表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/47

28 土葬都市ダイモスの迷宮②



 塔から出ると底の見えない暗い穴が周囲に広がっていた。

 そして、塔と迷宮の外縁部を繋ぐ空中回廊が複雑に交差し張り巡らされている。


 まずは一番手近な回廊から外縁部に渡り探索する事にする。

 今回は多くの依頼を受けた、ひとつずつ着実にこなしていこう。


 空中回廊の先、迷宮の外縁部は洞窟系の迷宮のように床や壁が無骨な岩で出来ている。

 ただし、壁や天井はそのままむき出しの岩で、でこぼことしているが床はある程度平らになっている。

 実際に行った事は無いが坑道のような感じだろうか?整然とした道ではなく、様々な場所に穴が開いていて複雑に様々な横道がある感じだ。


 この外縁部では様々な魔物がいるが、主に見かけるのはコボルドだ。

 ただ、ここ以外の場所で出会うコボルドと違い、手にはつるはしとランタンを、背負う袋には鉱石や宝石が入っている。この階層に潜むコボルドは何故かそういったものを集める習性があるらしい、理由はよく分かっていないのだとか。


 コボルドの足音。

 そして大型つるはしの引き摺られる音を頼りに襲撃していく。

 この階層に生息する特殊なコボルドの魔石収集も依頼のひとつだ。

 イーストエデンはコボルドと戦い続けている都市で、コボルド研究が盛んだ。

 この階層に出現する特殊なコボルドも当然研究対象になる。

 魔石と血が指定された素材だが、胸を背から一突きしてそのまま魔法の袋に収納していく。


 この、つるはし持ちのコボルドは想像以上にうまい。

 背負った袋の中に入った鉱石や宝石もまた別の依頼の要求素材であり、一粒で二度美味しいのだ。


 狩る方法は簡単。

 音でコボルドを探す。

 外套の効果で天井まで飛び、天井を這う様にコボルドに近付く。

 コボルドのランタンの光が明確に見える程度に近付いたら、滑空して近付き背を一突きして終わりだ。

 

 天井を住まいにしているこうもりの魔物。

 フルーツイーターくんとたまに遭遇戦になってグダる事もあるが、この方法が効率が良いように思えた。


 空を飛べるようになって気付いたが、流星の特殊性能である身体強化・猫で消えるのは足音だけではない。

 空を飛んだり天井に張り付いて近付く際に立ててしまう物音も消えているようだ。


 ただ、まだ俺の理想の奇襲には程遠いな。

 今の俺にとっての理想の奇襲といったら白色かまきりレベルを指す。


 たまに俺に気付く魔物がいるのだ、恐らくは魔力か……聖気を隠蔽出来ていない。

 魔力の隠蔽に関する修行方法は第三夢幻回廊で得た特殊性能、知識強化・悪魔で知ってはいる。

 就寝前には練習をしているが、身を結んでいないというのが正直な感想だ。


 課題といえば、剣の技術向上や技能の習得も身を結んでいない。

 ここらへんは……冒険者ギルドの資料室や知識強化・悪魔で読み取った情報を使っても今のところ全く手応えが無い。剣の技術を向上させるには<剣技>をはじめとした技能を取るのが基本らしい、そこには人間と悪魔の差異はなく、それを入手した前提でそれ以降の技術向上のノウハウは語られる。


 そして、その剣技の技能を得る方法は──ひたすら剣を使い戦い続ける事だ。

 単純ではあるが、それだけに近道が無くコツコツとした修練が必要みたいだ。

 俺は剣をうまく使いこなしてみたいという気持ちがある割りに、魔法や奇跡にすぐ頼ってしまう場面が多い。やはりなんだかんだ窮地に陥ると、長年頼ってきた技術に縋ってしまうのだ。


 なので、この迷宮では出来るだけ剣をメインに戦うつもりだ。

 少しでも剣技の技能を得られるように頑張るのも目標にしていく。

 ついさっきつるはしを使ったり秘蹟を使った気もするが……。

 剣を使う事にこだわり過ぎて怪我をするのもあほらしいので、それは仕方のないことだ。



 そろそろコボルドキラー呼ばわりされそうなぐらいの勢いでコボルドを狩っていく。


 すると、とある穴から複数のつるはしが音を立てる場面に出くわした。

 つるはしを持っているコボルドは今まで何匹も屠って来たが、採掘中のコボルドは見た事が無かった。


 天井に張り付き、蜘蛛のような動作でコボルド達に近付いていく。

 五匹ほどのコボルド達が穴の奥、突き当たりで作業を行っている。

 三匹がつるはしを壁に振るい、残りの二匹が掻き分けた土くれの中から鉱石や宝石を集めている。

 その作業は非常に手馴れていて、彼らが熟練の採掘者である事の証左だ。


 しかし、彼らは熟練の採掘者ではあっても熟練の戦士ではなかったようだ。


 天井から舞い降り、壁を一心不乱に掘り進めるその背を横薙ぎに切り裂いた。

 下を向いて鉱石を集めていた二匹は驚いた様子で俺を見上げるが、その手に武器は無く反応も遅い。

 あっと言う間に首を狩り、五匹とも動かなくなった。


『うーん、大漁大漁……おや?』


 コボルド達が丁寧丁寧丁寧に選り分けてくれた鉱石や宝石を魔法の袋に入れる。

 その時に、何気なく目を向けたクズ石の山に──深い青色の輝きが!


[あ、これ……深海宝石ね]

『コボルドの袋の中に深海宝石が無かったのは、こいつらにとってはクズ石扱いだったからなのか』


 深海宝石、ドレッドノートの魔法調合で使う基礎的な素材で、基本的にどのような調合をする際でもこれを一緒に使うらしいんだ。これがたくさん手に入るというのも、この迷宮に挑む決め手となっていた。


 ランタンをコボルド達が掘っていた壁に近付け、よくよく見てみると壁中の至る所に深海宝石がちらばっていた。これだけ頻繁に良く見かけるのなら、クズ石扱いされても仕方ない……のか?


『何かいっぱいあるし、掘ってみるか』

[これだけあれば、しばらく深海宝石には困らないわね]

『俺は採掘に集中するから周囲の警戒を頼む』

[はいはい]


 使うのは当然、さっきゴーレムもどきに振るったのと同じ水精のつるはしだ。

 両手で握り、真上に掲げた状態から迷宮の壁に振るう──かったい!思っていたのと違う!

 俺の振り下ろしたつるはしは迷宮の壁に突き刺さったが、上手く掘り起こすには至らなかった。

 それから何度か振るってみる、コボルド達はどんな風に振るっていたかを思い起こしながら。


 延々とつるはしを振るい続ける。

 そしてある時、天啓を得たかのように自分の何が間違っていたかに気付く。

 腕のみで振るっているからダメなのだ、全身を使って大きく振るべきだったのだ。

 そして、つるはしはメイスではない。刃を壁にどのように向けるかによっても違いが出る。

 コツを掴むと、つるはしを振るうのが楽しくなってくる。


 無我夢中でつるはしを振るう。

 一振りするたびに間違いに気付き、次の一振りは前の一振りより微かに洗練されている。


 鉱石や宝石を掘る事より、迷宮の壁に挑む事自体が目的になっていた事に気付くのは、それから大分経っての事であった。大分長くなった横穴、その両脇に掻き分けられた石達から鉱石や宝石を選り分けるのに大分時間が経ったが、依頼の要求数を遙かに越える量の鉱石や宝石と、使いきれるか分からないぐらいの深海宝石を手に入れた。


 それから数日、空中回廊を経由してダイモスの迷宮第二階層を堪能した。

 コボルド、フルーツイーター、たまに麻痺毒持ちの蛇であるスニークスネークや痩せ細った体躯から、想像も出来ない膂力を秘めた黒くて大きい犬──黒妖犬など剣で戦う修練に適した魔物と戦い続け、素材の収集も捗った。


 だが、剣技の技能習得にはいまだに至っていない……と思う。

 というのも、そもそも技能を修得する感覚というか、そういうものを知らないので分かりようも無い。

 技能を入手した時の感覚や、入手後の動きの差異は中々分かりやすいらしいので、本の知識を信じて今はひたすら鍛錬に打ち込むしかない。



◆◆◆◆◆



 それは単純な興味だった。

 コボルド達は一体何の為に鉱石や宝石を集めるのだろう?と。


 ある日、俺は一匹のコボルドを追跡していた。

 前を歩くコボルドの背負う袋には、ごろごろとたくさんの石だか宝石だかが詰まっている。

 なかなかの重さがありそうな袋だが、背負うコボルドの足並みは乱れない。


 単純な興味もあったが、コボルド達が集積した鉱石や宝石を根こそぎ奪うのに、この方法が一番最適なのでは?と今更ながらに思い至ったからというのもある。コボルドの魔石や素材は既に飽和気味だったからね。


 追跡されているとは夢にも思っていないコボルドくんが、壁の前で立ち止まった。

 そして、つるはしをカンカンと壁に叩きつけた。


 すると、彼の直上から金属製の梯子が伸びて来た。

 どうやら、先ほどつるはしを叩きつけたのは、上に居る仲間に対する合図だったようだ。


 梯子を上ったコボルドの後を追う。

 梯子が下ろされた穴の近くに梯子を下ろしたコボルドがいたが、叫び声を上げる隙も与えず首を断った。


 それからも延々と道が続いたが、ようやく目的地に辿り着いたようだ。

 辿り着いた先は薄紫の光に満ちた大部屋だ。

 中には色とりどりの鉱石や宝石が集められ、その大部屋を埋め尽くしそうな勢いだ。

 部屋のほとんどが石で埋まっている感じなのだ。色別に分けられた山が築かれている。

 俺に追われた憐れなコボルド君が、宝石で着飾ったコボルドに背負った袋を渡す。

 恐らく彼はこの部屋を管理しているコボルドなのだろう。受け取った袋の中身を選り分け、山に加えていった。



 ここで追って来たコボルドと、宝石部屋を管理しているコボルドを惨殺するのは簡単だ。

 だが、それではそもそも何故コボルドが鉱石や宝石を集めているのかという疑問は解決できない。

 そこで、俺はこの部屋を監視する事にした。ここを出入りするコボルドの後をつけ、何に使用されているのか調査するのだ。


 カラカラカラ……と、台車の車輪が転がる音が聞こえてきた。

 台車を押してきた袋を背負っていないコボルドが、管理人コボルドに数度吼えた。


 管理人コボルドが空中を見つめ、指で何度かひっかくような仕草をする。

 何の魔法を使ったのかは理解出来なかったが、魔力を感じた。


 魔法を使い終わった後に、宝石を台車に手作業で積み込み始めた。

 先ほどの魔法が台車に積み込むための魔法だと思っていたので、手作業を始めた事に違和感を覚えた。

 何かあるのか?疑問は尽きなかったが、作業は滞り無く進み、コボルドは再び荷物の積み込まれた台車を押し始めた。


 台車コボルドは黙々と迷宮を進む。

 台車にくくりつけられたランタンの光に導かれて。


 俺は彼を追う作業に飽き始めていた。

 彼の首をさっさと刈り、迷宮主を殺しに行こうかとも考えた。

 正気な人間の思考ではない。俺は最早コボルド相手に悪逆の限りを尽くす盗賊と化していた。


 台車コボルドが辿り着いた部屋には身体中に奇妙な刺青を入れたコボルド達が座っていた。

 彼らは室内にいくつかある魔法陣の周りに胡坐をかいて座っている。


 台車コボルドが魔法陣へ宝石を放ると、魔法陣に宝石が吸い込まれていく。

 転移魔法、という感じではない。

 直感にも似た感覚ではあるが、今までの数度の転移体験からそれだけは分かった。


 台車コボルドは作業が終わると踵を返し元来た道を戻っていった。

 恐らくはまた台車への積み込み作業をする為だろう。 

 

 台車コボルドが去った後も刺青コボルドは動かない。

 ただただ魔法陣を見つめている。

 その視線は真剣だ。

 まるで機を窺っている獣のようですらある。


 魔法陣が、微かに光を放ち始めた。

 その瞬間を待っていたのか、刺青コボルドは上空に手を掲げながら遠吠えの合唱を始める。

 それはまるで俺にとって理解出来ない歌だ。ただ、何となく意味のある声音のように思えた。


 合唱が終わると魔法陣の中にいつの間にか漆黒の宝玉が現われていた。

 ツヤや光沢の無いあらゆる光を飲み込んでしまいそうな宝玉だ。


 刺青コボルド達はその宝玉の出来に両腕を組み、満足そうに頷く。

 完全に仕事をやり遂げた職人のおっさんのような仕草だ。

 漆黒の宝玉は室内にある他の魔法陣でも作られているようだ。

 次々と出来上がった宝玉は俺から見て斜向かいの通路に運ばれていく。


 流石に室内をバレずに横断出来るとは思えなかったので彼らは斬り殺す事にした。

 ここには普段人間をはじめとした外敵は来ないのだろう。

 魔法をいくつか使われたが容易に避ける事が可能で、彼らの戦闘技術の拙さを感じさせた。




 迷宮内が大分騒がしくなってきた。

 恐らく、俺が刺青コボルド達を皆殺しにしたのがバレたのだろう。


 今まで一度も見た事も無い鎧を纏ったコボルド達や、ローブを纏った魔法使いっぽいコボルドを見かけるようになった。彼らはランタンを片手に集団で通路内を行き交っている、俺が追跡している漆黒の宝玉を運んでいるコボルドにも何事か問い掛ける様に吼えていた。


 兵隊コボルドや魔法使いコボルドとも戦ってみたいが、今はそれよりも調査が優先だ。

 ここまで厳重に守られているのだから、きっとこの先には面白いモノがあるに違いないと思えた。


 そこから、道を進むにつれて周囲の様子が変わっていった。

 無骨な石造りだった通路から、切り出した石を丁寧に敷かれた道に変わっていく。

 その石には美しい宝石が散りばめられていて、自然に出来たというよりは加工された物が使われている印象を受けた。そして何より変わったのが周囲の空気だ。空気が重いというか、竜に睨まれているような重圧を感じる。道を進めば進むほどその感覚はより強くなっていった。


 宝玉を運んでいたコボルドを追い続けてしばらく、彼はようやく目的地に辿り着いたようだ。

 六メートルはあろうかという馬鹿みたいに大きな扉があり、その横に通行用の2メートル前後の扉があった。扉が二つある意味はまったく分からなかったが、宝玉運びのコボルドは小さい方へ進んで行った。


 扉の周囲に立っていた兵隊コボルドから先に掃除する。

 天井からの奇襲で反撃される前に殺す事が出来た。

 そして、宝玉運びのコボルドを追って扉の先へ足を踏み入れた。



 扉の先は大きな部屋となっていた。

 室内は非常に明るい、天井に備え付けられたシャンデリア型のマジックアイテムが室内を照らしている。

 石造りの床には宝石によって何らかの模様が描かれていた。魔法陣等とは違い、機能性より芸術性を感じる模様だ。


 部屋の奥には玉座のような物があり、そこには漆黒のコボルドが座っていた。

 大きい……三メートルはありそうだ。

 目は不気味に赤く輝き、その爪はシャンデリアの光を受けてギラリと輝いている。

 以前戦った黒牙と似ているが、生き物としての格が違うように見える。

 巨大コボルドは何かを鷲掴みにして、口の中に放り込んでいる──宝玉だ、黒い宝玉を食らっているのだ。


 巨大コボルドは部屋に入った俺に目もくれない。

 その視線はひたすら宝玉の山に注がれている。

 ただ、彼以外のコボルド達は俺の事を放っておいてはくれないようだ。

 室内にいた兵隊コボルドと黒ローブコボルドが雄たけびをあげながらこちらへ迫ってくる。


『ドレッドノート、焼き払え!』

[分かったわ、時間稼ぎをしておきなさい!]


 ドレッドノートが詠唱を開始する。

 俺は幸運剣を右手に、神秘盾を左に構えコボルド達を迎え撃つ。


 黒ローブの集団には<雷槍>を、鎧を纏った兵士コボルドには切りかかって対応する。

 魔法使いコボルドの放つ魔法は火の矢、ボルト系だな。


 その威力はあまり強くない。

 というのも、冒険者ギルドの資料室で読んだ本によるとコボルドは魔法の適性が途轍もなく低いらしい。

 なので、攻撃魔法として成立しているだけでも……コボルド族の中ではエリート扱いなんだと思う。


 対して、この部屋に詰めていた兵士コボルドは速い、そして強い。

 恐るべき脚力で一瞬で肉薄し、その手に握り締めたメイスで強打してくる。


 何故メイスなのか、と疑問に思ったが、この室内はともかく迷宮内は基本狭い。

 槍は環境的に取り回し辛い、短く軽い剣ではその圧倒的な膂力を生かしきれない。

 だからメイス、それはきっとコボルド達が長年かけて辿り着いた彼らなりの答えだったんだろう。


 迫るメイスを咄嗟に盾で受けたのは──結果的に見て失敗だった。

 打撃武器の衝撃は盾や鎧越しでも伝わってくる、衝撃に対して強い耐性を持つ鎧越しでもだ。

 ズキリと身体に痛みが響いた、何度も受けるのは危険だ。

 獣としての圧倒的な身体能力と人に似た思考能力、非常に厄介だ。半円を描くように包囲してくる。


 ──コボルド達の玉座の間を一陣の風が駆け巡った。

 半円を描き獲物を包囲していたはずの兵士コボルド達を、尻尾の様に変化した(・・・・・・・・・)外套が薙ぎ払った。黒く長大なその尻尾は、知識がある者が見れば竜の尾であると理解出来たはずだ。


 白かまきりから手に入れた虹箱の中身、「八王竜の外套」の効果のひとつだ。

 竜の身体の一部の様に変化し、自由自在に操る事が出来る。

 翼の様に変化させれば飛行を、尾や腕のように変化させれば圧倒的膂力で相手を吹き飛ばす。


『燃えろ』


 そして、竜の巨大な頭を再現すれば……全てを飲み込むブレスを放つ事も可能だ。

 外套から変化した竜の頭が、その口を大きく開いていく。

 開かれた咥内に魔法陣が浮かび上がる、竜は口の中に生み出した魔法陣でその吐息の威力を更に跳ね上げるのだ。魔法陣を通して生み出された光線が吹き飛ばされた兵士コボルドを消し飛ばしていく。


 だが、まだ俺もこの力を上手く使いこなせてはいないようだ。

 何体かのコボルドは難を逃れ、じりじりと後退しつつもこちらに武器を構えていた。


[炎色斑紋]


 その崩れかけていた前線を別の炎の嵐が洗い流していった。

 ようやく詠唱を完了させたドレッドノートの魔法が、竜のブレスによる難を逃れたコボルド達の魂を燃やし尽くしていく。嵐が過ぎれば……玉座に座った巨大コボルドが宝玉を噛み砕く音だけが室内に響き渡っていた。


 盾を前面に構えつつ、巨大コボルドの居る玉座に向かって歩を進めていく。

 奴を守っていた兵士コボルドも魔法使いコボルドも皆殺しにした。

 だが、戦況は全く変わっていないどころか……刻一刻と悪化しているように思えてならない。

 あの宝玉をこれ以上食べさせてはいけない──それは理屈を越えた何か、頭に響く警鐘だった。


 決意を固め、床に魔力を叩きつけ一気に加速した。

 前傾姿勢で滑るように玉座の間を駆けて行き一気に巨大コボルドに肉薄する。


 巨大コボルドの目が、俺を見据えた。

 ここに来てようやく宝玉ではなく、俺を見たのだ。


 奴はおもむろに玉座から立ち上がると、天へ向かって遠吠えをあげた。

 凄まじい爆音、衝撃が玉座の間を駆け巡りシャンデリアがぐらりぐらりと揺れ、調度品がいくつも吹き飛んだ。あまりの衝撃に盾がはじかれそうになったほどだ。あの重厚で長大な神秘盾がだ。


 咄嗟に盾に隠した顔を上げると……頭上に光の王冠を掲げ、漆黒の体毛に紫色の光を纏った化物コボルドがそこにいた。




 その迫力は凄まじく、古の冒険譚で描かれた──魔王を思わず連想してしまうほどの威容だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ