンである事を知った上で挑んでるんだけどね。


 ドレッドノートの魔法が迷宮主の部屋を明るく照らし出す。

 炎の斑点が何かに触れ、炎の嵐と化し部屋中を舐めまわすかのように炎で洗っていく。


 ……あっ、アメンボくんが死んでる。

 どうやら迷宮主も罠と一緒に炎の嵐に飲まれ、焼かれてしまったようだ。

 ここの迷宮主は罠が凶悪ではあるが、身体的な能力はさほどでもない。

 炎の魔法を使える、もしくは大きな炎を生み出せるマジックアイテムがあれば単身でも攻略する事が難しくないと言われている。実際は万が一麻痺毒に引っかかってしまった場合のリスクが高すぎるため、ある程度の集団で挑むのが基本らしいけどね。


 罠を焼かれた後の迷宮主部屋で、俺は迷宮主が再び現われるのをじっと待つ。

 罠型の迷宮主は罠を貼る暇を与えない場合は、他の種類の迷宮主と比べても容易に狩れると言われている。なので、俺の様に剣を育てるという特殊な事情がなくても罠形の迷宮主が再び現われるのを待ちうけ、狩る冒険者は意外と多いらしい。


 ……罠を貼って待ち受ける迷宮主が、最終的に罠を貼られ待ちうけられるというのは中々皮肉な話だ。

 こういうのも策士策に溺れると言うのだろうか?



 その後、無事アメンボを七匹狩った後、思いの他長く滞在してしまったダイモスの迷宮を後にした。

 イーストエデンでは虹箱騒動のせいでほんの少し(・・・・・)暴れてしまったので帰還するのが少し億劫だったが。赤石級になるまではイーストエデンに留まる予定だ。気は進まないが戻る事にしよう。

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